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接敵!
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午後の授業は職員会議のため短縮され、部活動も行われなかった。
帰宅部の俺にとってはあまり関係のないことだが、早く帰れるに越したことはない。
何故なら父さんの手紙の件をいち早く母さんに訊きたかったからだ。
俺は西日が差す中、寄り道することなく早足で自宅へと向かった。
「今日は母さん早番だったはず。もう家に帰ってきてるな」
途中、帰路を急ぐあまり周囲に気を配ることを疎かにしていたため何度か通行人に肩が当たったり、進路を遮ったりして怪訝な顔をされてしまった。
それでもお構いなしに進み続けた結果、通常より何分か早く自宅付近に到着した。
逸る気持ちを抑えることなく俺は自宅のドアを勢い良く開けた。
「ただいま! 母さん帰ってる?」
玄関で靴を脱ぎ散らかし、廊下を抜けると居間の方から確かに人の気配がした。
「なんだ母さん、帰ってたのかよ! お帰りくらい言ったらどうなの……」
俺の放った言葉は小さく木霊して消えた。
眩しいほどに茜色に染まった室内には母さんの姿はなく、俺の眼前に現れたのは全裸の少女だった。
そう、全裸の少女……。
「……全裸⁈」
目に痛い位の西日とともに網膜に差し込んできたものは見間違いなんかではない美しい女性の裸体だ。
俺は己の目を疑い、言葉を失い、呼吸をすることを忘却し、そして我に返り次の瞬間には体を反転させて叫んでいた。
「ごごごごごめんなさい! 家間違えました!」
慌てて玄関に走り込みドアを蹴破る勢いで開け表門の表札を目をこじ開けて確認する。
「……『神崎』、だよな。えっ! じゃあ、あの人だれ? 怖い怖い!」
脳内で恐怖と罪悪の念が混同し、俺が混乱していると背後から声がした。
「あら、春斗。靴も履かずに外で何してるの?」
聞き慣れた声のするほうに体を向けると正面には見慣れた母さんの姿がはっきりと見える。
俺は狼狽しながらも今しがた起きた事件についてしどろもどろになりながら報告した。
「やばいよ母さん! 大変! 家に不審者がいる! 知らない人、女の」
「不審者? ……ああ、ソフィアのことね。心配しないで」
「何言ってるの母さん! 通報しなきゃ!」
「ダメよ、通報なんかしたら。……少し落ち着きなさいな」
「だってさ……。ん? ソフィア?」
「そう、ソフィアよ」
「どこぞのソフィア?」
「留学生の」
「……も、もしかして、父さんの手紙の?」
「そう」
「……マジか‼」
俺の脳がやっと状況を把握した時には母さんは玄関のドアを開けていた。
恐る恐る家に入り直すとあの少女はやはりいた。
もう全裸ではなかったけど……。
帰宅部の俺にとってはあまり関係のないことだが、早く帰れるに越したことはない。
何故なら父さんの手紙の件をいち早く母さんに訊きたかったからだ。
俺は西日が差す中、寄り道することなく早足で自宅へと向かった。
「今日は母さん早番だったはず。もう家に帰ってきてるな」
途中、帰路を急ぐあまり周囲に気を配ることを疎かにしていたため何度か通行人に肩が当たったり、進路を遮ったりして怪訝な顔をされてしまった。
それでもお構いなしに進み続けた結果、通常より何分か早く自宅付近に到着した。
逸る気持ちを抑えることなく俺は自宅のドアを勢い良く開けた。
「ただいま! 母さん帰ってる?」
玄関で靴を脱ぎ散らかし、廊下を抜けると居間の方から確かに人の気配がした。
「なんだ母さん、帰ってたのかよ! お帰りくらい言ったらどうなの……」
俺の放った言葉は小さく木霊して消えた。
眩しいほどに茜色に染まった室内には母さんの姿はなく、俺の眼前に現れたのは全裸の少女だった。
そう、全裸の少女……。
「……全裸⁈」
目に痛い位の西日とともに網膜に差し込んできたものは見間違いなんかではない美しい女性の裸体だ。
俺は己の目を疑い、言葉を失い、呼吸をすることを忘却し、そして我に返り次の瞬間には体を反転させて叫んでいた。
「ごごごごごめんなさい! 家間違えました!」
慌てて玄関に走り込みドアを蹴破る勢いで開け表門の表札を目をこじ開けて確認する。
「……『神崎』、だよな。えっ! じゃあ、あの人だれ? 怖い怖い!」
脳内で恐怖と罪悪の念が混同し、俺が混乱していると背後から声がした。
「あら、春斗。靴も履かずに外で何してるの?」
聞き慣れた声のするほうに体を向けると正面には見慣れた母さんの姿がはっきりと見える。
俺は狼狽しながらも今しがた起きた事件についてしどろもどろになりながら報告した。
「やばいよ母さん! 大変! 家に不審者がいる! 知らない人、女の」
「不審者? ……ああ、ソフィアのことね。心配しないで」
「何言ってるの母さん! 通報しなきゃ!」
「ダメよ、通報なんかしたら。……少し落ち着きなさいな」
「だってさ……。ん? ソフィア?」
「そう、ソフィアよ」
「どこぞのソフィア?」
「留学生の」
「……も、もしかして、父さんの手紙の?」
「そう」
「……マジか‼」
俺の脳がやっと状況を把握した時には母さんは玄関のドアを開けていた。
恐る恐る家に入り直すとあの少女はやはりいた。
もう全裸ではなかったけど……。
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