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エピローグ(4)
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蒼はあたしの手を引いて、スタッフ用の狭い通路を抜け、建物の裏手に回った。
そこでは、すでに機材の搬出などが始まっていて、たくさんの人が忙しそうに出入りしていた。
そんな中、関係者以外立ち入り禁止、と書かれたドアの前に、桂木さんが立っていた。
桂木さんはイライラとした様子で左右を見回していたけれど、蒼の姿を見つけると、これ見よがしに大きな溜息を吐いた。
「まったく、どこに行っていたんだ、いきなり消えるから心配――」
言いかけた桂木さんは、蒼のとなりにあたしがいることに気づいて困ったような顔になる。
あたしが小さく頭を下げると、桂木さんは、苦笑いしながらどうもと言った。
「これから反省会と慰労も兼ねて、皆で飯でも食いに行こうかと話していたんだが……その様子だと、来いと言っても無理だろうな」
そう思わせぶりな口調で言われ、意味ありげな視線で眺められた蒼は、珍しく顔を赤くした。
あたしたちは、まだしっかりと手を繋ぎ合っていた。
「わかってるなら、野暮なこと聞かないでくださいよ」
「野暮で悪いが、俺はお前のマネージャーなんでね、タレントの行動を把握しておくのも仕事のうちだ」
言いながら、桂木さんはドアのノブをつかんだ。
「何かあったときに連絡くらいは取れるように、携帯の電源だけは入れとけよ」
そして、それに対して蒼が何か答える前に、桂木さんは重い鉄扉の中に消えた。
がちゃんと重い音がして扉が閉まると、あたしと蒼は、どちらともなく顔を見合わせた。
蒼は、少し照れたように鼻の横を掻いた。
「……気を使ったつもりかよ、あれでも」
「う、うん、…そうかも……」
なんと答えていいかわからず、あたしは曖昧に頷いた。
あたしは、コンサートの前に桂木さんに言われたことを思い出していた。
桂木さんは、あたしに、蒼の支えになってくれと言った。
コンサートを終えたばかりで、蒼はきっと体力的にも、精神的にも、ものすごく疲れているに違いない。
マネージャーである桂木さんとしても、早めに自宅に送り届けてゆっくり休めと言いたいところだろう。
けれども、桂木さんは、蒼をあたしに託してくれた。
気心の知れたスタッフに囲まれて労をねぎらうことでも、美味しいものを食べて体力を回復することでも、ベッドに潜り込んで鋭気を養うことでもなく、あたしと一緒にいることを許してくれた。
それは、あたしにとってすごく意味のあることに思えた。
平凡な中流家庭の娘が親の見栄で名門なんて呼ばれる明慶に通わせてもらって、でもあたし自身には別にこれといった張り合いもなくて、勉強も遊びも学校生活も適当にやって、今どきの女子高生なんてみんなこんなものだよって自分に納得させてたとこもあったけど、蒼と出会ってあたしは変わった。
あたしには、自らを犠牲にしてでも大事にしたいものがある。
そう考えたら、かえっていろいろなものを蔑ろにできなくなった。
何気なく過ぎていく1分1秒が、蒼と一緒の時間に繋がっている。
そう考えたら、どんな瞬間も愛しく思えるようになった。
蒼と出会えて良かった。
そう考えたら、今まで経験してきた出会いがすべて奇跡の積み重ねのように思えた。
蒼を大事に思うのと同じくらい、両親や妹や友達やあたしを取り巻くたくさんの人たちと、そして自分自身を思いやらなければいけない。
