神様のお導き

ヤマト

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4話目!薫の章 硝子の中の景色

4-7

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 薫さんの強気な発言に、それまで鬼たちの中で一人だけその場から動かず、悠々と酒を飲んでいた鬼が愉快そうに笑った。
「ガッハッハッ! 良いねぇ、気に入った!」
 そう言って立ち上がる彼を、他の鬼たちは大層驚いたように見上げ、彼が通れるように横一列に並び道を作った。この敬意と畏怖する鬼たちの態度でわかる。この鬼は、この鬼たちのトップだ。
 その鬼は他の鬼よりも更に大きく、薫さんと比べると身長も倍あって、常人ではとても敵う相手ではないとひと目でわかった。
 薫さんは自分より遥かに大きいその大鬼を見上げ、相変わらず冷めた態度で彼に尋ねた。
「気に入った、ということは、この条件、飲んでくれるんですね?」
「おう! いいぜ。鬼のプライドを賭けて、オレとタイマンでオマエが勝ったら、いつでもここを通してやる! ただし、お前が負けたら――」
 そうだ。勝つことばかり考えていて、負けた時のことを全然考えてなかった。それでも薫さんの頭には負けと言う言葉はないのだろう。どんな条件が来ても、うんと首を縦に振るつもりだ。
「――オマエを一生奴隷としてこき使う。良いな?」
 大鬼の提示下条件は、決して生易しいものではなかった。それでも薫さんは一瞬の迷いもなく、すぐに首を縦に振った。
「かまいませんよ。負けるつもりは毛頭ないので」
「ガッハッハッ! いいねぇ! 見た目の割に漢気があるじゃねぇか!」
 男気というか、薫さんの行動はもはや脳筋に近い。薫さんがこんなにも好戦的だとは思ってもみなかった。でも、次回から僕らが一人でもここを通れるように図ってくれたつもりなのだろう。冷たいようで、何だかんだ僕らのことを考えてくれる薫さんの優しさに、少し胸がじんわりと熱くなった。
「さて、ちょっと待ってな!」
 大鬼は、周りの鬼たちに、先程まで飲んでいた酒や椅子を片付けさせ、ちゃんと戦いやすいフィールドを作ってくれる。鬼たちはすっかり高揚してしまったようで、薫さんと大鬼を囲むようにして、ワッと声を上げて盛り上がっていた。僕と小鬼も、その鬼たちの隙間になんとか入り込み、これからどうなるのかを一緒に見守った。

「準備は出来たか!?」
「えぇ、こちらはいつでも構いませんよ」
 大鬼は自身の体に見合った、大きな金棒を担いでいた。対する薫さんは特に武器を構えるわけでもなく、ただそこに棒立ちしているだけだった。
「オマエ、武器も構えねぇとは魔法使いか? まぁ何だって良い。準備が出来てるなら始めるぜ」
 大鬼は審判役の一人の鬼に目で合図をし、勝負を始める掛け声を待った。鬼は大きく右手を上げて、空を切るように上から下へと手を降ろした。それと同時に勝負開始の合図の号令が叫ばれた。
「勝負開始ッ!」
 勝負が始まるや否や、グワッと熱気の帯びた鬼たちの歓声が上がる。だが、その歓声は一気に動揺の声へと変わるのだった。
「な、なんだ!?」
「やべぇ、離れろ!」
 薫さんの周りの空気が刃のように鋭く風を切り、薫さんを取り囲むようにして砂埃を上げて風を巻き起こしている。それは何かが触れただけでも粉々にしてしまうほどの威力で、薫さんの近くにいた者は、全員遠くへと逃げ去った。
「な、なんだそりゃあ」
 大鬼も面を食らったようで、薫さんを取り囲む風にどう太刀打ちするか頭を悩ませた。
「私は卑怯と言われようと何だってやりますよ」
 薫さんがその場を動こうものなら、恐らく、その風も一緒についてくる。四方八方に渦巻く風をどうにかしなければ、大鬼は攻撃をするどころか近付くことさえもままならない。
「チッ」
 薫さんが一歩踏み出した時、周りの瓦礫も木っ端微塵となり、大鬼はそれに対して焦りを覚えた。大鬼は咄嗟に近くにあった自分と同じくらいの大岩を片手で持ち上げる。常人では出来ない行為に僕と小鬼は目を見張る。こんなもの、もし僕らに投げられでもしたら、なすすべもなく、そのまま岩の下敷きとなるだろう。
 大鬼は薫さん目掛けてその大岩を勢い良く投げ捨てた。しかし、その大岩でさえ、薫さんの周りを渦巻く風に粉々に切り裂かれ、薫さんにダメージを与えることは出来なかった。だが、その大岩を投げた際に、一瞬だけ岩の影に隙が出来た。大鬼はそれを見逃さず、すかさず大岩を投げた方向と同じように、金棒を投げ入れる。バラバラに砕かれる岩が風の行く手を邪魔して、金棒が薫さん目掛けて襲いかかる。が――
「なっ――」
 薫さんは瞬きをする暇もないくらい、一瞬の間に槍のような武器を出し、その金棒を弾いた。金棒が弾かれ、武器を失った大鬼目掛けて、砂嵐を切り裂きながら一気に間合いを詰める。そして、その槍の矛先は大鬼の喉をしっかりと捉え、あと少しでも動けば喉を貫くだろう。
「ま、参った……」
 勝負は一瞬の間についた。誰もがその結末を予想出来てなかっただろう。大鬼が負けを認めたにも関わらず、誰も何も言葉を発せず、まるで時間が止まったかのようにその場は静寂に包まれる。その静寂を破ったのは他の誰の鬼でもない、小鬼だった。
「やっ……やったぁああああああ!」
 小鬼は勝てると思ってもなかったのだろう。あまりの衝撃と喜びで、僕の手から離れて薫さんに駆け寄り、薫さんの周りでぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「すごい! すごいや先生!」
「先生?」
「うん! だって、薫はお医者さんなんだろう? だから先生! 先生なのに強いなんてすごいや!」
 静寂が破られたことにより、他の鬼たちも口々に試合の感想を零す。
「凄かったな……」
「まさか頭が敗れるとは……」
「オレでも勝てねぇよ……」
 それは決してマイナスなものだけではなく、中には薫さんを褒め称えるものもあった。肝心の大鬼はというと――
「ガッハッハッハッハッハー! いやぁ、たまげた! こんなに強いやつがいるとはな!」
 ――心配する必要はなく、豪快に笑って潔く負けを認めていた。
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