神様のお導き

ヤマト

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4話目!薫の章 硝子の中の景色

4-8

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「ところで、なんで薬草なんか探してんだ?」
 大鬼は僕らがわざわざこんな所まで薬草を取りに来るのを疑問に思い、顎を擦りながらそう尋ねてきた。その理由を小鬼が「実は――」と、悲しそうに目を伏せて話した。
 お母さんが妖怪に命を蝕まれていること。父親を早くに亡くしており、友人も居らず、誰にも助けを求められないこと。洗いざらい全て話した。
 それを聞いた鬼たちは、僕らより遥かに大きく屈強で厳ついのにも関わらず、ううっ…と、嗚咽を噛み殺しながら泣いて聞いていた。見た目と中身は比例してない無いというのがよくわかる。意外にも彼らは繊細な心の持ち主なようで、小鬼の話に涙を流して、いつの間にか僕らよりも親身になっていた。
「大変だったなぁ……」
「他の妖怪たちが許せねぇよ、この子ら家族を除け者にしてよぉ」
「いじめっ子に負けるなよ」
 鬼たちは口々に小鬼への同情の声を掛け、小鬼も彼らが悪い奴でないとわかると、その声援に応え、一人一人に丁寧に返事をしていた。
「これで近隣問題はなんとかなりそうですね」
「そ、そうだね」
 僕と薫さんはそれを生暖かい目で見つめていた。
「しかし、体の弱い鬼の女か……」
「どうかしたんですか?」
 どうも大鬼は他の鬼たちとは違うことを考えているらしく、うーんと、低く唸って首を傾げていた。
「いやな、オレも昔、体の弱い女の鬼と幼なじみだったんだ、お花ちゃんって言うんだがな……」
 大鬼がそこまで言うと、今度は小鬼の方がそれに反応して、小鬼はぽかんとした様子で大鬼を見上げた。
「母ちゃんの名前もお花って言うぞ」
 大鬼は小鬼の言葉に耳を疑った。まさか何となく思い出した鬼の名前が、小鬼の母親と同じ名前だったことに。それは偶然が必然か。同一人物なのか別人なのか。大鬼にとってはそんなことどうでもよくなるような衝撃だったらしく、大鬼は小鬼の両肩を大きな手で掴んで「本当か!?」と驚きの声を上げた。
「お、おう……。オイラの母ちゃんはお花ってんだ。今はやつれて見る影もないけど、昔はとても綺麗だったんだ」
「…………」
 大鬼は何か思いを馳せているようで、声を失い、ただ漠然と小鬼の姿を見下ろしていた。
「……オレは、お花ちゃんとは幼なじみで、もう一人幼なじみがいた。そいつとオレはお花ちゃんに惚れていて、毎日どっちがお花ちゃんと結婚するか喧嘩してたんだ。結局負けちまったけど、それでもしばらくはお花ちゃんとは手紙でよく連絡を取り合っていた。それが、突然、一通も手紙が来なくなった。オレから何を送っても返事は来なくて、オレは嫌われちまったんだって思った……」
 ぽつりぽつりとお花という人物のことを語り出す大鬼。小鬼はそれを真面目な顔でしっかりと耳を傾けていた。そして、小鬼もそれを聞いて思うことがあるのか、すぐに大鬼に思いたある節があることを伝えた。
「オイラの母ちゃん、昔は誰かといつも文通してた! そんで、父ちゃんが事故で亡くなってからショックでしばらく寝込んでて、手紙も書かなくなっちゃったんだ」
 この話を聞いて、もう二人が思い描くお花という人物が同じ人物だと言うことを裏付けた。彼らは同じ人物の話をし、それは神様のお導きなのか、はたまた運命の悪戯なのか、彼らを引き合わせたのだ。
「マジかよ……。オマエ、お花ちゃんの倅(せがれ)だったのか……」
 大鬼は色々な思いや考えが溢れ出たのか、それからしばらく黙り込んでしまい、ふぅ……と、疲れたように息を吐いた。それを見た他の鬼たちは、大鬼のことを心配そうに見つめるが、誰も何か声をかけようなどと言う者はいなかった。
 しかし、僕らはそんな彼の思考が纏まるのを待っている暇もなく、薫さんは躊躇なくその沈黙を切り裂いた。
「すいませんが、貴方がたとうだうだ話している暇はありません。思い出話はまたいずれしてもらうとして、今は薬草を取りに行かせてください」
 何の思いやりもないように聞こえるが、これもすべては小鬼の母親を救うためだ。ここは僕も心を鬼にして、小鬼の腕を引っばった。
「さぁ、行こう」
 小鬼は大鬼に対して、後ろ髪引かれる様子だったが、僕がそう促せば、少し躊躇いがちではあるものの、ちゃんと薬草探しに足を運んでくれた。