蒼との時間を大切に思うのと同じくらい、蒼と別々に過ごす時間も大切にしなければいけない。
蒼と巡りあえたことに感謝するなら、自分がこの世に生を受けてから、蒼と出会うまでの偶然の重なりすべてに感謝しなければいけない。
蒼を愛さなければ、あたしはきっと、これらの事柄に気づくことはなかった。
蒼との恋が、あたしを変えた。
少しだけ……ほんの少しだけど、大人になれたと、思う。
蒼は、あたしを助手席に乗せて、静かに車を走らせた。
2人とも、あまり口をきかなかった。
蒼が、その手の建物を前方に見ながらあたしに視線を向けたときも、あたしは黙って頷いただけだった。
ロビーには、室内の様子がパネルになって並んでいたけど、日曜の夜、部屋はほとんど塞がっていて、蒼はろくに見もせずに空室のランプが点いた部屋を適当に選んだ。
からんと音を立てて落ちてきたキーを取り、あたしたちはエレベーターに乗った。
蒼が目的の階のボタンを押すのを待ってから、あたしは背伸びをして、蒼の首に腕を回した。
蒼はあたしの腰を抱き寄せて、ちょっとだけ見つめ合って、あたしたちはキスをした。
お互いに溢れ出しそうなものを無理に我慢するような、ぎこちないキスだった。
絨毯の敷かれた廊下は、奇妙なほどにしんとしていた。
蒼は、キータグに書かれた数字と部屋の番号をちらりと確認して、ドアを開けた。
* * * * *
「蒼……」
部屋に入ったところで、あたしは蒼の背中に抱きついた。
いきなりそんな風にされた蒼は、ちょっと戸惑ったみたいだったけど、何も言わずに自分の身体の前で交差したあたしの腕を優しく撫でてくれた。
「今日の蒼、本当にすごくカッコよかったよ……」
「そう?」
例えば、どの辺が?
前を向いたまま、蒼はほんの少し笑いを含んだ声で聞く。
「何もかも、全部……あたしね、蒼の第一声が流れたとき、身体中に鳥肌が立った。会場の空気が一気に変わって、ものすごい興奮が渦を巻いて……あんなにたくさんの人の心が、一瞬にしてひとつになったのがわかったの」
ふぅん、と彼は頷く。
あたしは、さらに頬をぴったりとつけて、ぎゅっとしがみついた。
「ステージの上で、蒼は、みんなの大好きを一身に集めて、きらきら輝いてた……そのときね、あたし、蒼って、やっぱりすごい人だって、思った……」
蒼は、あたしの腕をいったん解くと、身体の向きを変えてあたしを見た。
「君の言うみんなの中には、君自身も含まれているのだろ?」
「もちろん、あたしだって蒼のことは大好き、だけど……あんなにたくさんの人の中じゃ、あたしの好きなんてすごくちっぽけだよ……蒼は、みんなに愛されてるんだから……」
言いかけたあたしの唇に人差し指を当てて、蒼は言葉の続きを遮った。
「みんな、なんて必要ない。俺には、藍だけいてくれればいい」
「あたし、ずるいの、欲張りなの、……蒼はアイドルで、日本中の人気者で、そんなあなたをあたしが独り占めするなんて絶対に無理だってわかってるのに、でも……」
「俺を、束縛したい?」
あたしは頷いた。
あたしは、本気でそう願っている。
蒼の笑顔も、優しい囁きも、甘い歌声も、全部、あたしだけに向けられたものであればいい。
「……俺ね、今まで、歌も演技も、自分がやりたいからやってきた。応援してくれるファンや支えてくれるスタッフのために頑張る、なんてのは建前で、結局は、自分が満足できればいいと思ってた」
蒼のその言葉は、桂木さんから聞かされたものと一致していた。
世間には、こういう言い方を傲慢だとか、自己中心的だとか、快く思わない人もいるだろう。
だけど、あたしは蒼が間違っていたとは思わない。
