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初恋が実る時
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薫子は、悠のいる病室へと案内された。
悠人が扉のノブに手を掛けて開けた途端、悠の悲痛な声が響いた。
「ック......ぁあああっっ!!!」
「風間さん、もう少し曲げられますか」
若い男性の声の後、床に金属音が甲高く鳴り響く。
「もう、ほっといてくれ!こんな、何の進歩もない痛みだけのリハビリなんて、意味ない!」
荒んだその声に、薫子はビクンと躰を震わせた。
嘘......悠が、そんなことを言うなんて......
ショックで立ち止まってしまった薫子に、悠人は「少し待ってて」というように、掌を薫子に向けた。
薫子が小さく頷くと、悠人はひとりで病室へと入っていった。
男性が悠人に気づき、訴えかける。
「リハビリしましょうって言っても、全くやろうとしないんですよ」
悠人の足音が、薫子の耳から遠ざかる。足音が止まると、悠人の優しく宥めるような声が静かに響いた。
「悠......僕も手伝うから。
さぁ、一緒に頑張ろう」
その途端、遠くに立っている薫子にまで伝わるほど、空気が一瞬で張り詰めた。吐き捨てるような声が、病室に響く。
「『一緒に』って、何?
父さんが、骨折したんじゃない。俺の痛みなんか、分かるはずないのに。骨だけじゃなく、骨膜の神経までボロボロに砕けて。強烈な痛みと共に、痺れが襲ってくるんだ。鎮痛剤を飲んでいても激痛が収まることはなく、眠ることもままならない。リハビリをしたって、指先さえ動かすのがやっと。暗闇の中で......ただ全身に痛みを受けながら、寝返りをうつことも出来ず、一日中ベッドに横たわっているだけ。
これじゃ、死人と変わらない。こんなの......生きてるなんて言えない」
「ッッ......」
薫子の両瞳から、涙が溢れ出す。
今まで誰に対しても弱音など吐くことのなかった悠が、これ程までに変わってしまうとは、想像すらしなかった。悠なら、強い精神力で何事も乗り越えてゆけるはず。そう、信じていた。
薫子はこの時初めて、悠だって完璧な人間ではないのだと知った。
ただその弱さを、見せていなかっただけなのだと。
悠の強さを壊してしまったのは......自分であることも。
聞き取れないぐらいの小さな悠の声が、静かに病室に落とされる。
「父さん、仕事忙しいんでしょ? わざわざここに来る必要なんてない。
俺は、何もしたくない......ただ、一人になりたいんだ」
全てを投げ出し、諦めたような悠の言葉に、薫子の胸がギューッと締め付けられるように痛んだ。
交通事故に遭い、薫子と別れた悠は、生きる気力を失っていた。ただ繰り返される痛みだけの毎日は、悠の肉体だけでなく、精神にまで侵食し、蝕んでいたのだ。
「リハビリせずにいたら、固まってしまいますよ。1日5分でもいいから、少しずつでも動かして解していかないと......」
男性の声が励ますが、悠は黙ったままだった。
「悠......」
宥めるような悠人の声に、投げやりな悠の声が落ちる。
「別に、このまま歩けなくなったっていい......ほっといてくれ」
そ、んな......
私が、悠を追い込んでしまったんだ。生きる気力を失ってしまうほどに......
薫子の胸を、大きな罪悪感と後悔が覆い尽くしていく。
悠が別れを告げた時、私はどうして彼の真意に気づいてあげられなかったのだろう。
悠の真意を知った後、どうして彼の元へ行かなかったの......
櫻井家を出て、すぐにでも悠に会いに行けばよかった......
次から次に、後悔が溢れてくる。
悠、ごめんなさい。
ずっと、辛い思いをしていたことに気付けなくて。
ずっと、会いに来られなくて。
ごめ...なさい......
