【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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こんなに近くにいるのに……

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 会場から離れたロビーのソファ。まるで荷物のように薫子はそこにドサッと下ろされた。

「っ...りょ、遼ちゃん...痛い......」
「あ?悪ぃ。女って華奢なんだよな、加減分かんねぇ。
 ってか、お前さっきより顔色悪ぃじゃねぇーか。大丈夫か? 家、送ってくか?」

 あんな姿、悠に見られて......追いかけて行きたい。今すぐにでも、誤解だって言いたいのに。
 私はどうすることも出来ず、ただ唇を噛み締めることしか出来ない......
 
 苦しい......苦しいよ、悠......

 薫子には、家に帰るまでの気力はもう残っていなかった。幸いここは櫻井財閥のホテルだ。

「大、丈夫。ここに私専用の部屋があるから...そこで休んでるね」

 以前も社交場にて気分を悪くしたことがあり、その一件の後、龍太郎の秘書からの提案により、何かあった時のためにと薫子専用の部屋をホテルに確保してくれることになったのだった。

 立ち上がろうとする薫子の手を、遼が握った。

「一人で行けるわけねぇだろ。どこの部屋だ?」

 え...遼ちゃんも、行くの?

「ほら、早く行くぞ。お前、鍵持ってんのかよ?」
「鍵は...フロント係で預かってるから、貰わないといけないの」

 それにより、この部屋を使うと父に知られてしまう可能性を恐れ、薫子は今まで使う事はなかったのだった。

「よし、フロントだな」

 そう言って近づいた遼を薫子は必死に制した。

「あ、あの...もう肩に担ぐのは...大丈夫だから。ちゃんと、自分で歩けるし」
「何言ってんだ。遠慮すんなって。お前、何食ってんのか知らねぇけどめちゃめちゃ軽いし、心配すんなって」

 遼は歯を見せてニカッと笑った。

 そうじゃなくて!!!

 だがそんな薫子の思いも虚しく、また遼に荷物のように肩に担がれフロントへと向かうこととなった。

「櫻井薫子の個人部屋の鍵をお願いします」

 フロント係は目の前に立つ大男である遼を見上げ、その後そこに担がれている小柄な女性の後ろ姿を見た。

「し、失礼ですが、こちらのお部屋の鍵は櫻井様ご本人でないとお渡し出来ないことになっておりまして......」

 それを聞き、遼が「だとよ」と言い、くるりと背を向けた。

 フロント係と向き合う形となった薫子は顔を真っ赤にし、

「本人、です......」

 それだけ言うと、鍵を受け取った。

 恥ずかしくて、死にそう......

 薫子が鍵を受け取ったのを確認すると、遼がエレベーターホールへと向かう。恥ずかしくて堪らない薫子は瞳を閉じた。

 幸いエレベーターには二人の他には誰も乗ってこず、薫子はホッとした。

「どの階だ?」
「じゅう、きゅう...階」

 ここまで来て誤魔化せる筈もないので、薫子は観念して答えた。

 まさか気分が悪い私を襲うようなことはしないだろうし......

 そう思いながらも不安な気持ちが広がっていく。

 薫子から鍵を受け取った遼が扉を開ける。

 部屋は爽やかな白と水色の家具とリネンで統一されており、清潔感が漂っている。窓からは高層ビルが立ち並んでいるのがよく見えた。

「お、前... 贅沢だな。こんな豪華な部屋与えられて」
「で、でも...ここに来るの、初めてなの......」
「えぇっ!!!マジで!? もったいねぇー。俺ならダチ呼んでパーティーだな」

 そんな遼の姿が容易に思い浮かんで、薫子は思わずクスリと笑った。人混みから離れたお陰で、身体的にはだいぶ落ち着いた。

 遼は綺麗にベッドメイキングされた白と水色のストライプのベッドカバーの掛けられたベッドへとダイブすると大の字になった。

「あーあ、俺もここで居眠りすっかなぁ。あっち戻るの面倒クセェし」
「え...りょ、遼ちゃん!?」

 思わず声が上擦った薫子を見て遼がベッドから飛び降り、額をデコピンした。

「った...私、病人なのに......」
「病人ならさっさと寝とけ。心配しなくても、ちゃんと会場に戻るっつーの」

 薫子をベッドへと座らせると遼は水差しを手に取り、グラスにコップを注いで自分でグイと飲み干した。そしてもう一度注いで、今度は薫子に渡した。

「ほら飲めよ。少しは気分も良くなんだろ」

 悠ならきっと...何をおいてもすぐに私に水を差し出すんだろうな。

 そう考えて先程悠と交わした視線を思い出し、薫子の胸はチクリと痛んだ。

「んじゃ、だりぃけど行ってくるわ」
「うん...頑張ってね」

 そう言った後、薫子は少し考えた。

 心配してここまで連れてきてもらったんだし、ちゃんとお礼言わないといけないよね。

「あの...ありが、とう」

 その途端、遼の顔が耳まで真っ赤に染まった。

「なっ...と、当然だろ。男として!!! じゃ、じゃあなっ!!!」

 遼は手足同時に動かしながらまるでロボットのように扉まで行くと、バッと振り向いた。

「あと1時間ぐらいでパーティーは終わるはずだから、俺が迎えに来るまで、おとなしくしてろよ!」

 バタン!!!

 激しい音とともに扉が閉まる。

 りょ、遼ちゃん...なんか顔真っ赤だったけど......どうしたんだろう?
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