 僕らが道中急ぐ頃、暫くしてから後ろから低く野太い、僕らを呼ぶ声が聞こえた。
「……い! おーい! 待ってくれー!」
 振り返ると、そこにいたのは先程の大鬼で、僕らを追いかけて、ここまで走ってきたようだ。
「どうしたんですか?」
 僕がそう聞くと、大鬼は息を切らしながら、すかさずこう答えた。
「オレも連れてってくれ!」
 思わぬ大鬼のお願いに、僕ではどう判断したら良いのか分からず、薫さんを見た。薫さんは普段と変わらぬ冷めた態度のまま、意外な答えを即答をした。
「良いですよ」
「本当か!?」
 その薫さんの返事に僕も大鬼も小鬼もびっくりして、なんの風の吹き回しかと、驚いて彼を見つめた。
「ただし、ひとつ条件があります」
「条件?」
 薫さんは人差し指を立てて、その条件を提示する。
「はい。小鬼に――彼に狩りの仕方を教えてあげてください」
「ん? それだけか?」
「えぇ、でもこれはとても大事なことです。これから取りに行く薬草の効果には嘔吐と下痢を促す作用があります。今でも意識が朦朧としているのに、そんなものを飲めば命が危ない。体力をつけるためにも、ちゃんと栄養のあるものを食べさせねばならないのです」
「だったら、オレが食料を――」
「いいえ、だめです。それでは意味がありません。貴方が食料を小鬼に分け与えたとして、それはいつまで続けるんですか? 小鬼も自分で食料を取れるようにならなければ、この先また母親を同じ目に遭わせてしまいます。なので、狩りを教えてあげてください」
 薫さんの言うことは最もだ。これから先のことを考えれば、小鬼には自分で生きていくだけのチカラをつけなければならない。ずっと誰かに頼りっきりではダメなのだ。薫さんの話を聞いて、大鬼が返事をするより先に、小鬼がその言葉に反応した。
「オイラからもお願い! オイラ、頑張って食料も集められるようになる! こんなになるまでオイラを大事にしてくれた母ちゃんを楽させてあげたいんだ! そんで、オイラは一人でも狩りが出来るんだぞって、いじめっ子たちも見返してやりたい!」
 小鬼に真っ直ぐな眼差しを向けられて、大鬼は一瞬、言葉を失った。大鬼が何を思ったのか、何を考えたのかはわからない。けれど、それはとても良い事だったのだろう、きっと。
「……やっぱり、オマエはアイツとお花ちゃんの倅だな!」
 大鬼はニカッと、ギザギザの鋭い牙を見せて笑い、薫さんに向かってドンッと、胸を叩いた。
「おう、狩りのことは任せとけ! オレがこの小僧のこともキッチリ面倒見てやる! そしてお花ちゃんにも――」
 大鬼は何か言おうとしたが、そこまで言って、言うのをやめてしまった。何を言おうとしたか大体は想像つくが、それを言うのは野暮というものだろう。こうして、薬草を取りに行くのに、もう一人大きな鬼が加わり、僕らは旅路を急ぐのだった。
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