【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

文字の大きさ
70 / 355
衝撃

しおりを挟む
 コンサートホールのロビーに戻ると、もうそこには誰もいなかった。一番人気のない奥のベンチに悠に案内され、座る。

 悠も隣に座ると、薫子を気遣うように背中を優しく撫でた。

「......薫子、大丈夫?」

 その一言で、今までなんとか均衡を保っていた薫子の胸の内の感情が決壊したように溢れ出してきた。

「ゆ、悠......わた、し...ッ...ヒッ...あ、あ...な、ック...み、ぎ......ッグ...見た、こと.....」

 喉に熱いものが込み上げてきて、上手く言葉にならない。悠が、薫子を包み込むように抱き締める。

「ごめん...俺が、追いかけようなんて言ったから.....」

 抱き締めた腕に僅かに力が籠る。

 薫子は無言で首を振った。

 もし、あの時...追いかけていなかったら、私は後悔してたと思うから。

 けれど、その視線の先には薫子が予想もしていなかったような光景があったのだった。

 パニックを起こす美姫を目の当たりにし、薫子は怖いとさえ感じてしまった。美姫が、まるで別人のようだった。

ーーそんな風に美姫を変えてしまった原因は、なんだったのか。

 知りたいと強く思う一方で、知りたくないという相反する気持ちもあった。

 秀一が側にいて美姫を支えてくれていることに安堵する気持ちもありつつ、薫子はそれをまた寂しくも感じていた。

「ッグ...ど、して......ヒグッ...美姫.....ッウ.....ッグッ...何、も...いて...ックぐれな...ッウウッ」

 私たち、親友じゃなかったの? ずっと、ずっと一緒にいたのに......なんでも話せる仲だと思ってたのに......
 秀一さんなら、大和になら、話せるのに...

 どうして私には、何も話してくれないの?

「さみし...よ...ッグ...悠...」
「うん......」

 薫子は悠の胸に抱かれ、涙が枯れる程泣いた。悠はそんな薫子を優しく包み込み、宥めるように背中を撫で続けた。

 少しずつ落ち着きを取り戻してきた薫子は、ふと時計を目にやった。

 いけない......迎えの時間を過ぎている......

 涙を拭き、深呼吸して落ち着かせると、薫子は鞄からスマホを取り出した。スマホの電源を入れると、そこには留守電ありを知らせるメッセージがあった。

『薫子様、お迎えにあがりました。コンサートホールの正面出口にてお待ちしております』

 運転手からのメッセージを確認し、通話ボタンを押す。

「もしもし...今からそちらに向かいます」

 そう言って、薫子は電話を切った。

 その様子を見守っていた悠と顔を見合わせ、薫子はふっと息を吐く。

「今日、は...ありが、と」

 まだ涙で腫れた目を俯かせ、小さく礼を言った。

「薫子、ごめ...」
「謝らないで...悠には、感謝してるから」

 悠の言葉を遮ると、また止まった筈の涙が溢れそうになり、熱くなった目頭を押さえた。

「もう、行かないと...」

 これ以上ここにいては、運転手に怪しまれてしまうかもしれない。

 薫子が立ち上がると、悠も立ち上がった。悠が薫子の手を握り、悠の冷たい手の温度が流れ込んでくる。

「気をつけて」
「うん、悠も......」

 後ろ髪を引かれながら、薫子は出口に向かって歩いた。もうその先には黒塗りのベンツが停まっているのが見える。


 薫子はチラッと後ろを振り返り、手を振ると小走りにベンツに向かう。悠の不安げな表情に、薫子の胸が絞られるように痛くなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

処理中です...