少なくとも、蒼はそれを原動力にして頑張ってきた、結果として今の彼があるのだから。
「でも、大事にしたい人ができて、その人は、俺の歌が好きだって言ってくれて、だったら俺、その人にもっと楽しんで欲しい、喜んでもらいたいって、思うようになった。俺の歌を聴いて、感動して震える彼女の姿が見たいって、思うようになった」
蒼は、片手であたしの頭を自分の方に引き寄せる。
あたしは、彼の胸に顔を埋める。
蒼のにおい。
愛しくて、狂おしくて、悩ましくて、涙が出そうなくらい大好きな人のにおい。
「俺はこれまで、なんて大切なものを蔑ろにしてきたんだろう……歌は、聴いて欲しい人がいて初めて生命が宿るもの、俺はやっと、その本質に気がついた」
あたしは何も答えずに、彼に抱きしめられたままでいる。
蒼はきっと、ちゃんとわかってる。
蒼の歌が、あたしのココロの弦を震わせるものであったこと。
あたしが、それをどれだけ嬉しく思ったのかも。
「たぶん俺、今までとは違った姿勢で世間と向き合っていけそうな気がする。自分が、鷹宮蒼であることの意味を、見つけられそうな気がする」
顎を支えて上向かされる。
そこで、彼の真摯な瞳をまともに見てしまう。
胸がドキドキして、苦しくて、一気に喉が渇く。
そして、蒼は言う。
「俺は、藍にそんな自分を支えて欲しいと思ってる」
コンサートの最中にあれだけ泣いたのに、またどばっと涙が出た。
蒼は、濡れたあたしの頬に口をつける。
溢れる涙を、柔らかなキスが拭っていく。
それがあんまり優しいから、あたしはさらに泣けてしまう。
「そんな風に泣かれちゃうと、解釈に困るな」
苦笑いしながら蒼が言う。
「まあ、今さら嫌だなんて言っても許しやしないけど」
ね、と首を傾げて見せる蒼。
嫌だなんて言えるわけない。
蒼と、いつまでも一緒にいたいと思っているのはあたしの方だ。
「あたしも……ずっとずっと蒼の側にいたい……」
それを聞いて、蒼はいかにも嬉しそうににっこりと笑顔になる。
「ありがとう」
あたしは少し恥ずかしくなって、俯きながら蒼のシャツを握る。
だって、お礼を言いたいのはあたしも同じ。
こんなあたしを、好きになってくれてありがとう。
あたしも、蒼のおかげで、自分が自分であることの意味を見つけることができたよって。
そこでは、すでに機材の搬出などが始まっていて、たくさんの人が忙しそうに出入りしていた。
そんな中、関係者以外立ち入り禁止、と書かれたドアの前に、桂木さんが立っていた。
桂木さんはイライラとした様子で左右を見回していたけれど、蒼の姿を見つけると、これ見よがしに大きな溜息を吐いた。
「まったく、どこに行っていたんだ、いきなり消えるから心配――」
言いかけた桂木さんは、蒼のとなりにあたしがいることに気づいて困ったような顔になる。
あたしが小さく頭を下げると、桂木さんは、苦笑いしながらどうもと言った。
「これから反省会と慰労も兼ねて、皆で飯でも食いに行こうかと話していたんだが……その様子だと、来いと言っても無理だろうな」
そう思わせぶりな口調で言われ、意味ありげな視線で眺められた蒼は、珍しく顔を赤くした。
あたしたちは、まだしっかりと手を繋ぎ合っていた。
「わかってるなら、野暮なこと聞かないでくださいよ」
「野暮で悪いが、俺はお前のマネージャーなんでね、タレントの行動を把握しておくのも仕事のうちだ」
言いながら、桂木さんはドアのノブをつかんだ。
「何かあったときに連絡くらいは取れるように、携帯の電源だけは入れとけよ」
そして、それに対して蒼が何か答える前に、桂木さんは重い鉄扉の中に消えた。
