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こんなに近くにいるのに……
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一人の女性が軽く悠のスーツの裾を摘んで注目を引き、耳元に何か話しかけた。その仕草にギュッと心臓が掴まれるような痛みを感じつつ、薫子はその女性の顔を見てハッとした。
あ、あの人。長妻景子だ......
朝の連続ドラマで主演女優として華々しいデビューを飾り、それから芸能界のトップ女優として君臨し続ける「ドラマの女王」。最近ではデビューを飾ったドラマのリバイバル版で主人公の母親役として抜擢され、注目されている。
悠は大女優である景子に対しても物怖じすることなく、彼女の呼びかけに微笑み、会話を交わしていた。
見たくないと思うのに、悠が何をしているのか気になって仕方がない。見れば傷つき、苦しくなるのに、それでも知りたくて仕方がない。
心が真っ黒に覆われ、そこから嫉妬と焼きつくような焦燥が燻る。
金井と話し終わった龍太郎も悠の存在に気づいた。
「風間の息子も来ていたのか......不愉快だな。まぁ、あいつが来ていないだけマシだが」
その言葉に薫子は心臓が凍りつく。
「ふんっ。息子もあいつと同じ優男と見える。なよなよしやがって。薫子...お前、あんな奴とは関わるんじゃないぞ」
薫子の中に悲しみとも怒りともつかない激情が込み上がる。それを必死に抑え、俯くだけで精一杯だった。
だが、同時に安堵もした。龍太郎は薫子と悠が付き合っていることを知らないということが証明されたからだ。
龍太郎は薫子の恋愛だけではなく、薫子自身に興味などないのだ。知るはずもない。
ふと龍太郎が、何かに気づいたようにどこかへと向かった。遼もそれに気付き、後を追おうとして薫子の肩をポン、と叩いた。
「おい、何ボーッとしてんだ。親父さん、行っちまうぞ」
「う、うん......」
遼の声に頷き、薫子は後に続いた。
「大和君もついに社交界デビューか」
龍太郎が大和の肩に手を置いた。
「ご、無沙汰しております……」
大和はその声に振り向くと、龍太郎に挨拶し、その後隣に立つ薫子に気づいた。
大和、助けて......
ぎこちない笑顔を浮かべつつも、思わず縋りつくような視線を投げかけてしまう。どうすることも出来ない状況だと知りつつも、大和ならなんとかしてくれるんじゃないか、そんな淡い期待を抱いてしまう。
すると、薫子の隣に立っていた遼がすっと前に出た。
「大和君、お久しぶりです」
「えっ……もしかして、遼……なの、か!?」
大和は突然現れた男に面食らいつつも、小等部からあまり顔立ちの変わっていない遼をすぐに思い出したらしい。
「えぇ、長い米国滞在を経てようやくこちらに戻って来ました。君とは同じ大学の学部に通うことになるから、ひとつまた、よろしく頼みます」
遼が爽やかな笑顔を向け、米国帰りらしく大和に握手を求めた。
「……こ、ちらこそ」
大和がかなり動揺しているのが見て取れた。
そうだよね、あのガキ大将だった遼ちゃんがまるで大人の男性みたいな態度してくるんだもん、ビックリするよね。私もお見合いの席では本当に驚いたし。
でも、本当は中身は全然変わってないんだけど......
「そうか、大和君は遼君とは幼稚舎で一緒だったのだな。これからは薫子の婚約者、ゆくゆくは配偶者となるから、仕事も含めて懇意に頼むよ、ハッハッハッハ……」
龍太郎が上機嫌に笑った。
ハッとしたように薫子を見つめた大和に、同意するように薫子は悲しく頷いた。
こんな形で私のお見合い相手が遼ちゃんだったなんて、知られたくなかった.....しかも、この場には悠までいるなんて。逃げ出したい......
見上げた大和の顔は愴然としていた。
きっと、大和はこのパーティーの場に悠もいることを思って、私のことを心配してくれているんだ......
「じゃ、大和君またな」
龍太郎が大和の肩を軽く叩いて立ち去る。薫子と遼もそれに続いた。
龍太郎の視線の先には元財務大臣である浅野一郎がいた。
今日はいったい何人の人に婚約者であることを紹介されるのだろう......
