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勝負

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 ふたりは、海岸近くにあるラーメン屋に入った。悠はおしゃれなカフェテリアに入ろうとしたのだが、その隣にあるラーメン屋に遼が入ろうと強引に押し切ったのだ。

 引き戸を開けると、店の奥にいた店主と思われる、がたいのいい骨太そうな男が顔を上げた。だが言葉を発することなく、丸椅子に座ったままタバコを口に咥え、再び読んでいた新聞に顔を落とす。

 夏場はきっと海水浴やサーフィンに来た客で賑わっているのだろうが、冬場ということで店は開店休業のような状態で、遼と悠の他には客は見当たらなかった。

 やべぇ、失敗したか......

 遼は自分が強引にラーメン屋に行くことに決めたことを、少しばかり後悔した。

 ふたりは勝手に奥のテーブルに腰掛けることにした。テーブルは一応拭いた形跡はあるものの、染み付いた脂がべっとりと張り付いている。

 悠がテーブルに触らないようにして座ると、ぽつりと呟いた。

「ラーメン屋入ったの、初めてだ」
「げっ、マジかよ!? お前、どんだけ坊ちゃんなんだよ。もしかして、ラーメン食べるのも初めてなのか?」
 「いや。中華料理のレストランとか家でシェフが作るラーメンなら食べたことあるけど、こういう感じの店は初めてだ」

「海外でもラーメンブームでさ、結構アメリカにもいっぱいあんだよ。照り焼きチキンとか天ぷらとか載ってたりすんだけどな」
「それは、斬新だな」
「天ぷらは意外と上手いぞ。ま、ラーメンも蕎麦と同じ麺だしな」

 店主がコップ2つと大きな水差しを持ってきた。

 遼が、慣れた手付きで水差しからコップに水を注ぐ。

「よし! じゃ、俺が奢ってやる。
 あ、親父! 味噌ラーメン2つにご飯大盛り2つ、餃子2つお願い!」

 店主に向かって勢い良く注文する。店主は低い声で「あいよ」とボソッと呟いた後、調理場へと入って行った。

 悠は軽く溜息を吐いた。

「え。なんで味噌ラーメン? それに、麺にご飯はいらない。どっちも炭水化物だし、必要ない」
「味噌ラーメンが一番旨いからに決まってんだろ。ラーメンに餃子っつったらご飯ないと物足りねぇし。文句言わずに食え!」
「まぁ、いいけど」

 悠は諦めたように息を吐くと姿勢を正し、遼を見据えた。

「それで、話って?」

 漆黒の瞳が真っ直ぐに遼に向けられ、ドキンと鼓動が跳ねる。

 てか、男相手に何俺はドキドキしてんだ。つか、ほんとにムカつくぐらい整った顔しやがって。

「お前さ、あいつと……いつから」
「付き合ったのは高校1年の5月からだ」
「いや、付き合ったのじゃなくて。いつからお前は薫子のことをす……その、いいなって思うようになったんだ」
「青海学園小等部の卒業式の朝。俺はきっと、彼女に出逢ったあの瞬間に恋に落ちたんだと思う」

 悠の言葉に遼の瞳孔が大きく見開く。

 え。おいおいおい、待てよ......
 小等部卒業式の日って、俺が薫子に一世一代の告白した日じゃねーか。

 もしかして薫子が俺の告白覚えてなかったのって、風間に出会って恋に落ちたからとかなのか!?
 だったら俺、もうあの時点で既に風間に負けてた、とか……惨めすぎんだろ、おい。
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