神様のお導き

ヤマト

文字の大きさ
133 / 173
7話目!灰冶の章 夢境の栞

7-1

しおりを挟む
 家の裏にある大きな広場。そこで僕はくろの黒乃に稽古をつけてもらっていた。黒乃は僕よりも二十センチも身長が高く、ガタイも良い。彼から繰り出される攻撃は速く、威力も高い。勿論、手加減してはくれているけど、それでも並の人よりも遥かに強いのだ。僕は避けるだけで精一杯で、なかなか反撃に出られずにいた。
「おいおい、避けるだけじゃ戦いは終わらねぇよ」
 黒乃に挑発されて、僕はなんとか黒乃から隙を窺おうとした。冷静に。落ち着いて。焦ってはダメだ。黒乃が大振りに腕を引いたその時、僕はその僅かな隙を見逃さなかった。その隙を突き、僕は拳を構えた状態で前足を踏み込み、彼の間合いに入った。そのまま素早く彼の鳩尾に前拳を繰り出した。――筈だった。
「うわっ!?」
 気付けば僕は地面に倒れ込み、空を見上げていた。真っ青な空の中に黒乃の姿が入り込み、僕をニヤニヤとした顔で見下ろしている。
「へへっ、惜しかったな」
 どうやら僕は、前拳を繰り出した腕を掴まれて、そのまま地面に投げ倒されたようだった。今のは絶対イけると思ったのに……。
「悔しい」
「その悔しいって気持ちは大事だぞ」
 黒乃は僕に手を差し出し、僕もその手を握り返す。黒乃の力強い手が僕の手を引っ張り上げて、僕は軽く宙を浮いたが、何とか立ち上がる。
「でも普通の奴相手ならお前ももう勝てると思うぜ」
「そうかなぁ?」
「まっ、相手が悪かったな!」
 ガハハハハと豪快に笑う黒乃に僕は苦笑いした。そうやって黒乃と組手をしている時だった。そこに珍しいお客さんが来た。
「あら、精が出るわね」
「ん? 灰冶」
「灰冶さん!」
 現れたのは灰冶さんで、大きな木を背にして腕を組んで立っていた。
 灰冶さんは相変わらず抜群のモデルスタイルで、どんな服も見事に着こなす。彼は針山家の中でも圧倒的なスタイルの良さだと思う。みんな手足長いけど。
 普段は白いジャケットに黒のシャツ、白のネクタイに白のスラックスを穿いていて、黒の革手袋を身につけている。それから、靴は黒の革靴。丁寧に磨き上げられていて、いつも埃一つない。コーディネートだけを書き出すと、普通の格好のようにも思えるけど、少しゴシックな雰囲気のある格好で、普通の格好とは一味違うのが彼だ。化粧も濃い黒のアイシャドウに、黒の口紅をしていて、雰囲気も相まって独特なスタイルだ。今日はそのコーディネートに白い中折帽子を被っていた。
「どこか出掛けるのか?」
 黒乃さんはその僅かな違いで察したのか、灰冶さんにそう質問する。灰冶さんはニッコリと笑い、頷いた。
「えぇ、そうよ。今から街に錬金術の道具の仕入れに行くの。良かったら、彼も一緒にどうかと思って」
 彼というのは僕のことだろうか? 僕は意外な人からの意外なお誘いに、目を瞬かせながら自分を指差した。
「えぇ、そう、貴方よ、拓斗。迷惑なお誘いだったかしら?」
「いっいえ! とんでもない! ただ、意外だっただけで!」
「あら、そうかしら? 私もそろそろ貴方とゆっくりお話したいと思っていたし、今後どうなるにせよ、街に出て見聞を広めておくに越したことはないでしょう?」
 灰冶さんの気遣いに、僕はブンブンと首を縦に振った。
「首もげるぞお前」
 ヘッドバンキングの如く激しく首を振る僕に、黒乃がボソリとツッコミを入れていた。僕はそんな黒乃に視線を向けた。黒乃はそれだけで僕が何を言おうとしたのか察したのか、シッシッと手で僕を払い除けるように動かした。
「いいよ、行ってこいよ。別にお前がいなくても俺は変わらずトレーニングするし、そういう機会はちゃんと有効に使う方が良い」
「あ、ありがとう! この埋め合わせはまたするから!」
「埋め合わせって……。別にンなもん要らねぇから、さっさと行って、自分の為に見識広めてこい。ん? 見聞か? ま、どっちでも良いや。行ってこい行ってこーい」
 黒乃は僕を灰冶さんの所まで追いやると、ホントにすぐに自分のトレーニングに戻ってしまった。黒乃にとっては僕がいてもいなくても変わらないんだろうけど、僕は黒乃がいてくれるから頑張れるし、色々と教えて貰える。またお礼に何かしなきゃな。
「ふふ、微笑ましいわね」
 心を読まれているのかいないのか、よくわからないけど、灰冶さんにクスクスと笑われて、僕は少し恥ずかしくなって俯いた。
「さ、じゃあ早速行くわよ」
「はい!」
 僕は灰冶さんに連れられて、テラの街へと繰り出した。今日は一体どんなものに出逢えるのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...