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不意打ち
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ほろ酔いでタクシーに乗り込むと、一気に美姫は寂しい気持ちに襲われた。
小百合はヨシと終始いちゃついていた。その時はそれほど羨ましいという気持ちにならなかったのに、今こうしてひとりタクシーでホテルへ向かっていると、人肌が恋しくて堪らなくなった。
秀一さんは、今頃どうしているんだろう......
喧騒で溢れる街並みを車窓から眺めながら、美姫は秀一への慕情を募らせた。
秀一は日本で記者会見を開いた翌日には、ウィーンへと発ってしまった。
ウィーンへと帰ったところですぐにピアニストして大きな舞台に上がるのは無理だろうと誰もが考えていたが、秀一の活躍は目覚ましいものがあった。最初はモルテッソーニ主催のイベントや兄弟弟子のコンサートのゲストとして出演していたのだが、そこでの演奏が話題になると次々に色々なところがオファーがかかるようになった。
一度クラシック界から姿を消し、全ての予定をキャンセルしたことに対して批判的だった業界の人間も、彼の根強い人気を認めざるをえなかった。
何しろ、彼が出演すると聞いただけで、コンサートの動員数がぐっと上がるのだ。無視するわけにはいかない。
そんな秀一の復活劇を美姫は嬉しく思う一方、もやもやとした想いを抱えていた。
秀一からの電話を切って以来1ヶ月半の間、何の接触も、連絡もないのだ。
消そうとした想いに火を焚べたのは、秀一さんなのに。
安堵するべきだと思っても、あれだけの想いを伝えておきながら放置されたことを寂しく思わずにはいられなかった。
再会したあの日から、美姫の秀一を想う気持ちは膨らむ一方だった。何度も彼と踊った時のことを思い返し、彼の手の温もりや彼の纏う香り、熱を帯びた視線を思い出し、躰が熱く疼いてしまう。
そんな風に美姫を簡単に翻弄し、支配してしまえる秀一を、恨めしくも思った。
タクシーから降り、ホテルのロビーへ向かう。
お酒自体久しぶりだったのに、つい雰囲気に呑まれてたくさん飲みすぎちゃった。
明日は仕事なんだし、もっと考えないと......
絨毯の敷かれたロビーをエレベーターに向かって歩いていると、足元がふわふわする。ハイヒールがグキッと曲がり、ふらついて倒れそうになった。
「ッ......すみま、せ......」
崩れ落ちそうになった躰を、逞しい腕で支えられた。
その腕の感触、鼻腔をくすぐる匂いに驚いて美姫が見上げた視線の先---
「貴女は……相変わらずそそっかしい」
「秀一さん、どうしてここに......」
秀一は美姫を支えながらゆっくりと体勢を整えると、ウェリントン型のマットブラックのサングラス越しに微笑んだ。真っ白なTシャツの上に黒いジレ、ダークグレーのスカーフを巻き、ボトムはジーンズと珍しくカジュアルな装いに、思わず見惚れてしまう。
「あなたと一度、話し合いをする必要があると思ったんですよ」
美姫は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
美姫も、秀一には伝えたいことがたくさんあった。ちゃんとあって、謝らなければならないと思っていた。
「分かり、ました......」
秀一が美姫の耳元で囁く。
「では、私の部屋にいらっしゃいますか?」
美姫は躰を硬くした。
『美姫を、この腕に抱きたい』
電話口で囁かれた秀一の言葉を思い出し、耳が熱くなった。
もし部屋で秀一に迫られたら、拒める自信がない。
けれど......大和を裏切ることなど、できない。
美姫の表情を見て秀一が目を細め、口角を上げた。
「冗談ですよ。最上階にあるバーに行きましょう。
その方が、美姫は安心でしょう?」
美姫はまだ躰を強張らせながらも、小さく頷いた。
小百合はヨシと終始いちゃついていた。その時はそれほど羨ましいという気持ちにならなかったのに、今こうしてひとりタクシーでホテルへ向かっていると、人肌が恋しくて堪らなくなった。
秀一さんは、今頃どうしているんだろう......
喧騒で溢れる街並みを車窓から眺めながら、美姫は秀一への慕情を募らせた。
秀一は日本で記者会見を開いた翌日には、ウィーンへと発ってしまった。
ウィーンへと帰ったところですぐにピアニストして大きな舞台に上がるのは無理だろうと誰もが考えていたが、秀一の活躍は目覚ましいものがあった。最初はモルテッソーニ主催のイベントや兄弟弟子のコンサートのゲストとして出演していたのだが、そこでの演奏が話題になると次々に色々なところがオファーがかかるようになった。
一度クラシック界から姿を消し、全ての予定をキャンセルしたことに対して批判的だった業界の人間も、彼の根強い人気を認めざるをえなかった。
何しろ、彼が出演すると聞いただけで、コンサートの動員数がぐっと上がるのだ。無視するわけにはいかない。
そんな秀一の復活劇を美姫は嬉しく思う一方、もやもやとした想いを抱えていた。
秀一からの電話を切って以来1ヶ月半の間、何の接触も、連絡もないのだ。
消そうとした想いに火を焚べたのは、秀一さんなのに。
安堵するべきだと思っても、あれだけの想いを伝えておきながら放置されたことを寂しく思わずにはいられなかった。
再会したあの日から、美姫の秀一を想う気持ちは膨らむ一方だった。何度も彼と踊った時のことを思い返し、彼の手の温もりや彼の纏う香り、熱を帯びた視線を思い出し、躰が熱く疼いてしまう。
そんな風に美姫を簡単に翻弄し、支配してしまえる秀一を、恨めしくも思った。
タクシーから降り、ホテルのロビーへ向かう。
お酒自体久しぶりだったのに、つい雰囲気に呑まれてたくさん飲みすぎちゃった。
明日は仕事なんだし、もっと考えないと......
絨毯の敷かれたロビーをエレベーターに向かって歩いていると、足元がふわふわする。ハイヒールがグキッと曲がり、ふらついて倒れそうになった。
「ッ......すみま、せ......」
崩れ落ちそうになった躰を、逞しい腕で支えられた。
その腕の感触、鼻腔をくすぐる匂いに驚いて美姫が見上げた視線の先---
「貴女は……相変わらずそそっかしい」
「秀一さん、どうしてここに......」
秀一は美姫を支えながらゆっくりと体勢を整えると、ウェリントン型のマットブラックのサングラス越しに微笑んだ。真っ白なTシャツの上に黒いジレ、ダークグレーのスカーフを巻き、ボトムはジーンズと珍しくカジュアルな装いに、思わず見惚れてしまう。
「あなたと一度、話し合いをする必要があると思ったんですよ」
美姫は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
美姫も、秀一には伝えたいことがたくさんあった。ちゃんとあって、謝らなければならないと思っていた。
「分かり、ました......」
秀一が美姫の耳元で囁く。
「では、私の部屋にいらっしゃいますか?」
美姫は躰を硬くした。
『美姫を、この腕に抱きたい』
電話口で囁かれた秀一の言葉を思い出し、耳が熱くなった。
もし部屋で秀一に迫られたら、拒める自信がない。
けれど......大和を裏切ることなど、できない。
美姫の表情を見て秀一が目を細め、口角を上げた。
「冗談ですよ。最上階にあるバーに行きましょう。
その方が、美姫は安心でしょう?」
美姫はまだ躰を強張らせながらも、小さく頷いた。
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