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6話目!黒乃の章 記憶の足跡
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僕らは住宅街の中にある一軒の家に辿り着いた。そこはそこそこ大きな家で、別にお金に困ってそうだったりはしなかった。もしかして、仕事が上手くいかなくなって、お金がなくなって黒猫を捨てたのかもしれない。そう思ったりもしたけど、どうやらそういうわけではなさそうだ。じゃあ、一体なぜ――?
僕は様々な憶測を脳内で繰り返し、不安げな顔でその家を見つめていた。
「そんにゃ不安そうな顔をするみゃ! あの子はとても良い子みゃぞ! ちゃんとみゃーを案内してくれたって伝えてやるから、おみゃーらはそこでプレゼント持って待ってるみゃ!」
黒猫は意気揚々と黒乃の頭から飛び降り、猫特有の背伸びをした。
「あ、降りられたんだ?」
「流石にいつまで経っても頭にへばりつかれてたら困るしな」
黒猫はトトトトトトと、軽やかな足取りで家の方へと向かう。丁度、家の中の空気を換気するためか、少しドアが開いていた。黒猫はまるてま液体のように、するりとそのドアの狭い隙間から家の中へと入り込んだ。
「…………」
「そんな顔すんな。なるようにしかなんねぇよ」
黒乃は僕の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で回し、鋭い八重歯を見せてニカッと笑った。
「ほれ、シャキッとしろ!」
バチン! と背中を叩かれて、僕は衝撃で一瞬前に倒れそうになる。
「いたっ!」
「あれ? そんな強く叩いたつもりはねぇんだけどな?」
ケラケラと笑う黒乃に、僕は「も~」と、軽く笑い返した。黒乃のおかげで少し気が緩んだ気がする。そうだ! 僕がしっかりしなくてどうする。一番辛い思いをするのはあの子かもしれないじゃないか! それを受け止めるために、どっしりと構えておかなきゃ!
僕と黒乃は黒猫が帰ってくるまで、その家を少し遠くの木陰から見守った。
黒猫は慣れた様子でその家のリビングへと向かった。横に広がる大きな白いソファに両親が座っており、その少し離れた場所に白く丸いテーブルに突っ伏す金髪の少女の姿があった。白のペンキで塗られた木製の椅子をギコギコ鳴らし、何か呟いている。黒猫は少女の姿を見つけ、一目散に彼女の側へと駆け寄った。
近くに来てわかったが、少女はグスグスと泣いているようだった。
――ほら、見たことか。この子はみゃーがいないとすぐ泣いてしまうんだから。
「みゃ~」
黒猫はいつものように愛らしく鳴いてみせる。しかし、いつもならその鳴き声でパッと顔を上げてニコニコと笑うのに、全く反応がない。
「みゃ~」
黒猫はめげずにもう一度鳴いてみた。けれど、やっぱり反応はない。黒猫はどうしてだろうと不思議に思った。こんなにも鳴いているのに、何故無視をするのか。外に出かけていたから、嫌われてしまったのだろうか。そんな不安が黒猫の頭の中を過ぎった。
黒猫はしょんぼりとした様子でその場に座り込む。そのままピクピクと耳を動かして、彼女らの会話を聞いた。
「リリー。もう泣かないで。ね? 昨日からずっと泣きっぱなしじゃない。頭も痛いでしょ? 少しベッドで休んだら?」
「うっ……うぅ……」
リリーと呼ばれた少女は、彼女を宥める母親の声など聞こえていないかのようにグスグスと泣き続けた。それを見かねた父親が、「そうだ!」と、声を上げる。
「そうだ、代わりの猫を讓渡会で引き取ろう。きっとミヤみたいに可愛いぞ!」
――みゃに!?
ミヤとは黒猫の名前だ。リリーが黒猫に付けてくれた名前。自分の代わりに他の猫を迎え入れるなんてそんなの有り得ないし許せない!
黒猫のミヤはそれだけは断固阻止しようと、リリーの足元でこれでもかと、みゃあみゃあ鳴き喚いた。けれどやっぱりその声は届かずに、リリーたちは彼女を無視して話を続けた。
「ミヤみたいな黒猫もきっといる! だから――」
「どうしてそんなこというのッ!?」
父親が彼女を説得しようと必死に言葉を紡いでいた時、その言葉を遮ってリリーが怒鳴り声を上げた。それにミヤもびっくりして、ギョッとした様子で鳴くのをやめて彼女を見上げた。
「ミヤは一人しかいないんだよ!? ミヤはミヤだけなの! ミヤじゃなきゃ嫌だ!」
――みゃみゃ! やっぱりリリーは優し……
「リリー! ミヤはもう亡くなったんだ。この世にはもういないんだよ……」
――みゃ……?
