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第二十二話 指名手配真獣ファフニール

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 ナナミさんは相変わらず、手にした鉱石と睨めっこしながらダンジョンを進んでいる。

 何度かほんのりと光るけれど、その度に低階級真獣が現れるばかりだ。
 やっぱり低階層ではお宝は取り尽くされてるんじゃないのかな?時間で復活するとはいえ、そんなにすぐではないだろうし。

 ……暇だ。

「ナナミさん、だんだん足元悪くなってきたし、それは俺が持ってますよ」

 ナナミさんの手のひらから、ひょいと鉱石を取り上げる。

「あ……」

「どうやって使うんですか?握ってればいいのかな?」

 ん?鉱石に少し『色』が見える。そうか、これもダンジョン産だからな。
 
 あ、だったら、もしかして……。

 俺は頭に浮かんだアイデアを、早速試してみる。

 ――【真眼融合】

 鉱石の色を、俺と同色まで変化させる。鉱石は溶けるように俺の手のひらに広がり、グローブ状になって一体化した。

「おお……やっぱり」

 鉱石のグローブから光が放たれ、それが空中で像を結ぶ。映画とかでよく見るホログラムのように、立体的な図形が現れた。
 この形は……間違いないな。
 俺は、入口でもらったダンジョンの地図を広げる。立体と平面の違いはあれど、この鉱石グローブが映し出しているのは間違いなく、このフロアの全面マップだった。

「……!!すごい……」

 ナナミさんも、俺が説明せずともこれが何かを理解したようだ。

 俺の【真眼】は、ダンジョン産アイテムの色を俺自身に合わせることによって、融合してその特性を最大限発揮させる。
 今回は、鉱石の持つお宝レーダーの特性が拡張されたってことだろう。
 
 いやぁ、すごい便利だな俺のギフト。やたら疲れるのが玉にキズだけど。

「マップ上に、何ヵ所も光っている点がありますね。これが宝かな?……いや、全部動いてる。これは真獣っぽいですね。……さっきから思ってたんですけど、これお宝レーダーの割には真獣ばっかりに反応しますね」

「……それほど精度はよくないのでしょう」

 確かに、仮に真素エネルギーを検出しているなら、真獣と宝の区別はつかないかもしれないな。……でも、このマップには動いていない反応が無いんだけど……宝が一個もないってことなのかな。

 ちょっと、ナナミさんが目を逸らしたのが気になるけど。

「?少し、光の大きさが違いますね」

 ナナミさんがふと呟いた。

「うーん。真獣の強さを表しているんじゃないですかね。……多分このすっごいゆっくり動いてるのがゴーレムだと思うんで、その光のサイズを基準に考えると……他のは同等かそれ以下……つまり一階級ですね」

「なるほど……ここにはいないようですね。ではミスターK、次の階に行きましょう」

「あ、はい。そうですね」

 ……ん?今、ここには「いない」って言ったか?気のせいかな?



 ◆◆◆



 次の階でも、俺は鉱石グローブを作動させる。

「……この階も、真獣ばかりですね。お宝はなさそうです」

「光の強さは……やはりゴーレムと同等程度ですね。わかりました、次に行きましょう」

 ……なんだろう。ナナミさん、お宝探しをしているというよりは、なんだか真獣探しをしているような……?


 

 そんなことを繰り返しながら、俺たちは地下八階に到達した。
 途中、いくつか動かない光があったので向かってみたけど、それはどれも真獣の死骸だった。
 真獣は死んでも真素エネルギーを保持しているようだ。まぁ真装具も真素エネルギーを持っていることを考えれば当然だけど、今は実に紛らわしい。

「さて、ここはどうかな」

 鉱石グローブを起動する。
 だが、やはりうろうろする真獣が多数映し出されるだけだった。

「……どうしましょうか?ここも、変わり映えしないようですけど」

「そうですか。……あ。光が乱れているところがありますね」

 光が、乱れている?
 ナナミさんが指差すところを見てみると、いくつかの光が集中しているところがあって……確かに、その光はどれも、小刻みに動いている。

「これはもしかしたら……戦闘中?さっきの高杉アキラのチームがここにいるのかも」

「そうかもしれませんね……では、どうでもいいです」

 ナナミさんはまるで関心がないようだった。
 ふいっと、次の階につながる道へと身体を向けたところで……

 フロア全体が、突如大きく揺れた。

「きゃあ!?」

「なんだ!?」

 なんとか両足で踏ん張って転倒は免れる。
 ……かなりの揺れだったぞ。一体何が……ん?

