悪役令嬢だと罵られて婚約破棄されましたが、追放された魔国で魔王様に溺愛されて幸せに暮らします

奏音 美都

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悪役令嬢だと罵られて婚約破棄されましたが、追放された魔国で魔王様に溺愛されて幸せに暮らします

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「マリアンヌ、お前のこれまでの悪行は分かっている。俺に近づく数多の女性を遠ざけ、策略に陥れ、あろうことか実の妹でさえも手にかけようとした。もうお前の顔など見たくもない!
 俺はお前と婚約破棄し、妹のソフィアンナと婚約する!」

 舞踏会場である大ホール。今日は、私の16歳の誕生日を祝うための集まりでした。

 そこに、妹のソフィアンナをエスコートして現れた私の婚約者であるデイナンド侯爵の爵士であるブランド様が、私にそう宣言したのでした。

 けれど、私に動揺などありませんでした。

「婚約者である私が婚約者に近づく輩を排除して、何が悪いと言うのですの。たとえ妹とはいえ、私に隠れて婚約者を誘惑するソフィアンナに黙っておけなかっただけですのに。
 あちこちの女性にふらふらし、すぐにちょっかいを出す貴方にこそ、非があるんじゃなくて?」
「だからといって、お茶に毒を入れたり、靴に針を仕込んだり、わざと寝室に父上を行かせたり……やり方が卑劣すぎるだろう!!」

 女性を連れ込んでいる現場にデイナンド侯爵卿を行かせたときの、ブランド様のあのお顔……愉しかったですわ。
 確かにソフィアンナの首を締めたのは事実ですけれど、脅しただけですのに。それでも言うことを聞かなければ、それなりの報いをうけさせるつもりではありましたけれど。

「ブランド様、それは教育ですわ。ただの躾です」
「そ、それだけじゃない! お前は俺にダンスのセンスがない、貴族としての知識が浅すぎる、教養がない、耳障りなヴァイオリン音をたてるんじゃないと、俺のプライドをズタズタにした!!」
「あら、事実でしょう?
 私は、将来デイナンド侯爵の名を継ぐブランド様のことを思って、真摯にアドバイスしただけですわ」

 ブランド様がお顔を真っ赤にして叫ばれました。

「お前は悪魔だ! 魔女だ! 災厄だ!!
 お前を魔国であるディヴィール国へと追放する!! 二度と帰ってくるな!!」

 その場にいたお父様とお母様へと視線を移すと、顔を俯いていらっしゃいます。

 没落貴族であるビヨンド男爵のお父様は、デイナンド侯爵の爵士であるブランド様にご意見することなど出来ません。私の代わりに妹のソフィアンナが婚約者となるのであれば、尚更ですわ。

 この場には私の味方となってくれるお方は、誰一人おりません。

「さぁ、出て行け!!」

 私はブランド様の護衛の方達に連れられて馬車に乗せられました、ディヴィール国へと向けて。

 魔国、ディヴィール国は、魔王であるルシファーが支配し、その配下には神のような魔力をもつ人の姿をした魔神、体は人で頭は獣である魔人、何千年、何百年と生き続けて強力な魔力を持った妖魔、強いものから弱いものまで様々な種類のある獣の姿をした魔獣等がいると聞きます。

 そんな魔国に追放されて、戻ってきた人間は誰一人いません。おそらく……魔国に入った途端、殺されてしまったのでしょう。

 私、魔国へ追放されますのね……あぁ、憧れながらも、決して行けることなど叶わないと諦めていた夢の魔国へ。

 私の瞳が爛々と輝きました。

 幼い頃から魔国に興味を持ち、ありとあらゆる書物を読み漁り、魔国について調べました。けれど、魔国について書かれたものは古い書物だけ。けれど、ここ何百年と誰も魔国に踏み入って帰ってきたものがいないため、魔国について書かれた古い書物は人々の想像の産物だ、作り話だと言われるようになりました。

 私は信じます。必ず魔国はあるのだと……そして、魔国を統べる魔王様にお会いしてみたい。
 
 魔神や魔人、妖魔、魔獣についての記述はありましたが、魔王についてはその存在が触れられているだけで、詳しい記述は見つかりませんでした。妄想が夢とともに膨らみます。
 
 馬車が止まり、扉が開きました。

「降りろ。ここから先は、自分で歩くんだ」

 私はたった1個のスーツケースを手に、馬車を降りました。

 そこは、魔国との国境でした。白髪に長い髭を生やした魔道士様がそこに立っていらっしゃいました。彼の手によって、結界が張られて国が守られているのです。

「罪人よ、手を出しなさい」

 言われて手を出すと、魔道士様が手を当てました。すると、ドロドロとした黒い煙のようなものに手が包まれました。

「結界に当てるのじゃ」

 結界に手を当てると、途端に光を放っていた結界が手を当てたところだけ溶けていきます。

「さぁ、行くのじゃ!」

 私が一歩踏み出す前に、魔道士様の力によって押し出されます。
 
「きゃっ!!」

 結界によって閉ざされていた道がパーッと開き、私が結界を通り抜けた途端、魔道士様の力によって素早く結界が張られ、再び閉ざされました。こんな仕組みになっていますのね。