切羽詰まった父親のセリフに、ミヤは頭が真っ白になった。同時に今までのことが脳内にフラッシュバックする。
彼女は病気を患っていた。最後は息絶えだえで、それでも一番のお気に入りであるリリーの腕の中で最期を迎えられた。苦しいことから解放され、リリーの温かい腕の中で幸せに深い眠りについたのだ。その時リリーはボロボロと大きな涙を流して嗚咽して泣いていた。自分の名前を何度も何度も呼んで、声が枯れそうなくらい悲痛な叫び声を上げていた。泣かないで。泣かないで。ずっとそう思っていたけれど、その言葉は彼女には最後まで届かなかった……。
僕は様々な憶測を脳内で繰り返し、不安げな顔でその家を見つめていた。
「そんにゃ不安そうな顔をするみゃ! あの子はとても良い子みゃぞ! ちゃんとみゃーを案内してくれたって伝えてやるから、おみゃーらはそこでプレゼント持って待ってるみゃ!」
黒猫は意気揚々と黒乃の頭から飛び降り、猫特有の背伸びをした。
「あ、降りられたんだ?」
「流石にいつまで経っても頭にへばりつかれてたら困るしな」
黒猫はトトトトトトと、軽やかな足取りで家の方へと向かう。丁度、家の中の空気を換気するためか、少しドアが開いていた。黒猫はまるてま液体のように、するりとそのドアの狭い隙間から家の中へと入り込んだ。
「…………」
「そんな顔すんな。なるようにしかなんねぇよ」
黒乃は僕の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で回し、鋭い八重歯を見せてニカッと笑った。
「ほれ、シャキッとしろ!」
バチン! と背中を叩かれて、僕は衝撃で一瞬前に倒れそうになる。
「いたっ!」
「あれ? そんな強く叩いたつもりはねぇんだけどな?」
ケラケラと笑う黒乃に、僕は「も~」と、軽く笑い返した。黒乃のおかげで少し気が緩んだ気がする。そうだ! 僕がしっかりしなくてどうする。一番辛い思いをするのはあの子かもしれないじゃないか! それを受け止めるために、どっしりと構えておかなきゃ!
僕と黒乃は黒猫が帰ってくるまで、その家を少し遠くの木陰から見守った。
黒猫は慣れた様子でその家のリビングへと向かった。横に広がる大きな白いソファに両親が座っており、その少し離れた場所に白く丸いテーブルに突っ伏す金髪の少女の姿があった。白のペンキで塗られた木製の椅子をギコギコ鳴らし、何か呟いている。黒猫は少女の姿を見つけ、一目散に彼女の側へと駆け寄った。
近くに来てわかったが、少女はグスグスと泣いているようだった。
――ほら、見たことか。この子はみゃーがいないとすぐ泣いてしまうんだから。
「みゃ~」
黒猫はいつものように愛らしく鳴いてみせる。しかし、いつもならその鳴き声でパッと顔を上げてニコニコと笑うのに、全く反応がない。
「みゃ~」
黒猫はめげずにもう一度鳴いてみた。けれど、やっぱり反応はない。黒猫はどうしてだろうと不思議に思った。こんなにも鳴いているのに、何故無視をするのか。外に出かけていたから、嫌われてしまったのだろうか。そんな不安が黒猫の頭の中を過ぎった。
黒猫はしょんぼりとした様子でその場に座り込む。そのままピクピクと耳を動かして、彼女らの会話を聞いた。
「リリー。もう泣かないで。ね? 昨日からずっと泣きっぱなしじゃない。頭も痛いでしょ? 少しベッドで休んだら?」
「うっ……うぅ……」
リリーと呼ばれた少女は、彼女を宥める母親の声など聞こえていないかのようにグスグスと泣き続けた。それを見かねた父親が、「そうだ!」と、声を上げる。
「そうだ、代わりの猫を讓渡会で引き取ろう。きっとミヤみたいに可愛いぞ!」
――みゃに!?
ミヤとは黒猫の名前だ。リリーが黒猫に付けてくれた名前。自分の代わりに他の猫を迎え入れるなんてそんなの有り得ないし許せない!
黒猫のミヤはそれだけは断固阻止しようと、リリーの足元でこれでもかと、みゃあみゃあ鳴き喚いた。けれどやっぱりその声は届かずに、リリーたちは彼女を無視して話を続けた。
「ミヤみたいな黒猫もきっといる! だから――」
「どうしてそんなこというのッ!?」
父親が彼女を説得しようと必死に言葉を紡いでいた時、その言葉を遮ってリリーが怒鳴り声を上げた。それにミヤもびっくりして、ギョッとした様子で鳴くのをやめて彼女を見上げた。
「ミヤは一人しかいないんだよ!? ミヤはミヤだけなの! ミヤじゃなきゃ嫌だ!」
――みゃみゃ! やっぱりリリーは優し……
「リリー! ミヤはもう亡くなったんだ。この世にはもういないんだよ……」
――みゃ……?
切羽詰まった父親のセリフに、ミヤは頭が真っ白になった。同時に今までのことが脳内にフラッシュバックする。
彼女は病気を患っていた。最後は息絶えだえで、それでも一番のお気に入りであるリリーの腕の中で最期を迎えられた。苦しいことから解放され、リリーの温かい腕の中で幸せに深い眠りについたのだ。その時リリーはボロボロと大きな涙を流して嗚咽して泣いていた。自分の名前を何度も何度も呼んで、声が枯れそうなくらい悲痛な叫び声を上げていた。泣かないで。泣かないで。ずっとそう思っていたけれど、その言葉は彼女には最後まで届かなかった……。
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