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第5章 少年期〜青年期 学園4学年編
40話 “大会最終日12・降りて来た・・・“
『ありがとうアトリーちゃん、次はちょっと体を貸してね?』
「へ?」
突然、頭の中で聞き覚えのある声がしたと同時に、僕の体の感覚は遠くなり、意識だけが目に映っている景色をただ呆然と見ているだけの状態になってしまった。例えるのなら、真っ暗になった映画館で、上映されている映画の世界観に入り込んで、他のことを気にせず夢中になっている、そんな感覚だ。
(おぉ~、ティーナちゃんに体を貸すのは初めてだなぁ~、しかし、これから何するんだろう???(・・?))
と、そんな緊張感のかけらも無く、今から起ころうとしている事をボーッと傍観するのだった・・・
とある第三者 視点
それは急な事だった・・・
“国際武闘大会“の最終日に突如起こった襲撃、“大会“の出場者を人質に“大会”を観戦に来ていた、“神々の愛し子“で有名な“ウェルセメンテ王国“の公爵家令息、“アメトリン・ノブル・デューキス“様を脅し、以前、その“愛し子様“がリトス教を通じて急に公表した、“聖獣は獣人の先祖では無い“と言う、今まで獣人達が信じて来た説を真っ向から否定する公式な発言と“複数の獣人国家が大々的に崇めている“神獣“はただの聖獣であって、“神獣“になり得る事もない“、と言う、信仰まで否定した発言の撤回を求めていた。
そんな、一部の獣人達の熱狂的な信仰心を否定された事での憤りから起こした襲撃に、偶然巻き込まれてしまった、たくさんの無関係な人達の大半の反応は、
“「自分達は関係ないだろ、巻き込むなよ」“と言うものや、
“「“神々の愛し子“が直接、神々から聞いて発表したなら真実だろ?受け入れろよ」“
“「わざわざこんな所で、人質とってまでやるなよ」“と言うような批判が多く、
襲撃を行った獣人達を批判するもの達の大半が、今回の“大会“を楽しみにしていた帝都に住む獣人族以外の種族だった。
確かに、リトス教を信仰する人族が多い帝国の市民達、特に人族達は“愛し子様“のその発言にこれと言った反感など持たず、“「そう言う事だったんだな」“ぐらいの認識ししかなかったものだったが、帝国に最近移り住んできた獣人達や一部地域で信仰されている“神狼教“を崇めていた人族には、どうやら衝撃的な事だったようで、特にその“神狼教“を崇めていた人達はかなり過剰に反応を示していた。
一方、帝国で世代を重ね生まれ育ってきた獣人達の中には、隣国の“獣人国家の王族“の間で言い伝えられて来ていた、“「“獅子の神獣様“は我が王国の王家の先祖である」“と言う、一部の王侯貴族内での伝承に懐疑的な者達が多く、先のその発表を聞いて、逆に“「あぁ、やっぱりなぁ」“と言う反応をしていたのはとても印象的で、今回の襲撃を起こした獣人達にも“「何やってんだ」“と言う厳しい視線を向けていた。
でも、その騒動が進んでいくつれ、襲撃者達の要望に応えた“愛し子様“が、美しい神の御使様かと見間違うかの如く神々しい出立ちで降りて来たかと思うと、地上で待機していたと思われるご友人達があっと言う間に人質を奪還した。
その後すぐにあったやり取りで多少、いや、かなり気になる発言を聞いたが、襲撃者達は自分達のやる事を思い出し、“愛し子様“達を結界で閉じ込めてしまった。そして、そこでまた、襲撃者達は結界から出して欲しければと、脅すように自分達の信仰を否定した発言の撤回を要求していた、その襲撃者達の脅しを含んだ要求を“愛し子様“は真っ向から拒否、さらに彼らの主張の数々を否定、その後の煽りとしか言えない発言に襲撃者達は、ついに強行に出た。
それは脅迫の為に元々用意していて、奪還されてしまった人質の代わりとばかりに宣言して、何かしようと魔道具を操作したが、最初は不発だったようで、“愛し子様“と何かやりとりをした後に、また何か操作をして出て来たのが本来ここに出てくることなどない魔物だった。