 その先は木々に覆われた森となっており、昼間だと言うのに薄暗く、とても不気味です。さすが、魔国ですわね。

「ギェェェー!!」

 奇妙な声が上がったと思ったら、魔獣が飛び出してきました。スーツケースから素早く干し肉を取り出し、投げてやると、魔獣がそれに飛びついて丸呑みしました。

「グゲッ!!」

 その瞬間、バタリと魔獣が倒れます。

 あぁ、魔獣はコレット草の毒によって眠らせることができると古い書で読んだことがありましたけれど、やはり言い伝えは本当でしたのね。

 森には多くの魔獣が棲んでいます。次々に現れる魔獣を干し肉や、コレット草の毒を塗りつけたボーガンを放つことによって眠らせていきます。

 この魔獣は、先ほどの魔獣とは違って毛があまりなく、代わりに尻尾が鞭のように長いですのね。

 眠ってしまった魔獣を観察していますと、ドスンと地面が大きく揺れました。

『魔国に侵入し、魔獣を脅かす人間め……殺してやる』

 あぁ、炎に包まれた巨大な黒狼の姿をした妖魔様ですわ。長い間生き永らえた彼らは、人間の言葉をテレパシーによって伝えることができるのです。さすが今までの魔獣とはレベルが違います。

「なんて凛々しいお姿なのでしょう!!」
『なっ……! お前、わしが怖くないのか?』
「私、ずっと魔国に憧れておりましたの。妖魔様にお会いできて、とても光栄ですわ」

 その時、空全体に声が響き渡りました。 

『面白い。
 その女……連れてまいれ』

 すると、黒狼の妖魔様が「はっ、承知いたしました!」と深々と頭を下げました。

『女、私の背に乗れ』

 そう言った途端、体を包んでいた炎が消えました。

 妖魔様の背に乗れるなんて、夢みたいですわ。

『しっかり掴まっていろ』

 妖魔様は後ろ足を蹴り上げると、風のようにビューンと駆けました。

 森を抜けると、明るい光が差し込みます。森が切れたところどころに家がポツン、ポツンと見え、魔国でも私たちと同じように暮らしがあるのだと感じました。

 やがて、ポツポツと途切れ途切れだった家が塊となって街を形成し、城下町が見えます。けれど、そこに歩いているのは獣の頭をした魔人や妖魔でした。魔獣はやはり、深い森の中でしか暮らしませんのね。

 街の中心に、黒い雲に覆われた、幾つもの尖塔が建ち並ぶ城が見えました。

 あれが、魔王様の居城ですのね……

 ゴクリと唾を飲み込みます。

 正門の扉からではなく、妖魔様はあるバルコニーへと降り立ちました。

 バルコニーの窓が魔力によって両開きになります。

 そこには漆黒の闇を思わせるほどに深い黒い髪髪を腰まで流した魔王様が立っていらっしゃいました。眼帯を嵌め、切れ長の瞳は炎のように赤く、死人のように白い肌、影が入るほどに高い鼻、薄青色の唇に妖艶な雰囲気が漂い、その圧倒的オーラに打ちのめされます。

「人間を見るのは久方ぶりだ。しかも、勇者や騎士、魔道士ではなく、女とはな……」

 魔王様が黒いマントを翻し、私に近づきました。彼の赤い瞳が真っ直ぐに私を射抜きます。

「マリアンヌ、ビヨンド男爵の息女。婚約者であったデイナンド侯爵の爵士、ブランドによってイリディア公国から魔国へと追放された」
「さ、さすが魔王様!! なんでもご存知でいらっしゃいますのね!!」

 感激してそう答えると、魔王様が美しく整った眉をピクリと震わせました。

「私を恐れぬとは、いい度胸をしているな……
 ふむ、お前はイリデイア公国ではなかなかの悪事を働いていたようだな」
「悪事など……私は、当然のことをしたまでですわ」

 不満げにそう答えると、フッと魔王様が妖艶な笑みを浮かべました。

「悪事を悪事と思わぬとは、魔国に住むに相応しい性格をしている。
 お前、私の妻にならぬか? この何百年もの間、同じ暮らしが続き、退屈していたところだ。お前となら忘れていた刺激を思い出せそうだ」

 魔王様の赤い炎のような瞳がボッと燃えました。体からは黒いオーラが放たれています。

 なんて毒々しくカリスマ性に満ちたオーラなのでしょう。これこそ、私が求めていた理想の結婚相手ですわ。

「私で良ければ、喜んでお受けいたしますわ。
 ところで、魔王様……私、結界を解除できる手を持っていますのよ」

 にっこりと微笑んで、いまだ黒いドロドロとした煙に包まれたままの手を見せました。

 魔王様が目を瞠ります。

「おぉ、これが結界解除の魔法か! これまで結界のせいでイリデイア公国に侵入できずにいたが、これさえあれば……」
「えぇ。魔王様でしたら、これですぐにイリデイア公国など簡単に制圧できますわ。
 そして、世界は魔王様の手に……」

 魔王様が私の手を取り、引き寄せました。

「魔王ではない。ルシファーと呼べ。
 ますますマリアンヌ、お前のことを気に入った。私のそばにいて、共に世界を征服するのだ」
「ルシファー様。光栄ですわ」

 こうして、魔王の妻となった私は、ルシファー様に愛されて幸せに暮らすことになったのでした。
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