或る少年の日記

桜翁島(さおじま)

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12月3日 雨

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「えっちな映画を見ようか」

廊下にいた私に、先生は優しく誘う。手には、黒い機器とコードを抱えている。
その台詞は普段、違和感のあるものであった気がした。
けれども、少なくともその瞬間は、まるで私にとってそれが当たり前かのように、あるいは日常の習慣であるように、体に馴染んだ。
色彩は殺され、グレーの帳に包まれた放課後のこと。
窓を激しく叩きつける雨は、私の返事をかき消すようだった。

先生は手早くカーテンを閉め、扉に鍵を掛けた。
前の扉がなかなか閉まらなかった時、ああ、早くしないと見つかってしまう、と、私は焦った。
いや、正しく言うならば、恋にも似た、火照るほどの高揚感を感じた。
私が椅子に座って待っているうちに、準備は終わっていた。
初めに注意書きが映り、それから、とてもまだ産まれそうにない胎児の映像が流れた。
いつの時代の映画なのだろうか。
時折入る、パチ、パチ、という音と、画面に映る黒い斑点が、カラーであることに疑問を抱かせた。

どんな内容であったか。
今はもう覚えていないが、その「えっち」な映画より、廊下を誰かが通る度に、気づかれていないか、ちらりと扉にはめられた小さな窓を見る────。
その瞬間が一番興奮した。
その時、先生はなんにも気にしていないように、ただ無言で、立ったまま映画を観ていた。
けれども、不思議と、先生と私の心の中は同じであるかのようだった。

その後、この話を知った友達が、誤解を招くような妄想を大声で話すものだから、急いで止めたけれども、一部を聞いた生徒が怪しんで、嗅ぎ回られたりした。
そうして、ついに帰りのホームルームの時間、あの子は何を吹き込んだのか、先生は「残念だ。そんな子だとは思わなかった。」などと言いながら、私を名指しで立たせたが、「僕は悪い事はしておりません。僕が放課後何をしていたのか知りたいのであれば、M先生にお聞きください。きっとお解りになる筈です。」と言うと、先生は納得したように、ホームルームを終わらせた。

 要するに、これはただの、共犯者の茶番であった。

先生は私を試すような目をしていた。

騒がしい教室の中、視線を交わす私たち。
全ての雑音はあなたの瞳の前で消え去る。
おまえ達には分かるまい。
雨音に包まれた、性行為よりいやらしい行為。
先生。
あなたと繋がれるのは私だけ。

今日もまた、声をかけて。
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