238 / 355
彼女の決意、私の思い
10
しおりを挟む
薫子は苦しそうに睫毛を伏せ、細かく震わせた。
「悠、は......あの事故、で......ッ...失明、して。起き上がることも、寝返りをうつことさえも出来ないって.....ック遼、ちゃんが......教えてくれて。
悠、は......私の幸せを思い......ウッ......身を、引いて......別れる事に、したって......ッグ」
シツ、メイ......
美姫の目の前が真っ暗になり、手先が冷たくなり、ブルブルと震えた。
手術室からストレッチャーで運ばれてきた悠を見た時、彼が重篤であることは一目瞭然だった。だがまさか、視力まで失っていたとは考えもつかなかった。
やっぱり悠は、薫子を嫌いになって別れを告げたわけではなかったんだ。
美姫は安堵するものの、ふたりの未来を思うと心が重くなった。
悠は、今まで薫子を守ってきた自分に代わり、彼女を庇護し、過保護なまでに愛してきた。失明し、寝たきりの状態の悠が薫子に別れを告げたのは、彼の優しさと愛情からだと美姫には痛いほど分かった。
愛しているから。
愛しているからこそ、手放さなければならない愛もある。
美姫は秀一のことを思い出し、ズクンと胸が痛んだ。
「私はいつも皆に守ってもらってばかりで、何ひとつ自分から行動することなんてなかった。何かあるとすぐに悲観的になって、怖くなって、動けなくて。そして、諦めてた......
悠も......遼ちゃんも......私の幸せを願って、覚悟して、決断してくれたのに。私は背中を向け、殻に閉じこもってた。
......遼ちゃんに、言われたの。俺がいくら努力したからって、お前が自ら幸せだって思わなくちゃ意味がないんだって。私、だけじゃなく......子供も不幸だって。
そんなことに気づけなかったなんて......ほんとに、馬鹿だよね、私」
「薫子......」
苦しそうな表情を浮かべた美姫の腕を、薫子が強く掴んだ。
「ねぇ、美姫。どうしたら、変われるの? どうしたら、美姫みたいに強くなれるの?
私は、変わりたいと思いながらも...... まだ怖い。まだ、迷ってる。
どうするべきか...ック分か、らない......」
眉を寄せ、唇を震わせる。
美姫は、薫子の肩を抱き寄せた。
「薫子。私は、自分の力で強くなれたわけじゃない。
秀一さんへの愛情が、私を強くしてくれたの。秀一さんを愛したこと、彼に愛されたことは......辛く、苦しい一方で、これ以上ない最高の幸せだった。淡い思慕から始まった秀一さんへの恋心は、お互いの思いが通じあい、恋人になったことで愛情へと変わっていった。
私は彼を独占し、彼の愛情の全てを私に向けて欲しいと願うようになっていた。深い愛情で結ばれれば結ばれるほど、離れがたくなって......お互いを鎖で縛り付けて、苦しめあっていた。
それこそが、至高の愛だと信じていた」
美姫が、切ない表情を浮かべる。
「でも、傷ついた秀一さんを見て、魂からピアノを求める彼を感じて、相手を思って離れる愛もあるのだと、気づいたの。
もし私があのまま自分のエゴを貫き、秀一さんへの愛情に縋り付いていたなら......彼にも、私にも未来はなかった。秀一さんを心から愛しているからこそ、変わることができた。彼に縋りたい気持ちを断ち切り、強くなることができた。
秀一さんへの愛情を胸に、決断した別れ。
......私はそれを、後悔してない」
力強い美姫の言葉が、静かに部屋に満ちていく。
薫子の全身が震えた。
美姫.......。やっぱり、美姫は強いよ。
強くて、眩しくて、美しい存在。いつも、私の憧れであり続ける、美姫。
愛しているからこそ、その人の為に別れを選ぶなんて。
あれ程までに深く激しく愛し合った秀一さんとの別れを、後悔してないと言えるなんて。
そんな風に、人を愛することが出来るなんて。
美姫は、凄いよ......
