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逢い引き
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悠に促されて入った部屋は先程のお見合いの行われた部屋とは比べ物にならない程広く、まるで高級旅館の特別室のようだった。
入るとすぐに、御影石が敷き詰められた玄関になっていた。
玄関を上がると大きな檜の座卓が置かれた応接間。その先には広々とした12畳程の居間。壁側には一段高くなった床の間があり、秋の草花を描いた水墨画が飾られていた。一番奥の和風な造りのバルコニーからは、先程ふたりがいた日本庭園が覗いていた。左手には浴室と洗面所、その奥に別室へと続く障子があり、そこは寝室のようだった。
「ここは、料亭の他に一日一組限定で泊客を受け入れているんだ。もちろん、オフレコだけどね。政財界の大物達の取り引きや逢い引きの場所として使われているらしい……」
逢い、引き……
その言葉に薫子の胸がドクンと高鳴る。
「ここなら…誰にも咎められない……」
薫子だけに見せる、大好きな表情---二重でくっきりとした瞼ながらも切れ長で涼しげな少し上がり気味の目尻が細められ、キュン…と薫子の胸が切なく震える。
いつも、悠を見つめる度思う。
あぁ……私はこの人のことが好きなのだと。とてもとても好きで……好きで好きで仕方ないのだと。ただ、その美しい黒曜石の瞳を見つめるだけで……思い知らされる。
そして……その思いが自分で抑えられない程に溢れ出し、私は為すすべもなく、ただ泣きたい気持ちに駆られる……
「悠、逢いたかった……」
自分の想いを再確認するように口にすると、薫子は悠の胸へ顔を埋めた。
「俺も……薫子に逢いたかった……今日、薫子が誰か他の男と会っているのかと思うと気が狂いそうで……勢いで、ここまで来てた……」
悠が、薫子を包み込むように抱き締めた腕に力を込める。悠の匂いがふわっと薫子の鼻を擽った。鎮まりかけた欲情の炎が風に煽られる。
「こんな気持ちになったの、初めてだ……」
悠の唇が軽く触れる。薄くていつも冷たいその唇が、薫子の心を温かくする。
「悠…好き…」
思いを込めて、薫子も悠の唇に軽く触れた。お互いの想いを重ね合わせるように、何度も何度も唇を押し付け合わせた後、ギュッと抱き締め合った。
「悠……大好き……」
何度言っても足りない。きっと……毎日、24時間言っても、この想いを伝えきることなど出来ない……
そして、そのもどかしさに苦しくなる……
「薫子、俺の君への深い愛をどうやったら分かってもらえるのだろう……って君に逢うたびに思うんだ。
どんな言葉を使っても、どれだけ繰り返し伝えたとしても……とても伝え切れそうにない……」
同、じ……
「うん……」
私も……同じ、だよ……
言葉では伝えきれないから……この想いを、私の熱で、感触で感じて欲しい……
薫子は、初めて自ら悠に唇を寄せた。
「ところで…さっき、あの男とは知り合いって言ってたけど……」
っ……
「でも、だいぶ親しいみたいだったから…どんな、知り合いなの?」
悠にはちゃんと説明しないと、駄目だよね……
「実は……遼ちゃんは幼稚舎の頃から何かと私に突っかかってくるところがあって……」
薫子は幼稚舎から小等部までの遼とのエピソードを掻い摘んで話した。
入園式に髪の毛を引っ張られたこと、幼稚舎の時はいつも赤ちゃん扱いされてたこと、小等部に入ってからいつもグループ分けの時は強引に同じ組にさせられたこと、何かと言うといつもからかったり、ちょっかい出してくるのに、他の子が同じことをすると怒って喧嘩になってたこと……
話しながら、見合いの席で遼の母が薫子のことを『初恋の君』と言っていたことを薫子は思い出し、ようやく今になり遼のしていた行動が自分の気を引くための行動だったと気づいた。
悠は薫子から話を聞いた後、ボソッと呟いた。
「......つまり、好きな女の子を苛めたくなる典型的なタイプか。理解に苦しむな……」
「え……?」
「俺だったら……好きな女の子には優しくしたいし、甘えたいから……」
そう言って、悠が薫子の瞳をじっと覗き込む。
深い漆黒の瞳に覗き込まれて落ち着かない気持ちになり、薫子は頬を染めて長い睫毛をそっと伏せた。
「わ、私も……好きな人に優しくされたいし……甘えて欲しい……」
俯いたままの薫子の首筋へと悠の整った顔が寄せられるのを感じて、それだけでゾクゾクと震える躰を思わず抱き締める。
すると、悠が何かに気づいたようにピクッとしたかと思うと、気配が遠ざかっていった。
どうし、て……
拒否、された……そんな風に感じて、悲痛な思いで薫子は顔を上げた。
悠は自嘲気味に笑い、先程悠に手を引かれて歩いた時に乱れて少し開いてしまった胸元の襟をくいっと引き上げて寄せると、帯と裾を慣れた所作で直した。
裾を直しながら、悠の小さく低い声が響く。
「このまま薫子に触れたら……自制する自信、ないから……」
そう言って立ち上がると、悠は後ろを向いた。
「座ろうか……」
ぁ……
「い、嫌……」
考えるより先に、悠の背中に抱きついていた。悠の背中がビクンッと大きく撓った。
「……自制、しなくていい。分かったの、庭園で悠に口づけされた時に……
私、悠に全てを捧げたい……私の何もかも……悠に、あげたい、の……」