薫子は深い溜息を喉の奥に押し込め、龍太郎の呼びかけに応えた。
あ、あの人。長妻景子だ......
朝の連続ドラマで主演女優として華々しいデビューを飾り、それから芸能界のトップ女優として君臨し続ける「ドラマの女王」。最近ではデビューを飾ったドラマのリバイバル版で主人公の母親役として抜擢され、注目されている。
悠は大女優である景子に対しても物怖じすることなく、彼女の呼びかけに微笑み、会話を交わしていた。
見たくないと思うのに、悠が何をしているのか気になって仕方がない。見れば傷つき、苦しくなるのに、それでも知りたくて仕方がない。
心が真っ黒に覆われ、そこから嫉妬と焼きつくような焦燥が燻る。
金井と話し終わった龍太郎も悠の存在に気づいた。
「風間の息子も来ていたのか......不愉快だな。まぁ、あいつが来ていないだけマシだが」
その言葉に薫子は心臓が凍りつく。
「ふんっ。息子もあいつと同じ優男と見える。なよなよしやがって。薫子...お前、あんな奴とは関わるんじゃないぞ」
薫子の中に悲しみとも怒りともつかない激情が込み上がる。それを必死に抑え、俯くだけで精一杯だった。
だが、同時に安堵もした。龍太郎は薫子と悠が付き合っていることを知らないということが証明されたからだ。
龍太郎は薫子の恋愛だけではなく、薫子自身に興味などないのだ。知るはずもない。
ふと龍太郎が、何かに気づいたようにどこかへと向かった。遼もそれに気付き、後を追おうとして薫子の肩をポン、と叩いた。
「おい、何ボーッとしてんだ。親父さん、行っちまうぞ」
「う、うん......」
遼の声に頷き、薫子は後に続いた。
「大和君もついに社交界デビューか」
龍太郎が大和の肩に手を置いた。
「ご、無沙汰しております……」
大和はその声に振り向くと、龍太郎に挨拶し、その後隣に立つ薫子に気づいた。
大和、助けて......
ぎこちない笑顔を浮かべつつも、思わず縋りつくような視線を投げかけてしまう。どうすることも出来ない状況だと知りつつも、大和ならなんとかしてくれるんじゃないか、そんな淡い期待を抱いてしまう。
すると、薫子の隣に立っていた遼がすっと前に出た。
「大和君、お久しぶりです」
「えっ……もしかして、遼……なの、か!?」
大和は突然現れた男に面食らいつつも、小等部からあまり顔立ちの変わっていない遼をすぐに思い出したらしい。
「えぇ、長い米国滞在を経てようやくこちらに戻って来ました。君とは同じ大学の学部に通うことになるから、ひとつまた、よろしく頼みます」
遼が爽やかな笑顔を向け、米国帰りらしく大和に握手を求めた。
「……こ、ちらこそ」
大和がかなり動揺しているのが見て取れた。
そうだよね、あのガキ大将だった遼ちゃんがまるで大人の男性みたいな態度してくるんだもん、ビックリするよね。私もお見合いの席では本当に驚いたし。
でも、本当は中身は全然変わってないんだけど......
「そうか、大和君は遼君とは幼稚舎で一緒だったのだな。これからは薫子の婚約者、ゆくゆくは配偶者となるから、仕事も含めて懇意に頼むよ、ハッハッハッハ……」
龍太郎が上機嫌に笑った。
ハッとしたように薫子を見つめた大和に、同意するように薫子は悲しく頷いた。
こんな形で私のお見合い相手が遼ちゃんだったなんて、知られたくなかった.....しかも、この場には悠までいるなんて。逃げ出したい......
見上げた大和の顔は愴然としていた。
きっと、大和はこのパーティーの場に悠もいることを思って、私のことを心配してくれているんだ......
「じゃ、大和君またな」
龍太郎が大和の肩を軽く叩いて立ち去る。薫子と遼もそれに続いた。
龍太郎の視線の先には元財務大臣である浅野一郎がいた。
今日はいったい何人の人に婚約者であることを紹介されるのだろう......
薫子は深い溜息を喉の奥に押し込め、龍太郎の呼びかけに応えた。
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