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After Story1 ー新しい命の誕生ー
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出産までにはまだ余裕があると思っていたのに、突然これから出産だと言われ、急速に薫子の心に不安が広がる。しかも、悠はこれから角膜移植を受けなければいけない。
大和と美姫は仕事に戻らなければいけないし、悠人と静音は悠の手術に付き添う。ばあやには、これから家に置いてある入院の用意を取りに行ってもらわなくてはならない。
ひとりで乗り越えなくてはならないのだ。
薫子はパニックを起こしそうになりながらも、必死にそれを落ち着かせた。
不安になってる場合じゃない。しっかり、しなくちゃ。
私が不安になってたら、きっと赤ちゃんだって不安になっちゃう。
薫子は、半身を起こした。
「ばあや、お願いがあるの」
心配そうに自分を見つめるばあやを見上げた。
「私の寝室に、出産に必要なものを入れた鞄が2つ置いてあるので、取りに行ってもらってもいいですか」
ばあやは片時も薫子から離れたくないという気持ちはあったものの、入院するためには鞄がどうしても必要になる。
「わかり、ました。お嬢様、どうか気をしっかりお持ちくださいませ」
祈るように、ばあやが薫子の手を握り締めた。
悠人が薫子に声を掛ける。
「入院手続きは、僕がしよう」
「ありがとうございます、助かります」
薫子は、小さく頭を下げた。
後ろ髪を引かれるようにその場を離れようとしたばあやを、大和が止めた。
「待ってください。荷物は俺が取りに行くんで、ばあやさんは薫子についててあげてくれませんか」
大和の気遣いにばあやが瞳を潤ませ、何度もお礼を言いながら住所を書いた紙と家の鍵を渡した。
「どうか、よろしくお願いします」
大和が頷き、どうするのか問うように美姫を見つめた。
「私は大和が戻ってくるまで、薫子に付き添ってる」
「あぁ、わかった。会社には、俺から連絡しとく」
大和と悠人が扉を出て行こうとすると、向こうから扉が開いた。
「風間さん。時間ですので、手術室に移動します」
不安を、見せちゃいけない......
薫子が、精一杯明るく悠に声を掛ける。
「悠、頑張って。私も、頑張るから......」
悠は、黙っている。看護師が、悠の車椅子のグリップを握った。
扉に向けて車椅子を回転させる直前、悠が看護師にはっきりと告げた。
「申し訳ないんですが......今日の手術をキャンセルさせて下さい」
薫子が、声を上げる。
「悠、私は大丈夫だから。お願い、手術を受けてきて......」
悠人も、悠に告げた。
「薫子さんのことは、僕たちがちゃんと見ているから。悠、手術を受けなさい。
これを逃したら、また何ヶ月も待たなくてはならなくなることはもう分かっているだろう? しかも、今日は手術当日なんだよ」
そう言っている間に、別の看護師がやってきて薫子に声を掛けた。
「産科の病棟を案内します。自分で歩けますか」
薫子は頷き、立ち上がった。
「はい、ひとりで歩けます」
悠が痺れを感じながらも車椅子の車輪に手を掛け、必死に動かそうとする。
「悠、何してるの......」
それに気づいた薫子が、悠の元へ歩み寄った。
「俺には、してやれることは何もないかもしれない。けど、このまま手術に行くことなんて出来ない」
「どう、して......」
頑ななまでの態度を見せる悠に、薫子は表情を歪めた。
「......角膜移植を受けるチャンスはまだあるけど、この子が産まれる瞬間に立ち会うことが出来るのは今だけしかないから。たとえ目が見えなくても、薫子の傍に寄り添って励まし、少しでも君の痛みや辛さ、そして感動を分かち合いたいんだ。
手術当日になってキャンセルなんて、わがまますぎるって分かってるけど......それでも、俺は、君の傍にいたい」
大和と美姫は仕事に戻らなければいけないし、悠人と静音は悠の手術に付き添う。ばあやには、これから家に置いてある入院の用意を取りに行ってもらわなくてはならない。
ひとりで乗り越えなくてはならないのだ。
薫子はパニックを起こしそうになりながらも、必死にそれを落ち着かせた。
不安になってる場合じゃない。しっかり、しなくちゃ。
私が不安になってたら、きっと赤ちゃんだって不安になっちゃう。
薫子は、半身を起こした。
「ばあや、お願いがあるの」
心配そうに自分を見つめるばあやを見上げた。
「私の寝室に、出産に必要なものを入れた鞄が2つ置いてあるので、取りに行ってもらってもいいですか」
ばあやは片時も薫子から離れたくないという気持ちはあったものの、入院するためには鞄がどうしても必要になる。
「わかり、ました。お嬢様、どうか気をしっかりお持ちくださいませ」
祈るように、ばあやが薫子の手を握り締めた。
悠人が薫子に声を掛ける。
「入院手続きは、僕がしよう」
「ありがとうございます、助かります」
薫子は、小さく頭を下げた。
後ろ髪を引かれるようにその場を離れようとしたばあやを、大和が止めた。
「待ってください。荷物は俺が取りに行くんで、ばあやさんは薫子についててあげてくれませんか」
大和の気遣いにばあやが瞳を潤ませ、何度もお礼を言いながら住所を書いた紙と家の鍵を渡した。
「どうか、よろしくお願いします」
大和が頷き、どうするのか問うように美姫を見つめた。
「私は大和が戻ってくるまで、薫子に付き添ってる」
「あぁ、わかった。会社には、俺から連絡しとく」
大和と悠人が扉を出て行こうとすると、向こうから扉が開いた。
「風間さん。時間ですので、手術室に移動します」
不安を、見せちゃいけない......
薫子が、精一杯明るく悠に声を掛ける。
「悠、頑張って。私も、頑張るから......」
悠は、黙っている。看護師が、悠の車椅子のグリップを握った。
扉に向けて車椅子を回転させる直前、悠が看護師にはっきりと告げた。
「申し訳ないんですが......今日の手術をキャンセルさせて下さい」
薫子が、声を上げる。
「悠、私は大丈夫だから。お願い、手術を受けてきて......」
悠人も、悠に告げた。
「薫子さんのことは、僕たちがちゃんと見ているから。悠、手術を受けなさい。
これを逃したら、また何ヶ月も待たなくてはならなくなることはもう分かっているだろう? しかも、今日は手術当日なんだよ」
そう言っている間に、別の看護師がやってきて薫子に声を掛けた。
「産科の病棟を案内します。自分で歩けますか」
薫子は頷き、立ち上がった。
「はい、ひとりで歩けます」
悠が痺れを感じながらも車椅子の車輪に手を掛け、必死に動かそうとする。
「悠、何してるの......」
それに気づいた薫子が、悠の元へ歩み寄った。
「俺には、してやれることは何もないかもしれない。けど、このまま手術に行くことなんて出来ない」
「どう、して......」
頑ななまでの態度を見せる悠に、薫子は表情を歪めた。
「......角膜移植を受けるチャンスはまだあるけど、この子が産まれる瞬間に立ち会うことが出来るのは今だけしかないから。たとえ目が見えなくても、薫子の傍に寄り添って励まし、少しでも君の痛みや辛さ、そして感動を分かち合いたいんだ。
手術当日になってキャンセルなんて、わがまますぎるって分かってるけど......それでも、俺は、君の傍にいたい」
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