高校生の時に交わした約束---『結婚するまでは、キス以上のことはしない』。
でも、それはもう無理だってこと、気付いてしまった……
心、だけじゃない。私の躰が……こんなにも、悠を求めてる……
入るとすぐに、御影石が敷き詰められた玄関になっていた。
玄関を上がると大きな檜の座卓が置かれた応接間。その先には広々とした12畳程の居間。壁側には一段高くなった床の間があり、秋の草花を描いた水墨画が飾られていた。一番奥の和風な造りのバルコニーからは、先程ふたりがいた日本庭園が覗いていた。左手には浴室と洗面所、その奥に別室へと続く障子があり、そこは寝室のようだった。
「ここは、料亭の他に一日一組限定で泊客を受け入れているんだ。もちろん、オフレコだけどね。政財界の大物達の取り引きや逢い引きの場所として使われているらしい……」
逢い、引き……
その言葉に薫子の胸がドクンと高鳴る。
「ここなら…誰にも咎められない……」
薫子だけに見せる、大好きな表情---二重でくっきりとした瞼ながらも切れ長で涼しげな少し上がり気味の目尻が細められ、キュン…と薫子の胸が切なく震える。
いつも、悠を見つめる度思う。
あぁ……私はこの人のことが好きなのだと。とてもとても好きで……好きで好きで仕方ないのだと。ただ、その美しい黒曜石の瞳を見つめるだけで……思い知らされる。
そして……その思いが自分で抑えられない程に溢れ出し、私は為すすべもなく、ただ泣きたい気持ちに駆られる……
「悠、逢いたかった……」
自分の想いを再確認するように口にすると、薫子は悠の胸へ顔を埋めた。
「俺も……薫子に逢いたかった……今日、薫子が誰か他の男と会っているのかと思うと気が狂いそうで……勢いで、ここまで来てた……」
悠が、薫子を包み込むように抱き締めた腕に力を込める。悠の匂いがふわっと薫子の鼻を擽った。鎮まりかけた欲情の炎が風に煽られる。
「こんな気持ちになったの、初めてだ……」
悠の唇が軽く触れる。薄くていつも冷たいその唇が、薫子の心を温かくする。
「悠…好き…」
思いを込めて、薫子も悠の唇に軽く触れた。お互いの想いを重ね合わせるように、何度も何度も唇を押し付け合わせた後、ギュッと抱き締め合った。
「悠……大好き……」
何度言っても足りない。きっと……毎日、24時間言っても、この想いを伝えきることなど出来ない……
そして、そのもどかしさに苦しくなる……
「薫子、俺の君への深い愛をどうやったら分かってもらえるのだろう……って君に逢うたびに思うんだ。
どんな言葉を使っても、どれだけ繰り返し伝えたとしても……とても伝え切れそうにない……」
同、じ……
「うん……」
私も……同じ、だよ……
言葉では伝えきれないから……この想いを、私の熱で、感触で感じて欲しい……
薫子は、初めて自ら悠に唇を寄せた。
「ところで…さっき、あの男とは知り合いって言ってたけど……」
っ……
「でも、だいぶ親しいみたいだったから…どんな、知り合いなの?」
悠にはちゃんと説明しないと、駄目だよね……
「実は……遼ちゃんは幼稚舎の頃から何かと私に突っかかってくるところがあって……」
薫子は幼稚舎から小等部までの遼とのエピソードを掻い摘んで話した。
入園式に髪の毛を引っ張られたこと、幼稚舎の時はいつも赤ちゃん扱いされてたこと、小等部に入ってからいつもグループ分けの時は強引に同じ組にさせられたこと、何かと言うといつもからかったり、ちょっかい出してくるのに、他の子が同じことをすると怒って喧嘩になってたこと……
話しながら、見合いの席で遼の母が薫子のことを『初恋の君』と言っていたことを薫子は思い出し、ようやく今になり遼のしていた行動が自分の気を引くための行動だったと気づいた。
悠は薫子から話を聞いた後、ボソッと呟いた。
「......つまり、好きな女の子を苛めたくなる典型的なタイプか。理解に苦しむな……」
「え……?」
「俺だったら……好きな女の子には優しくしたいし、甘えたいから……」
そう言って、悠が薫子の瞳をじっと覗き込む。
深い漆黒の瞳に覗き込まれて落ち着かない気持ちになり、薫子は頬を染めて長い睫毛をそっと伏せた。
「わ、私も……好きな人に優しくされたいし……甘えて欲しい……」
俯いたままの薫子の首筋へと悠の整った顔が寄せられるのを感じて、それだけでゾクゾクと震える躰を思わず抱き締める。
すると、悠が何かに気づいたようにピクッとしたかと思うと、気配が遠ざかっていった。
どうし、て……
拒否、された……そんな風に感じて、悲痛な思いで薫子は顔を上げた。
悠は自嘲気味に笑い、先程悠に手を引かれて歩いた時に乱れて少し開いてしまった胸元の襟をくいっと引き上げて寄せると、帯と裾を慣れた所作で直した。
裾を直しながら、悠の小さく低い声が響く。
「このまま薫子に触れたら……自制する自信、ないから……」
そう言って立ち上がると、悠は後ろを向いた。
「座ろうか……」
ぁ……
「い、嫌……」
考えるより先に、悠の背中に抱きついていた。悠の背中がビクンッと大きく撓った。
「……自制、しなくていい。分かったの、庭園で悠に口づけされた時に……
私、悠に全てを捧げたい……私の何もかも……悠に、あげたい、の……」
高校生の時に交わした約束---『結婚するまでは、キス以上のことはしない』。
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