＜完結＞【R１８】愛するがゆえの罪 １０ ー幸福の基準ー

誘引

３

　美姫はデスクに肘をつき、両手で顔を覆った。

　ダメだと分かっていても......あの声を聞くと、惹かれずにはいられない。
　まるで磁石のように引き寄せられてしまう。躰が、心が、自然とあの人を求めてしまう。

　どうして、今なの。

　そう考えてから、美姫はハッとした。

　違う。
　今、だから......秀一さんは現れたんだ。

　秀一さんは、私の心を見透かしているかのように現れた。
　私の心が大和から離れ、秀一さんへの愛情を自覚し、彼を強く求めている今に。

　だからと言って、ふたりに未来などないのに。叔父と姪の禁断の関係は、どれだけ年月を経たところで永遠に変わることはないのだから。

『もし私が、ピアニストとしての名声も、貴女も、両方手に入れてみせると言ったら......
　どうしますか』

　そんな、こと......出来るはずない。

　たとえ大和に愛情がなくても、彼から離れることなんて出来ない。お父様やお母様を裏切ることなど出来ない。

　世間を欺いていたことがわかれば、来栖財閥の地位は一気に失われる。

　お互いに求め合ったところで、それは不幸を呼ぶしかない。


　お願い。
　パンドラの匣を開けないで。