【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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 それは、華子の黒髪だった。

 華子は龍太郎と薫子の間に割り入り、龍太郎の手を引き剥がしたのだった。

「薫子さんっ!」
 
 それは、薫子をここから逃がすための呼びかけだと気付いた彼女は、母を心配しながらも頷き、書斎の扉に向かった。

「うぉぉぉぉぉぉーーー!! まぁてぇぇぇぇぇーーーーーー!! 華子、はぁぁなぁぁせぇぇぇ!!!」

 まるで猛獣のような父の咆哮を背に、薫子は必死に扉を開けた。

「お嬢様!」

 扉を開けた先には、ばあやと、大勢の警備が囲むようにして立っていた。

 もう、逃げられない......

 観念しかけた薫子の腕を、ばあやがグイと力強く引っ張った。

「早く、扉を閉めなさい!」

 その合図で、警備のものたちが扉を押さえた。

 扉の奥から、力強く叩く音が響いてくる。

 バンバンバンバンバンッッ!!!

「ぬぉぉぉぉぉ!! ここを開けろぉぉぉっっ!!」

 だが、誰一人として龍太郎の命令には従わない。

 こ、れは......一体、どういうこと......!?
 皆、が......お父様の命令に逆らって、私を逃がそうとしてくれる、なんて......

 薫子は、呆然とその光景を見つめた。

 扉の奥から、怒り心頭の父の声が響いてくる。

「おまえらぁぁぁ!! わしをこんな目に遭わせたら、いったいどうなるのか分かっとるのかぁ!!」

 それは、地獄の底からの叫びの様であり、薫子は身を震わせた。

 龍太郎の言葉に怯みそうになる警備の者たちを前に、ばあやが言った。

「旦那様は、ここにいる彼ら全員を解雇されるおつもりですか? そんなことをして、ここでの騒動が暴露されたら、立場がなくなるのは旦那様の方じゃございませんか?」
「ッ......」

 ばあやの言葉に、龍太郎が悔しそうに歯噛みするのが聞こえた。

「さ、お嬢様。早く、こちらへ」

 ばあやはその隙に、薫子の手を引いた。案内するその先が玄関であることに気付いた薫子は、ばあやの手を引っ張った。

「部屋に、荷物が...」
「既に、運んであります」

 その言葉に驚きつつも、やはりばあやは何でもお見通しだったと納得する気持ちもあった。

 玄関に着くと、そこには警備以外の使用人が一列に並び、薫子を見送る形となっていた。

「皆、さん......」

 決して親しくはなかった。もし親しくなって本音でも漏らせば、一挙手一投足が父に報告されるのではないかと常に怯えていた。必要最低限な言葉しか、交わすことはなかった。

 そんな彼らの見送りを受け、薫子は胸が熱くなった。 

「薫子様、お元気で」

「どうぞ、お幸せに......」

「お腹の赤ちゃんを、大事にしてあげてください」

 そんな彼らのひとことひとことに、薫子は泣きながら頷き、ばあやと共にその列を進んだ。

 列の最後まで来ると、ばあやが扉の前に立った。薫子にはもう、涙で滲んで彼女の姿がぼやけてしか映っていなかった。

「ッばあ、や......ッグ。いま、まで......ウゥッ...ほん、とにウック......ありッグが、と......ウッウッ」

 もし、ばあやがいなければ......私は、この櫻井家でずっと孤独な時を過ごしていた。

 深い愛情で私をいつも見守り、育ててくれたばあや。最後までこうして、私の為に体を張って守ろうとしてくれて......本当に、ありがとう。

 そして......この家にずっといられなくて......ごめんなさい。

「お嬢様!」

 そうばあやが叫んだ途端、その残像が突然薫子の視界から消えた。

 何事かと思って薫子が涙を拭うと、ばあやは床に伏せって土下座していた。

 ばあ、や......?

 薫子だけでなく、使用人全員が驚きでばあやに見入っていた。

 ばあやは、頭を床に擦り付けて肩を震わせた。



「薫子様! すべての元凶は、私なのです。
 申し訳、ございません......」


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