「なんだ?マップに、突然巨大な光が……!!」

 鉱石グローブが映し出す立体マップに、今までのとは比較にならないほど大きな光が出現していた。
 なんだこれは。動いているとこから見て、真獣なのは間違いないけど……。
 仮説通り、光の強さが真獣の強さを表すのであれば、こいつはマジで別格だ。
 
 出現した位置は……さっきまで、複数の光が小刻みに揺れてたところだ。つまり……。

「ナナミさん!!マズいです!高杉チームのいる場所に、かなりヤバいやつが出現したみたいです!!」

 俺の叫び声に、ナナミさんは反応を返さなかった。代わりに、ぼそっとつぶやくのが聞こえた。

「見つけた……!!」

 

 ◆◆◆



 ――一体、なんなんだ、コイツは……!?

 高杉アキラは、目の前に広がった光景に、驚きが隠せなかった。
 
 何匹かの雑魚真獣を掃討したところで、突如発生した地震。
 それと同時に、近くの空間が歪んだ。

 空中に発生した、大きな渦潮のようなものから現れたのは……
 

 全身が炎に包まれた、巨大な竜。

 指名手配真獣ネームド、【豪炎竜】ファフニールだった。
 

 高杉アキラは、自身の情報網から、先日このダンジョンにファフニールが現れたことを掴んでいた。

 ファフニールに限らず、ネームド指定されている危険な真獣は不思議なことに、ダンジョンを跨いで発見報告があり、ダンジョン最大の謎の一つとされている。
 
 突如として予想だにしない強力な真獣が現れることは探検者にとって脅威であり、ダンジョン探索を難しくする要因になっている。
 
 しかし今回の発見報告は、高杉アキラにとっては大きなチャンスと思えるものだった。

 普通の【豪炎竜】で四十階級のところ、通常よりも戦闘力が高いネームド、ファフニールは、実に五十階級と推定されている。

 そんなファフニールを討伐すれば、間違いなく自分は一級探検者になれる。高杉アキラはそう考えた。

 だが。

 ――まさか、ファフニールが……五十階級相当の真獣が、これほど強大だったとは……!!

 すでに五人の仲間が、防具を消し炭にされ、地に横たわっていた。

 ファフニールの炎対策として、チームメンバー全員に炎耐性の防具を身につけさせていたのに、なんの意味もなかった。レベルが違ったのだ。

 ――もう、ネームド討伐ミッションなんかで競っている場合ではない……!に、逃げなければ……!!

 だが、足が動かない。
 迫り来る圧倒的な恐怖に、体はただ小刻みに震えるばかりだ。

 竜の口が、再び大きく開かれた。
 間違いなく、アキラを狙っていた。

 ――死ぬ……?

 並んだ鋭い牙の奥に、紅蓮の輝きが現れる。

 猛烈な爆風を伴って、それは放たれた。

 「う……うわあああああああ!!!」

 アキラは絶叫した。かろうじて、絶叫することだけが出来た。

 迫り来る光弾の放射する熱が、もうアキラの全身を包み込んでいた。

 どんっ

 突然アキラは、自分の身体が突き飛ばされたのを感じた。受け身も取れず、そのまま地面を転がっていく。

「……カエデ!?」

 カエデが、さっきまでアキラが立っていた場所に居た。

「に、逃げろ!逃げるんだ!!」

 地面を這いながら、アキラはカエデに手を伸ばす。

 だが……

 想い虚しく、カエデに火球が直撃する。

 まるで水風船のように、カエデの体は弾けた。

 なんら勢いを削がれることなく、火球はそのまま後方の壁に着弾し、大爆発を起こす。
 
 一瞬で焼け付いてしまったのだろうか、カエデの肉片は黒い煙のようになって、遅れてきた爆風によって空にかき消えた。

「う、あ、あ……」

 あまりのことに、アキラは動けなかった。

「うああああああ!!!!カエデーーーーー!!」

 自分のせいだ。自分が、こんな計画を立てなければ。自分が、ネームドを甘く見なければ。

 そんな後悔が、アキラを襲う。

 もう、力が入らなかった。


 
「……アキラ?私は、ここにいるよ!?」

 唐突に聞こえてきた声。
 這いつくばったまま声の方を向くと、そこには無傷のカエデの姿があった。

「え?」




「……今の、彼女の姿でやる必要ありましたか?」

「いや、彼だって謎の覆面男に救われるよりは、女の子の方がいいでしょう?」

「結果、トラウマ映像を見させられてるじゃないですか。あれなら変態覆面男が弾け飛んだほうが百倍マシでは?」

「それは……そうですね。ごめんなさい。……あれ?今変態って言いました?」


 ――【真獣技・影人形】

 視界に入った影に質量を持たせ、立体化して意のままに操る、四十五階級の真獣【黒梟獣】の技。
 


 呆然とするアキラの頭上を、白と黒の二つの人影が飛び越えていった。
 






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