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決別
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龍太郎が、フンッと鼻を軽く鳴らした。
見合いの際にも薫子は抵抗したが、それも龍太郎の威圧的な態度と言葉により一蹴され、薫子は為す術もなくただ唇を噛み締めただけだった。龍太郎にとっては、薫子の決意の籠った声も、子犬の牽制程度にしか感じなかった。
結婚式は目前に迫っておるのだ。今更、薫子がどう足掻こうが、結婚式を取り止めることなど出来るものか。だが......珍しくわしを呼び出してまで説得しようとしたその努力を買って、話だけでも聞いてやろうじゃないか。
龍太郎はグラスを手に取り、芳醇なブランデーを口にしながらゆったりとソファに凭れ、目の前の娘に話を促すように目線を送った。
揺るがない自信を見せる龍太郎に、薫子の心奥から嫌悪感が湧き上がる。
この人は......私の決意ある口調を聞いてすら、まだ私が何も出来ない小娘だとタカをくくってる。私に、抵抗する力などない、と。
以前の私なら......確かにそうだった。全てお父様の言う通りに行動し、自分の意見を飲み込み、黙って従ってきた。見合い話をもってこられた時ですら、強い反発を覚えながらも、お父様を説得することは出来なかった。
けれど、私はもう......以前の私じゃない。
だって、私は......ひとりじゃ、ないんだから。
心の中で煮え滾る感情とは対照的に、薫子は落ち着き払った態度で両親に告げた。
「これは、私の願望や、絵空事なんかではありません。ましてや、お父様へのお願いなんかでも。
私は今日、ここに報告に来ました。香西遼さんとご両親に、婚約破棄をお伝えした、と」
「なにっ!?」
ガンッ!
テーブルに激しくグラスが叩きつけられた。
「お前は......わしに黙って、香西との婚約を破棄したというのか!?」
噴き上がる炎のように顔を真っ赤にして怒りを露わにする龍太郎を正面に据え、心中が恐怖に支配され、背中に冷たい汗が伝う。逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、薫子は精一杯の虚勢を張った。
「えぇ、そうです。香西のおじさまもおばさまも既に受け入れています。この事実は、覆すことは出来ません。
これは、香西のおじさまからお父様に宛てた手紙です」
そう言って、薫子は持参したバッグから封筒を取り出して目の前のテーブルに置くと、震える指で父の目の前に押し出した。
龍太郎は目の前に差し出された封筒を掴むと、端からビリッと破った。その間、隣に座る華子の顔色はどんどん悪くなっていた。
龍太郎は便箋を出すと、それに素早く視線を落とす。読み終える間、薫子も華子も、指先ひとつ動かせずにいた。
読み終えた便箋を龍太郎がテーブルに叩きつけると、グラスの置かれていた水滴の丸い跡が便箋に染みとなって急速に色濃く表れた。
「もう式は目の前だ! 香西が了承したからって、今更取り止めることなど出来るわけなかろう!」
あくまで龍太郎は、自分の意思で薫子と遼の式を押し進めるつもりだった。
自分勝手で傲慢な父の言動に怒りを覚えつつも、薫子は決定的な事実を告げた。
「式場も既に、キャンセルしてあります。ゲストにも招待状は、送られていません」
それは、遼からの報告で知ったことだった。
遼が薫子をドライブへ誘い、悠の失明を明かし、彼女の覚悟を問うたあの日。
遼は、香西家側の招待客に変更がありそうだから、招待状の発送を待って欲しいと担当者に連絡を入れたのだった。担当者は、香西家側のみの変更なのでわざわざ手をわずらわせることはないと、龍太郎や秘書の柴崎にこのことを連絡しなかった。
そして、薫子が遼と彼の家族に婚約破棄を告げた今日。遼は薫子を家に送った後、その足で式場に向かい、結婚式のキャンセルの手続きをしたのだった。
もし、既に招待状が発送された後で結婚式がキャンセルになっていたなら、薫子はそのひとりひとりに頭を下げに回らねばならず、世間では話題の的となっていたことだろう。また、式をキャンセルしていなければ、龍太郎の言うように、誰が何を言おうとも彼の一存で式は進められていたかもしれない。
相手が香西コーポレーションの御曹司とはいえ、父ならそれぐらいやりかねない。過去に母の名家を乗っ取ったことを考えれば、そう思えた。
薫子はそこまで頭が回らず、また遼に対して迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思った。
「ま、こんだけのことしてやったんだから、学食1年分だな」
そう遼は明るく言ったが、悠の元へと行くのなら、薫子が大学に行くつもりがないことは分かっていた。そんな彼の優しさに薫子は心苦しく思う一方で、父への対峙の覚悟を深めたのだった。
見合いの際にも薫子は抵抗したが、それも龍太郎の威圧的な態度と言葉により一蹴され、薫子は為す術もなくただ唇を噛み締めただけだった。龍太郎にとっては、薫子の決意の籠った声も、子犬の牽制程度にしか感じなかった。
結婚式は目前に迫っておるのだ。今更、薫子がどう足掻こうが、結婚式を取り止めることなど出来るものか。だが......珍しくわしを呼び出してまで説得しようとしたその努力を買って、話だけでも聞いてやろうじゃないか。
龍太郎はグラスを手に取り、芳醇なブランデーを口にしながらゆったりとソファに凭れ、目の前の娘に話を促すように目線を送った。
揺るがない自信を見せる龍太郎に、薫子の心奥から嫌悪感が湧き上がる。
この人は......私の決意ある口調を聞いてすら、まだ私が何も出来ない小娘だとタカをくくってる。私に、抵抗する力などない、と。
以前の私なら......確かにそうだった。全てお父様の言う通りに行動し、自分の意見を飲み込み、黙って従ってきた。見合い話をもってこられた時ですら、強い反発を覚えながらも、お父様を説得することは出来なかった。
けれど、私はもう......以前の私じゃない。
だって、私は......ひとりじゃ、ないんだから。
心の中で煮え滾る感情とは対照的に、薫子は落ち着き払った態度で両親に告げた。
「これは、私の願望や、絵空事なんかではありません。ましてや、お父様へのお願いなんかでも。
私は今日、ここに報告に来ました。香西遼さんとご両親に、婚約破棄をお伝えした、と」
「なにっ!?」
ガンッ!
テーブルに激しくグラスが叩きつけられた。
「お前は......わしに黙って、香西との婚約を破棄したというのか!?」
噴き上がる炎のように顔を真っ赤にして怒りを露わにする龍太郎を正面に据え、心中が恐怖に支配され、背中に冷たい汗が伝う。逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、薫子は精一杯の虚勢を張った。
「えぇ、そうです。香西のおじさまもおばさまも既に受け入れています。この事実は、覆すことは出来ません。
これは、香西のおじさまからお父様に宛てた手紙です」
そう言って、薫子は持参したバッグから封筒を取り出して目の前のテーブルに置くと、震える指で父の目の前に押し出した。
龍太郎は目の前に差し出された封筒を掴むと、端からビリッと破った。その間、隣に座る華子の顔色はどんどん悪くなっていた。
龍太郎は便箋を出すと、それに素早く視線を落とす。読み終える間、薫子も華子も、指先ひとつ動かせずにいた。
読み終えた便箋を龍太郎がテーブルに叩きつけると、グラスの置かれていた水滴の丸い跡が便箋に染みとなって急速に色濃く表れた。
「もう式は目の前だ! 香西が了承したからって、今更取り止めることなど出来るわけなかろう!」
あくまで龍太郎は、自分の意思で薫子と遼の式を押し進めるつもりだった。
自分勝手で傲慢な父の言動に怒りを覚えつつも、薫子は決定的な事実を告げた。
「式場も既に、キャンセルしてあります。ゲストにも招待状は、送られていません」
それは、遼からの報告で知ったことだった。
遼が薫子をドライブへ誘い、悠の失明を明かし、彼女の覚悟を問うたあの日。
遼は、香西家側の招待客に変更がありそうだから、招待状の発送を待って欲しいと担当者に連絡を入れたのだった。担当者は、香西家側のみの変更なのでわざわざ手をわずらわせることはないと、龍太郎や秘書の柴崎にこのことを連絡しなかった。
そして、薫子が遼と彼の家族に婚約破棄を告げた今日。遼は薫子を家に送った後、その足で式場に向かい、結婚式のキャンセルの手続きをしたのだった。
もし、既に招待状が発送された後で結婚式がキャンセルになっていたなら、薫子はそのひとりひとりに頭を下げに回らねばならず、世間では話題の的となっていたことだろう。また、式をキャンセルしていなければ、龍太郎の言うように、誰が何を言おうとも彼の一存で式は進められていたかもしれない。
相手が香西コーポレーションの御曹司とはいえ、父ならそれぐらいやりかねない。過去に母の名家を乗っ取ったことを考えれば、そう思えた。
薫子はそこまで頭が回らず、また遼に対して迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思った。
「ま、こんだけのことしてやったんだから、学食1年分だな」
そう遼は明るく言ったが、悠の元へと行くのなら、薫子が大学に行くつもりがないことは分かっていた。そんな彼の優しさに薫子は心苦しく思う一方で、父への対峙の覚悟を深めたのだった。
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