「悠、は......あの事故、で......ッ...失明、して。起き上がることも、寝返りをうつことさえも出来ないって.....ック遼、ちゃんが......教えてくれて。
悠、は......私の幸せを思い......ウッ......身を、引いて......別れる事に、したって......ッグ」
シツ、メイ......
美姫の目の前が真っ暗になり、手先が冷たくなり、ブルブルと震えた。
手術室からストレッチャーで運ばれてきた悠を見た時、彼が重篤であることは一目瞭然だった。だがまさか、視力まで失っていたとは考えもつかなかった。
やっぱり悠は、薫子を嫌いになって別れを告げたわけではなかったんだ。
美姫は安堵するものの、ふたりの未来を思うと心が重くなった。
悠は、今まで薫子を守ってきた自分に代わり、彼女を庇護し、過保護なまでに愛してきた。失明し、寝たきりの状態の悠が薫子に別れを告げたのは、彼の優しさと愛情からだと美姫には痛いほど分かった。
愛しているから。
愛しているからこそ、手放さなければならない愛もある。
美姫は秀一のことを思い出し、ズクンと胸が痛んだ。
「私はいつも皆に守ってもらってばかりで、何ひとつ自分から行動することなんてなかった。何かあるとすぐに悲観的になって、怖くなって、動けなくて。そして、諦めてた......
悠も......遼ちゃんも......私の幸せを願って、覚悟して、決断してくれたのに。私は背中を向け、殻に閉じこもってた。
......遼ちゃんに、言われたの。俺がいくら努力したからって、お前が自ら幸せだって思わなくちゃ意味がないんだって。私、だけじゃなく......子供も不幸だって。
そんなことに気づけなかったなんて......ほんとに、馬鹿だよね、私」
「薫子......」
苦しそうな表情を浮かべた美姫の腕を、薫子が強く掴んだ。
「ねぇ、美姫。どうしたら、変われるの? どうしたら、美姫みたいに強くなれるの?
私は、変わりたいと思いながらも...... まだ怖い。まだ、迷ってる。
どうするべきか...ック分か、らない......」
眉を寄せ、唇を震わせる。
美姫は、薫子の肩を抱き寄せた。
「薫子。私は、自分の力で強くなれたわけじゃない。
秀一さんへの愛情が、私を強くしてくれたの。秀一さんを愛したこと、彼に愛されたことは......辛く、苦しい一方で、これ以上ない最高の幸せだった。淡い思慕から始まった秀一さんへの恋心は、お互いの思いが通じあい、恋人になったことで愛情へと変わっていった。
私は彼を独占し、彼の愛情の全てを私に向けて欲しいと願うようになっていた。深い愛情で結ばれれば結ばれるほど、離れがたくなって......お互いを鎖で縛り付けて、苦しめあっていた。
それこそが、至高の愛だと信じていた」
美姫が、切ない表情を浮かべる。
「でも、傷ついた秀一さんを見て、魂からピアノを求める彼を感じて、相手を思って離れる愛もあるのだと、気づいたの。
もし私があのまま自分のエゴを貫き、秀一さんへの愛情に縋り付いていたなら......彼にも、私にも未来はなかった。秀一さんを心から愛しているからこそ、変わることができた。彼に縋りたい気持ちを断ち切り、強くなることができた。
秀一さんへの愛情を胸に、決断した別れ。
......私はそれを、後悔してない」
力強い美姫の言葉が、静かに部屋に満ちていく。
薫子の全身が震えた。
美姫.......。やっぱり、美姫は強いよ。
強くて、眩しくて、美しい存在。いつも、私の憧れであり続ける、美姫。
愛しているからこそ、その人の為に別れを選ぶなんて。
あれ程までに深く激しく愛し合った秀一さんとの別れを、後悔してないと言えるなんて。
そんな風に、人を愛することが出来るなんて。
美姫は、凄いよ......
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる