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4話目!薫の章 硝子の中の景色
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そして――
「こんにちは、お母上の様子はどうですか?」
なんだか久しぶりにも思える薫さんの顔。僕は立派になった小鬼の家で、大鬼と一緒にご飯を食べていた。小鬼の母親ももうすっかり元気になっており、最初に見た頃のやつれていた姿とは見違えるほど生気が戻っていた。それでも、治療を始めて最初の頃は、激しい嘔吐と下痢に悩まされ、意識を失うほどであった。それが今では一人で洗濯物や料理を出来るほどに回復したのだ。身近で見守っていただけあって、なんだか感慨深いものがある。
「貴方が薫先生ですか。息子共々お世話になっております。もうなんとお礼を言ったら良いか……」
「母ちゃん、まだ完全に治ったわけじゃないんだから、布団で寝てて!」
小鬼は大鬼のおかげでかなり自立し、自身に自信がついたのか、母親に対してかなり過保護になっていた。
「もうほとんど治ったと思いますが、小鬼の言う通り、今日一杯はゆっくり休んだ方が良いでしょう。明日からは失った体力の回復をはかるため、またしっかり栄養のあるものを食べて、体を動かすように心掛けてください」
「ありがとうございます、本当にありがとう……」
母親は何度も何度も薫さんに頭を下げてお礼を言っていた。けれど、薫さんはそれに対して高慢になることもなく、「いえいえ」と、何度も頭を下げる彼女を手で制した。
「お礼ならそこのニンゲンと小鬼と大鬼さんに言ってください」
「ニンゲンって僕のこと?」
「そうですが、何か?」
「……いえ、なんでもありません」
薫さんにとって、僕って何なんだろう。素朴な疑問だけど、僕の中では結構重要で、少し頭を悩ませたが、僕は考えることをやめた。
「ふふ、この子にももちろん感謝してますよ。自慢の息子です」
「えへへ」
母親に褒められて、小鬼は嬉しそうに頬を染めた。それを見るだけでも微笑ましくて、僕の悩みなんてちっぽけでどうでも良くなってしまう。
「貴方にも。まさか貴方が私を助けに来てくれるなんて……」
「お花ちゃん……」
「本当は手紙を書けなくなってしまって、もうすっかり縁が切れてしまったと思っていたの。でも、貴方は変わらず私に対してずっと誠実に優しく接してくれた……。こんな素敵な家まで作ってくれて……。ありがとう」
「いいんだよ、お花ちゃん。キミのためならオレはなんだって出来るんだ」
優しく見つめ合う二人。誰もが入る余地などないのではないかと思うほど暖かい空間で満たされた。彼らもまた、新たな物語が始まったはずだ。
「そして、人間の貴方。貴方は私たち妖怪に対して、なんの偏見もなくずっと私たちの心配をして、見守ってくれた。力がないなりに貴方は頑張ってくれて、薫さんとの仲も取り持ってくれた。本当にありがとう」
「そんな……。僕なんていてもいなくても一緒だったし、僕が居なくても、薫さんは貴女を助けてくれましたよ」
「…………」
僕はありのままの正直な気持ちを彼女に伝えた。薫さんがそれを横目で見ていたが、表情ひとつ変わらないので、僕のことをどう思っていたのかはわからない。けれど、きっと、僕が何もしなくても、彼は彼女を助けてくれただろう。僕は、そう思うんだ。
「なにより、最後は貴女が頑張ったからこそ、今があるんです。頑張りましたね!」
僕がそう言ってにっこりと笑うと、彼女は一筋の涙をほろりと流して、「はい!」と、力いっぱい頷いた。
「そうだ!」
いい雰囲気の中、全てが綺麗にまとまろうとしていたとき、小鬼が何か思い出したように声を上げた。小鬼はすぐに立ち上がると、棚の引き出しの中をガザガサと漁って、何かを握りしめた。そして、その握りしめた手を薫さんの方へと突き出して、薫さんに手を出すよう促した。
「なんですか?」
「はい! これあげる!」
薫さんの手のひらに差し出されたものは、キラキラと光を反射する薫さんとよく似た綺麗な緑色のビー玉だった。
「これ、オイラの宝物! オマエにもあげる!」
僕も小鬼に手を突き出されて、薫さんと同じように手を差し出す。僕の手のひらに置かれたものは、オーソドックスな透明なビー玉。けれど、それは今まで見たどんなビー玉より綺麗に見えた。
そこでしばらく小鬼たちと話した後、僕らはその家を後にした。家から出ると、小鬼もその母親も大鬼も、僕らを最後まで見送ってくれていた。
しばらく歩いて、誰の姿も見えなくなった頃、徐に薫さんが口を開いた。
「どうでしたか、この一週間」
「え? そうだなぁ。大変だったけど、かなり充実した一週間でしたよ。最初はどうなるかと思ったけどね」
正直、最初は家もないし、鬼たちとサバイバル生活しなくちゃならないし、不安の方が大きかった。でも、始まってみたら、苦労もあったけど、楽しいことも沢山あった。今回の経験はいつかまたどこかで役に立つかもしれない。最後の日なんかは、よく分からないけど、喧嘩の仕方も少し教えてもらった。誰かに絡まれて困ってる人がいても助けてあげられる勇気が少しついた。僕も頼ってばかりじゃなくて、自分で人助けできるようになりたい。より一層そう思えた。
薫さんは僕を横目で見つめ、「そうですか」と、視線を前に戻した。
「今回の件で、人助けをする大変さが分かったでしょう。これからは無闇やたらに首を突っ込まないことです。突っ込んだなら、最後まで面倒も見る。中途半端に助けるだけでは最初から助けてもらわない方がマシですからね」
薫さんには薫さんの思うことがあるのだろう。確かに、今回最初から最後まで彼らの手助けをしてとても大変だった。けど、それと同時に嬉しさもあったんだ。
「ビー玉、綺麗だね」
僕は小鬼から貰ったビー玉を光に翳して見つめた。天の光をいっぱいに吸い込んだビー玉は、キラキラと眩しくて、まるで宝石みたいだった。
「人の話聞いてます?」
ビー玉を見つめる僕を薫さんはため息混じりに呆れたように見つめていた。けれど、薫さんも僕に説教するのを諦めたのか、ポケットに入れていた緑のビー玉を取り出して、少しだけそれを見つめた。すぐにビー玉はポケットの中に戻していたけれど、薫さんがそれを見て、僅かに目が和らいだ気がしたんだ。
僕のした事が良い事か悪い事か、そんなことはわからないけど、きっと、この光をたくさん集めたビー玉の中の景色は、彼らを助けなければ見ることの出来なかった景色なんだろう。
「こんにちは、お母上の様子はどうですか?」
なんだか久しぶりにも思える薫さんの顔。僕は立派になった小鬼の家で、大鬼と一緒にご飯を食べていた。小鬼の母親ももうすっかり元気になっており、最初に見た頃のやつれていた姿とは見違えるほど生気が戻っていた。それでも、治療を始めて最初の頃は、激しい嘔吐と下痢に悩まされ、意識を失うほどであった。それが今では一人で洗濯物や料理を出来るほどに回復したのだ。身近で見守っていただけあって、なんだか感慨深いものがある。
「貴方が薫先生ですか。息子共々お世話になっております。もうなんとお礼を言ったら良いか……」
「母ちゃん、まだ完全に治ったわけじゃないんだから、布団で寝てて!」
小鬼は大鬼のおかげでかなり自立し、自身に自信がついたのか、母親に対してかなり過保護になっていた。
「もうほとんど治ったと思いますが、小鬼の言う通り、今日一杯はゆっくり休んだ方が良いでしょう。明日からは失った体力の回復をはかるため、またしっかり栄養のあるものを食べて、体を動かすように心掛けてください」
「ありがとうございます、本当にありがとう……」
母親は何度も何度も薫さんに頭を下げてお礼を言っていた。けれど、薫さんはそれに対して高慢になることもなく、「いえいえ」と、何度も頭を下げる彼女を手で制した。
「お礼ならそこのニンゲンと小鬼と大鬼さんに言ってください」
「ニンゲンって僕のこと?」
「そうですが、何か?」
「……いえ、なんでもありません」
薫さんにとって、僕って何なんだろう。素朴な疑問だけど、僕の中では結構重要で、少し頭を悩ませたが、僕は考えることをやめた。
「ふふ、この子にももちろん感謝してますよ。自慢の息子です」
「えへへ」
母親に褒められて、小鬼は嬉しそうに頬を染めた。それを見るだけでも微笑ましくて、僕の悩みなんてちっぽけでどうでも良くなってしまう。
「貴方にも。まさか貴方が私を助けに来てくれるなんて……」
「お花ちゃん……」
「本当は手紙を書けなくなってしまって、もうすっかり縁が切れてしまったと思っていたの。でも、貴方は変わらず私に対してずっと誠実に優しく接してくれた……。こんな素敵な家まで作ってくれて……。ありがとう」
「いいんだよ、お花ちゃん。キミのためならオレはなんだって出来るんだ」
優しく見つめ合う二人。誰もが入る余地などないのではないかと思うほど暖かい空間で満たされた。彼らもまた、新たな物語が始まったはずだ。
「そして、人間の貴方。貴方は私たち妖怪に対して、なんの偏見もなくずっと私たちの心配をして、見守ってくれた。力がないなりに貴方は頑張ってくれて、薫さんとの仲も取り持ってくれた。本当にありがとう」
「そんな……。僕なんていてもいなくても一緒だったし、僕が居なくても、薫さんは貴女を助けてくれましたよ」
「…………」
僕はありのままの正直な気持ちを彼女に伝えた。薫さんがそれを横目で見ていたが、表情ひとつ変わらないので、僕のことをどう思っていたのかはわからない。けれど、きっと、僕が何もしなくても、彼は彼女を助けてくれただろう。僕は、そう思うんだ。
「なにより、最後は貴女が頑張ったからこそ、今があるんです。頑張りましたね!」
僕がそう言ってにっこりと笑うと、彼女は一筋の涙をほろりと流して、「はい!」と、力いっぱい頷いた。
「そうだ!」
いい雰囲気の中、全てが綺麗にまとまろうとしていたとき、小鬼が何か思い出したように声を上げた。小鬼はすぐに立ち上がると、棚の引き出しの中をガザガサと漁って、何かを握りしめた。そして、その握りしめた手を薫さんの方へと突き出して、薫さんに手を出すよう促した。
「なんですか?」
「はい! これあげる!」
薫さんの手のひらに差し出されたものは、キラキラと光を反射する薫さんとよく似た綺麗な緑色のビー玉だった。
「これ、オイラの宝物! オマエにもあげる!」
僕も小鬼に手を突き出されて、薫さんと同じように手を差し出す。僕の手のひらに置かれたものは、オーソドックスな透明なビー玉。けれど、それは今まで見たどんなビー玉より綺麗に見えた。
そこでしばらく小鬼たちと話した後、僕らはその家を後にした。家から出ると、小鬼もその母親も大鬼も、僕らを最後まで見送ってくれていた。
しばらく歩いて、誰の姿も見えなくなった頃、徐に薫さんが口を開いた。
「どうでしたか、この一週間」
「え? そうだなぁ。大変だったけど、かなり充実した一週間でしたよ。最初はどうなるかと思ったけどね」
正直、最初は家もないし、鬼たちとサバイバル生活しなくちゃならないし、不安の方が大きかった。でも、始まってみたら、苦労もあったけど、楽しいことも沢山あった。今回の経験はいつかまたどこかで役に立つかもしれない。最後の日なんかは、よく分からないけど、喧嘩の仕方も少し教えてもらった。誰かに絡まれて困ってる人がいても助けてあげられる勇気が少しついた。僕も頼ってばかりじゃなくて、自分で人助けできるようになりたい。より一層そう思えた。
薫さんは僕を横目で見つめ、「そうですか」と、視線を前に戻した。
「今回の件で、人助けをする大変さが分かったでしょう。これからは無闇やたらに首を突っ込まないことです。突っ込んだなら、最後まで面倒も見る。中途半端に助けるだけでは最初から助けてもらわない方がマシですからね」
薫さんには薫さんの思うことがあるのだろう。確かに、今回最初から最後まで彼らの手助けをしてとても大変だった。けど、それと同時に嬉しさもあったんだ。
「ビー玉、綺麗だね」
僕は小鬼から貰ったビー玉を光に翳して見つめた。天の光をいっぱいに吸い込んだビー玉は、キラキラと眩しくて、まるで宝石みたいだった。
「人の話聞いてます?」
ビー玉を見つめる僕を薫さんはため息混じりに呆れたように見つめていた。けれど、薫さんも僕に説教するのを諦めたのか、ポケットに入れていた緑のビー玉を取り出して、少しだけそれを見つめた。すぐにビー玉はポケットの中に戻していたけれど、薫さんがそれを見て、僅かに目が和らいだ気がしたんだ。
僕のした事が良い事か悪い事か、そんなことはわからないけど、きっと、この光をたくさん集めたビー玉の中の景色は、彼らを助けなければ見ることの出来なかった景色なんだろう。
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