【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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脅迫観念

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 新生活の初日にばあやに働きたいと申し出た際、世間の常識を知らず、知識も経験もなく、ましてや身重の自分を受け入れてくれる職場などないと言われた。それ以来、薫子はばあやに対して仕事をしたいと言うことはなかった。

 だが、ばあやからお金の管理を学ぶ目的で水道代や電気・ガス代、食費、こまごまとした日用品などの支出を知っていくうちに、生活するのにいかにお金が必要であるのかを薫子は痛感した。その全ての支出をばあやに支払ってもらうことに対しての後ろめたさは、日を追う毎に大きくなっていた。

 薫子は勉強熱心で真面目な性格もあり、ばあやから教わることを日々吸収していった。今では身の回りのことは自分で出来るようになり、家事にも慣れ、料理のレパートリーも増え、生活において困ることは殆どない。

 でも、このままではまだ、本当の自立とはいえない。
 やっぱり、働きたい。働くことで、経済的にも精神的にも自立出来るようになりたい。

 そう考えた薫子は、密かに仕事を探すことにした。今まで仕事をしたことのなかった薫子はどうすればいいのか分からなかったので、まずは職業安定所に行ってみることにした。

 もちろんばあやには仕事探しに行くとは言えないため、買い物に行くと言った。相変わらず心配はされたものの、以前に区役所にひとりで行けたことにより少しは信頼してもらるようになったのか、気をつけるように何度も念押しされた後、許してもらえた。

 バスに乗り、地下鉄の駅へと向かう。職安は、駅のすぐ近くのビルの中に入っている。

 スマホで地図を見ながら辿り着くと、そこは高層の雑居ビルだった。ビルの入口の前に案内図があり、「12階 ハローワーク(職業安定所)」とある。

 何台もあるエレベーターのフロアで心許ない気持ちでエレベーターを待っていると、「ピンポーン!」と甲高い案内音が響く。ぞろぞろと列に続いて歩くと、既に「12」のボタンは押されていた。

 どう、しよう......緊張してきちゃった。

 12階に着いた途端、薫子は息を呑んだ。

 すごい、人......

 先日、区役所にも大勢人はいたが、それは様々な手続きを行うためであり、驚きつつも仕方のないことと思っていた。

 けれど、ここは「仕事を探す」という目的の場所である。もちろん、仕事を探しに来るだけではなく、失業保険の申請に来ている人や職業訓練の情報を求めてきている人もいるだろうが、それを含めて皆現在、仕事をしていない状況にあるということだ。

 失業者についてのニュースを見たり、耳にしたりすることは今までにあり、頭では理解しているつもりだったが、実際に現場を見て、仕事を持っておらず、探している人がこれ程までに多いことを薫子は改めて実感した。

 雰囲気に呑まれそうになりながらも、薫子は既に大勢の人が列に並んでいる受付へと足を進めた。

「次の方、どうぞ」

 その声で薫子は並んでいたラインから踏み出し、受付の前へと立った。

「あ......あ、の......仕事を、探しに来たん...ですが」

 緊張して上手く喋れない薫子に、事務員が少しイラっとしたように早口で話した。

「こちらに来るのは初めてですか」
「は。は、い......」
「今日は職業相談を希望されますか」

 職業相談?
 そこで、仕事を紹介してもらえるってことなのかな......

「えと......は、い。お願い、します」

 事務員が手元の機械を押すと、そこからレシートのようなものが吐き出された。それと、もう一枚の書類を合わせて、机の上に置く。

「では、求職申込書にご記入お願いします。
 こちらは整理券になりますね。あちらのパネルに番号が出ますので、それまで掛けてお待ちください」

 え。パネルって......ど、どこ?

 係員が指差した先には背の高い男性が立っていたため、背の低い薫子には全く見えなかった。パネルを目で追って探そうとするものの、もう薫子の隣には新しい人が立ち、事務員が対応していた。

「す、すみません」

 薫子は慌ててそこから立ち去った。
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