「ッグ...ウゥッ......ック」
溢れ出した涙は留まることを知らず、次々に目尻から流れ落ちていた。
わたし、の......私の、せいで......悠はこんな風になってしまったんだ。
そんな私が、どんな顔をして、悠に会えるというの。
私には、悠に会うことなんて出来ない。
会えるはずなんて、ない。
悠人が扉のノブに手を掛けて開けた途端、悠の悲痛な声が響いた。
「ック......ぁあああっっ!!!」
「風間さん、もう少し曲げられますか」
若い男性の声の後、床に金属音が甲高く鳴り響く。
「もう、ほっといてくれ!こんな、何の進歩もない痛みだけのリハビリなんて、意味ない!」
荒んだその声に、薫子はビクンと躰を震わせた。
嘘......悠が、そんなことを言うなんて......
ショックで立ち止まってしまった薫子に、悠人は「少し待ってて」というように、掌を薫子に向けた。
薫子が小さく頷くと、悠人はひとりで病室へと入っていった。
男性が悠人に気づき、訴えかける。
「リハビリしましょうって言っても、全くやろうとしないんですよ」
悠人の足音が、薫子の耳から遠ざかる。足音が止まると、悠人の優しく宥めるような声が静かに響いた。
「悠......僕も手伝うから。
さぁ、一緒に頑張ろう」
その途端、遠くに立っている薫子にまで伝わるほど、空気が一瞬で張り詰めた。吐き捨てるような声が、病室に響く。
「『一緒に』って、何?
父さんが、骨折したんじゃない。俺の痛みなんか、分かるはずないのに。骨だけじゃなく、骨膜の神経までボロボロに砕けて。強烈な痛みと共に、痺れが襲ってくるんだ。鎮痛剤を飲んでいても激痛が収まることはなく、眠ることもままならない。リハビリをしたって、指先さえ動かすのがやっと。暗闇の中で......ただ全身に痛みを受けながら、寝返りをうつことも出来ず、一日中ベッドに横たわっているだけ。
これじゃ、死人と変わらない。こんなの......生きてるなんて言えない」
「ッッ......」
薫子の両瞳から、涙が溢れ出す。
今まで誰に対しても弱音など吐くことのなかった悠が、これ程までに変わってしまうとは、想像すらしなかった。悠なら、強い精神力で何事も乗り越えてゆけるはず。そう、信じていた。
薫子はこの時初めて、悠だって完璧な人間ではないのだと知った。
ただその弱さを、見せていなかっただけなのだと。
悠の強さを壊してしまったのは......自分であることも。
聞き取れないぐらいの小さな悠の声が、静かに病室に落とされる。
「父さん、仕事忙しいんでしょ? わざわざここに来る必要なんてない。
俺は、何もしたくない......ただ、一人になりたいんだ」
全てを投げ出し、諦めたような悠の言葉に、薫子の胸がギューッと締め付けられるように痛んだ。
交通事故に遭い、薫子と別れた悠は、生きる気力を失っていた。ただ繰り返される痛みだけの毎日は、悠の肉体だけでなく、精神にまで侵食し、蝕んでいたのだ。
「リハビリせずにいたら、固まってしまいますよ。1日5分でもいいから、少しずつでも動かして解していかないと......」
男性の声が励ますが、悠は黙ったままだった。
「悠......」
宥めるような悠人の声に、投げやりな悠の声が落ちる。
「別に、このまま歩けなくなったっていい......ほっといてくれ」
そ、んな......
私が、悠を追い込んでしまったんだ。生きる気力を失ってしまうほどに......
薫子の胸を、大きな罪悪感と後悔が覆い尽くしていく。
悠が別れを告げた時、私はどうして彼の真意に気づいてあげられなかったのだろう。
悠の真意を知った後、どうして彼の元へ行かなかったの......
櫻井家を出て、すぐにでも悠に会いに行けばよかった......
次から次に、後悔が溢れてくる。
悠、ごめんなさい。
ずっと、辛い思いをしていたことに気付けなくて。
ずっと、会いに来られなくて。
ごめ...なさい......
「ッグ...ウゥッ......ック」
溢れ出した涙は留まることを知らず、次々に目尻から流れ落ちていた。
わたし、の......私の、せいで......悠はこんな風になってしまったんだ。
そんな私が、どんな顔をして、悠に会えるというの。
私には、悠に会うことなんて出来ない。
会えるはずなんて、ない。
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