その魔物の出現に周囲は驚き、叫び声をあげていたが、出て来た魔物が一体だった事と、“闘技場“の結界の安全性を知っていたため、慌てて逃げる事はほどではなかったが、それより結界内にいる“愛し子様“を心配する声が多く聞こえてくる。そんな中、襲撃者は優越感に浸るような発言をしていたが、その魔物をすぐに魔法攻撃一つで“愛し子様“が倒してしまった。
その行動に誰もが驚いていると、襲撃者は悔しそうに何かを言ってまた何か操作して、次に出して来たのは大量の魔物達、今度は舞台上の結界の中だけではなく、その結界の外の周囲にもたくさんの魔物達が出現したことで、一般の観客達は身の危険を感じ、警備兵が落ち着くように声をかけるが、恐怖で我を忘れた人々は、その声を無視して次々と“闘技場“の外へ出られる出入り口に殺到し、我先にと逃げ出していく。
一方、結界内では、これまでとても冷静に対処していた“愛し子様“が襲撃者達に言われた心無い言葉に、ついに怒りを露わにされて、ご自身の周囲に張り巡らされていた結界を、脆いガラス板のように簡単に壊してしまった。
その事に、誰もが驚いてはいたが、“愛し子様“を完全に侮っていた襲撃者達は観客達より大袈裟に驚いていた。
それでも、襲撃者達は“愛し子様“のお力が魔法に特化しているだけだろうと侮り、ひ弱だと更なる侮辱を続けた。その結果、怒りの頂点にきた“愛し子様“が彼らを言葉で煽りに煽って、一見ご自身が不利に見える賭けを申し出た時には、まだ逃げ切れていなかった観客達が、心配したり、これまでに出回っていた噂を口にして、期待するような会話をしていた。
そんな観客達の会話が聞こえていないのか、まだ、“愛し子様“を侮ったままの襲撃者達が申し込まれた賭けに乗ったことで状況が一変する。
賭けの申し込みを受け入れられたと確認した“愛し子様”が、急に強い光を放った、その強い光に驚きつつも耐えれなかった全員が目つぶり、数秒後に光が弱まったのを感じて目を開けた時には、なぜか“愛し子様“の着ていた服が全く別の物になっていた事に全員が更に驚いた。
でも、“愛し子様“はこの変化に当然のように気にしておらず、魔物達を相手にすると言う意思表明なのか、戦いの構えをとって手招きをしていたのだが、魔物達を出した張本人達である襲撃者達は、この驚きの現象には“愛し子様“が何かカラクリを仕込んでいて、これからの賭けに対して優位になるものではないか?と不正を疑ったりと、とても失礼なことを言っていたが、“愛し子様“はそんな襲撃者達相手にも、丁寧にこの現象の原因を説明していた。
その説明に全員が納得した所で、“愛し子様“が唐突に動いた、それは本当にあっという間の出来事だった、召喚されていた魔物達の一体が“愛し子様“目掛けて襲い掛かろうとしていた所に、“愛し子様“が気合い一つ入れて正拳突きを繰り出した。すると、その鋭く素早い拳打を避ける事なくまともに受けた魔物が、凄い打撃音と共に横に吹き飛び、“闘技場“の壁にヒビを入れるほど勢い良くぶつかり、観客席の一部が揺れ、壁が少し崩れると同時に魔物が霧となって消えていった。
あんな小さな体のどこから、あんな力が出て来ているのか、誰もが予想外の出来事に驚きを露わにして、様々な憶測を話し合い出した。観客達は“愛し子様“の力に関する噂は事実だったとか、これは血筋から来た物だとか、はたまた加護を得た“愛し子様“だけの特別な力だとか、色々と言っていたが、反対に襲撃者達は目の前で起こった事を信じたくないと言った感じだった。
そんなざわめきの中、“愛し子様“は次々に周囲の魔物達は倒し始め、襲撃者達は倒されていく魔物達を見て焦って、新たなる魔物達を次々召喚させる、そんな事がしばらく続き、逃げようとした観客達はその“愛し子様“の力を見て、自分達は安全だと思ったのか、その場で立ったまま、呆然と“愛し子様“の戦いっぷりに目を奪われていた。
だが、そんな軽快な戦いっぷりもとうとう終わりに近づいたのか、徐々に出てくる魔物が少なくなり、その事でなのか分からないが襲撃者達の間で何やら揉め始め、“愛し子様“もその事に気づいたのか、少し周囲を気にし始めるようになった。
すると、“愛し子様“の友人らしき1人の少年が“愛し子様“に話しかけて、2人が何やら会話をしてが動きを止めたその時、襲撃者の1人が“愛し子様“に対して、自ら攻撃を加えた。