がちゃんと重い音がして扉が閉まると、あたしと蒼は、どちらともなく顔を見合わせた。
蒼は、少し照れたように鼻の横を掻いた。
「……気を使ったつもりかよ、あれでも」
「う、うん、…そうかも……」
なんと答えていいかわからず、あたしは曖昧に頷いた。
あたしは、コンサートの前に桂木さんに言われたことを思い出していた。
桂木さんは、あたしに、蒼の支えになってくれと言った。
コンサートを終えたばかりで、蒼はきっと体力的にも、精神的にも、ものすごく疲れているに違いない。
マネージャーである桂木さんとしても、早めに自宅に送り届けてゆっくり休めと言いたいところだろう。
けれども、桂木さんは、蒼をあたしに託してくれた。
気心の知れたスタッフに囲まれて労をねぎらうことでも、美味しいものを食べて体力を回復することでも、ベッドに潜り込んで鋭気を養うことでもなく、あたしと一緒にいることを許してくれた。
それは、あたしにとってすごく意味のあることに思えた。
平凡な中流家庭の娘が親の見栄で名門なんて呼ばれる明慶に通わせてもらって、でもあたし自身には別にこれといった張り合いもなくて、勉強も遊びも学校生活も適当にやって、今どきの女子高生なんてみんなこんなものだよって自分に納得させてたとこもあったけど、蒼と出会ってあたしは変わった。
あたしには、自らを犠牲にしてでも大事にしたいものがある。
そう考えたら、かえっていろいろなものを蔑ろにできなくなった。
何気なく過ぎていく1分1秒が、蒼と一緒の時間に繋がっている。
そう考えたら、どんな瞬間も愛しく思えるようになった。
蒼と出会えて良かった。
そう考えたら、今まで経験してきた出会いがすべて奇跡の積み重ねのように思えた。
蒼を大事に思うのと同じくらい、両親や妹や友達やあたしを取り巻くたくさんの人たちと、そして自分自身を思いやらなければいけない。
蒼との時間を大切に思うのと同じくらい、蒼と別々に過ごす時間も大切にしなければいけない。
蒼と巡りあえたことに感謝するなら、自分がこの世に生を受けてから、蒼と出会うまでの偶然の重なりすべてに感謝しなければいけない。
蒼を愛さなければ、あたしはきっと、これらの事柄に気づくことはなかった。
蒼との恋が、あたしを変えた。
少しだけ……ほんの少しだけど、大人になれたと、思う。
蒼は、あたしを助手席に乗せて、静かに車を走らせた。
2人とも、あまり口をきかなかった。
蒼が、その手の建物を前方に見ながらあたしに視線を向けたときも、あたしは黙って頷いただけだった。
ロビーには、室内の様子がパネルになって並んでいたけど、日曜の夜、部屋はほとんど塞がっていて、蒼はろくに見もせずに空室のランプが点いた部屋を適当に選んだ。
からんと音を立てて落ちてきたキーを取り、あたしたちはエレベーターに乗った。
蒼が目的の階のボタンを押すのを待ってから、あたしは背伸びをして、蒼の首に腕を回した。
蒼はあたしの腰を抱き寄せて、ちょっとだけ見つめ合って、あたしたちはキスをした。
お互いに溢れ出しそうなものを無理に我慢するような、ぎこちないキスだった。
絨毯の敷かれた廊下は、奇妙なほどにしんとしていた。
蒼は、キータグに書かれた数字と部屋の番号をちらりと確認して、ドアを開けた。
* * * * *
「蒼……」
部屋に入ったところで、あたしは蒼の背中に抱きついた。
いきなりそんな風にされた蒼は、ちょっと戸惑ったみたいだったけど、何も言わずに自分の身体の前で交差したあたしの腕を優しく撫でてくれた。
「今日の蒼、本当にすごくカッコよかったよ……」
「そう?」
例えば、どの辺が?