その様子を見た観客達は、とうとう襲撃者達が自らの手で“愛し子様“と戦い、決着をつけるつもりなのか?と思い、緊張感が高まったのだが、襲撃者達はそんな緊張感に包まれた観客達を更なる混乱と恐怖に陥れた。
襲撃者の中心と思わしき鳥の獣人の指示に従った人族の襲撃者の1人が、警告とともに呼び出したのは魔物達の中の頂点と言っても過言では無い、最強の魔物“ドラゴン“だった、それも、ドラゴン種の中でもっと凶暴で攻撃力が高いとされる“赤炎竜《レッドフラムドラゴン》“だったのだ・・・
そして、その“ドラゴン“の出現により、先程まで次々倒されていく様を傍観していた観客達が再び身の危険を感じ、恐れ慄き、叫びながら必死にその場から逃げ出そうとし出した。
“闘技場“全体に避難の指示が出て、舞台のある競技場にいる帝国兵や騎士団なども、危険を感じ慌てて退避をし始めていたが、このドラゴンに1番近い“愛し子様“と友人らしき少年2人の表情には、なんの恐れや焦りの感情がなく、むしろ何処か楽しそうな顔をしていた。平然と会話を交わし、出て来たドラゴンを観察する余裕さえうかがえた。
その2人に気づいたドラゴンがご友人の方を踏み潰そうとしたが、軽く避けられてしまい、大きく避けたご友人は反撃する事なく、そのまま舞台の上からいなくなった。その様子に誰もが次は“愛し子様“が狙われ、大怪我をするのでは?と心配した矢先に、“愛し子様“は軽く飛んだと思ったら、そのままドラゴンの横顔を殴り飛ばしたのだ、ドラゴンはその攻撃を受けて、物凄く痛そうな叫び声をあげて仰け反った光景を見て、誰もが自分の目を疑った事だろう、あの、金属の塊より硬いとされる外皮に包まれたドラゴンの頬を、さもただの人の頬を殴るかのような軽快さで、殴り飛ばしたのだから、その光景を見た誰もの頭は理解が追い付かず、なんの言葉も表現も動きさえも止めて、ただ、呆然と目を見開き立っていた。
そんな観客達の反応すら気にする様子もなく、“愛し子様“は自らドラゴンの気を引くために大きな声でドラゴンに声をかけた、ドラゴンもその声に反応し、今、自分を攻撃したのが誰か理解したのだろう、怒りに任せて“愛し子様“目掛けて歩き出すと同時に大きく息を吸い、炎のブレスを放った。
そのブレスを見た人達は流石に“愛し子様“でも、あの無防備な装備のままではタダでは済まないだろうと思い、誰もが“愛し子様“の心配し無事を祈り、息を呑んで見つめた。
でも、それはほんの数秒だけの心配で済んだ、なぜなら、“愛し子様“はその炎のブレスをはくドラゴンに向かって走りながら、物凄く軽い感じで避け、あっという間にドラゴンの横に移動して、これまた物凄い軽い感じでドラゴンの脇腹を飛び蹴りで攻撃した、そして、その攻撃を受けたドラゴンはなんの冗談なのだろうか?と思うほど勢いよく上に飛んで行き、結界の天井にめり込んだかと思うと、情けない声を1つあげて霧となって消えて行った・・・
しばらく、誰も声をあげず、静まり返った中に、“愛し子様“の呟きが響いた、
“愛し子様“「ふぅ、意外と打撃に弱いな、“レッドフラムドラゴン“」
すると、それを聞いた全員が、一斉に“愛し子様“にツッコミを入れたのはこれが最初で最後の歴史的瞬間だったと、後の人達に語り継がれる事になった・・・そして、“愛し子様“そんな事を少しも気にしていなかったのがまた印象的であった・・・
「こんな、不敬罪になってもおかしく無い事だったのに、“愛し子様“は全く気にしてないな・・・」
そんな言葉が漏れ聞こえてくる所に、襲撃者達の周囲に急に人が増え、何やら仲間内で揉め始めていた。
新たに出て来た襲撃者達に、また“愛し子様“侮辱され始めているのを、わずかに逃げ遅れて残った観客達が顔を顰めて見ていると、それまでそんな彼らの侮辱を黙って聞いていた“愛し子様“が、急に近くに来ていた“聖獣様達“相手に話し始めているようで、襲撃者達はその様子を妬ましげに睨みつけていた。“愛し子様“はそんな視線に気づいていないが、その彼らを見て、まだ“闘技場内“に残っていた観客達は、彼らが何故あそこまで“愛し子様“を目の敵にしているのか、なんとなく察した。