前を向いたまま、蒼はほんの少し笑いを含んだ声で聞く。
「何もかも、全部……あたしね、蒼の第一声が流れたとき、身体中に鳥肌が立った。会場の空気が一気に変わって、ものすごい興奮が渦を巻いて……あんなにたくさんの人の心が、一瞬にしてひとつになったのがわかったの」
ふぅん、と彼は頷く。
あたしは、さらに頬をぴったりとつけて、ぎゅっとしがみついた。
「ステージの上で、蒼は、みんなの大好きを一身に集めて、きらきら輝いてた……そのときね、あたし、蒼って、やっぱりすごい人だって、思った……」
蒼は、あたしの腕をいったん解くと、身体の向きを変えてあたしを見た。
「君の言うみんなの中には、君自身も含まれているのだろ?」
「もちろん、あたしだって蒼のことは大好き、だけど……あんなにたくさんの人の中じゃ、あたしの好きなんてすごくちっぽけだよ……蒼は、みんなに愛されてるんだから……」
言いかけたあたしの唇に人差し指を当てて、蒼は言葉の続きを遮った。
「みんな、なんて必要ない。俺には、藍だけいてくれればいい」
「あたし、ずるいの、欲張りなの、……蒼はアイドルで、日本中の人気者で、そんなあなたをあたしが独り占めするなんて絶対に無理だってわかってるのに、でも……」
「俺を、束縛したい?」
あたしは頷いた。
あたしは、本気でそう願っている。
蒼の笑顔も、優しい囁きも、甘い歌声も、全部、あたしだけに向けられたものであればいい。
「……俺ね、今まで、歌も演技も、自分がやりたいからやってきた。応援してくれるファンや支えてくれるスタッフのために頑張る、なんてのは建前で、結局は、自分が満足できればいいと思ってた」
蒼のその言葉は、桂木さんから聞かされたものと一致していた。
世間には、こういう言い方を傲慢だとか、自己中心的だとか、快く思わない人もいるだろう。
だけど、あたしは蒼が間違っていたとは思わない。
少なくとも、蒼はそれを原動力にして頑張ってきた、結果として今の彼があるのだから。
「でも、大事にしたい人ができて、その人は、俺の歌が好きだって言ってくれて、だったら俺、その人にもっと楽しんで欲しい、喜んでもらいたいって、思うようになった。俺の歌を聴いて、感動して震える彼女の姿が見たいって、思うようになった」
蒼は、片手であたしの頭を自分の方に引き寄せる。
あたしは、彼の胸に顔を埋める。
蒼のにおい。
愛しくて、狂おしくて、悩ましくて、涙が出そうなくらい大好きな人のにおい。
「俺はこれまで、なんて大切なものを蔑ろにしてきたんだろう……歌は、聴いて欲しい人がいて初めて生命が宿るもの、俺はやっと、その本質に気がついた」
あたしは何も答えずに、彼に抱きしめられたままでいる。
蒼はきっと、ちゃんとわかってる。
蒼の歌が、あたしのココロの弦を震わせるものであったこと。
あたしが、それをどれだけ嬉しく思ったのかも。
「たぶん俺、今までとは違った姿勢で世間と向き合っていけそうな気がする。自分が、鷹宮蒼であることの意味を、見つけられそうな気がする」
顎を支えて上向かされる。
そこで、彼の真摯な瞳をまともに見てしまう。
胸がドキドキして、苦しくて、一気に喉が渇く。
そして、蒼は言う。
「俺は、藍にそんな自分を支えて欲しいと思ってる」
コンサートの最中にあれだけ泣いたのに、またどばっと涙が出た。
蒼は、濡れたあたしの頬に口をつける。
溢れる涙を、柔らかなキスが拭っていく。
それがあんまり優しいから、あたしはさらに泣けてしまう。
「そんな風に泣かれちゃうと、解釈に困るな」
苦笑いしながら蒼が言う。
「まあ、今さら嫌だなんて言っても許しやしないけど」
ね、と首を傾げて見せる蒼。
嫌だなんて言えるわけない。
蒼と、いつまでも一緒にいたいと思っているのはあたしの方だ。
「あたしも……ずっとずっと蒼の側にいたい……」
それを聞いて、蒼はいかにも嬉しそうににっこりと笑顔になる。
「ありがとう」
あたしは少し恥ずかしくなって、俯きながら蒼のシャツを握る。
だって、お礼を言いたいのはあたしも同じ。
こんなあたしを、好きになってくれてありがとう。
あたしも、蒼のおかげで、自分が自分であることの意味を見つけることができたよって。
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