「嫉妬しているんだな・・・」
「自分達が崇め祀っている“聖獣様“、いや、“神獣様“はそう易々とお目にかかれないらしいし、ああも親しげに触れ合うこともないだろうからな・・・」
「あの方々の近しい関係が羨ましくて仕方ないのか・・・」
「・・・でも、それは、あの方々の今まで築いてきた信頼関係があってこそのものだろう?獣人達は“聖獣様“を一方的に神聖視して、崇めた、自ら互いの触れ合いを制限したのに、今更その関係性を妬むのはお門違いじゃないか?」
「そうだよな・・・いくら、“愛し子様“が彼らの信仰を否定することを言ったからと言って、それは神々が言った真実なんだから、嘘ではないんだ、“愛し子様“が迂闊に発言したとしても、その事に対しての彼らの主張はただの言いがかりじゃないか?」
と、そんな囁きのような会話が広がっていったその時、“愛し子様“が不意に動き、祈りの体制をとった。すると、
“愛し子様“「“神々に請われ、ここを浄化の光で満たし、全ての汚れを祓い清め、聖域をなさん“浄化《ピュリフィケーション》“」
パァァァーーーー・・・・サァァーーー・・・・
「「「「「!!!???」」」」」
透き通る様な幼く美しい声で詠唱された魔法は周囲を清々しくも優しい光で満たした。その優しい光は競技場に転がっていた魔物達の遺骸を砂の様に変え、消し去った。そして、遺骸の周囲にあった飛び散った血や泥の汚れも綺麗に消し去り、この場を清浄で神聖な場所へと変えて行った・・・
今までに感じた事のない清々しい空気に気を取られていると、いつの間にか、“愛し子様“に異変が起きていた。
「な、なんだ?・・・“愛し子様“が・・・」
再び、光に包まれた“愛し子様“に全ての注目が集まり、全員がその様子を見ていると、光が収まり始めて姿を現した“愛し子様“を見た瞬間、
「「「「「っ・・・・!!??」」」」」
全ての人達が、無意識に膝をつき、威圧感に息をするのを忘れた。
(あ、あれは誰だ!?“愛し子様“ではない!?・・・あ、あれ、いや、あの方は・・・“女神“?・・・)
“愛し子様“の纏められていた髪は解け、美しい白銀の髪が美しく広がり、まだ薄っすら光るご自身の光でキラキラと煌めいて、先程までの動きやすそうな服装から、今は伝承に残る、古代の巫女姫が纏っていたような薄衣の衣装を身につけ、宙を揺蕩う様に浮いている。
自分の目に映っている“愛し子様“は、目は瞑っているが、その姿形は確かに“愛し子様“であると分かるのに、あの方が今纏っている周囲の空気感というか、気配、オーラ?と言うものが、あの方は今、別人だと自分の本能が言っている。
そんな不思議な感覚が、正しいと分かったのは、あの方が瞑っていた目を開いた時に確信した。
すぅー・・・・ 「「「「「ぅ!!!???」」」」」
(・・・い、“愛し子様“の瞳の色が・・・次々変わっていく・・・あの方に“主神様“が降りてこられた!!・・・)
そう確信し、驚き以上に歓喜に震えた。それは、リトス教の経典にも記されている、“主神リトスティーナ様“の特徴と一致したからだ、歴代の神託の聖女や聖人でも、数えるほどしか神を下す事はできていない“お方“で、その降臨も主にリトス教の総本山がある“イエロザーパト聖教国“の大聖堂でしか、お目にかかる事はできない光景であることで、この場にいる全ての人達は感動に打ち震えている事だろう。
こんな幸運とも言える光景に誰もがただ息を潜め見守っていると、あの“お方“が襲撃者の獣人達を見据え、口を開いた・・・・
“主神リトスティーナ“「『私は、其方達に真実と警告を伝えるために、今、ここに舞い降りた、覚悟せよ・・・・』」
「「「「「!!!?」」」」」
そう伝えたと同時にあの“お方“は両手を前に突き出し、その手の間に眩い光の球を作り出した、その光の球は急速に大きくなっていき・・・・
(な、何が起こるんだ!?)
この時、僅かな怒りを含んだあのお方の固い声が耳に残って、今起こっている現象から、言い知れない不安を感じていたが、逃げることもできずただ見守ることしかできなかった・・・
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