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未来のために
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大和がボソッと呟く。
「なぁ、お前は俺が来栖秀一との関係を世間に発表するってことは考えなかったのか?」
美姫は、キュッと心臓が縮むような思いで大和を見つめた。
「大和が、そんなことする筈ないって分かってるから」
「そんな出来た男じゃねーよ、俺は」
大和の言葉に美姫は睫毛を伏せ、瞳を揺らした。
「少なくとも、秀一さんのツアーが終わるまではしないって……信じてるから」
特別協賛企業である社長の大和が、秀一さんのツアーをめちゃくちゃに出来るわけがないって。それは、私や秀一さんの為ではなく、ツアー関係者と財閥に迷惑がかからないようにする為に……」
睫毛を伏せ、俯いた。
それでも、大和がふたりの関係を暴露するというのであれば、それもまた受け止めなければならないと美姫は考えていた。
大和が大きく息を吐き出す。
そこまで、分かってんのか……
美姫の言う通り、来栖財閥主催という看板を背負った秀一のツアーは、財閥の威信にかけて何としてでも成功させなければならない。その前に秀一と美姫のスキャンダルが持ち上がれば、今までの努力が水の泡になってしまう。来栖財閥社長として、そんなことは出来なかった。
「ツアーを終えたら、秀一さんとの関係を公表します。
だから、それまではどうか財閥のためにも、待っていてくれないかな」
本、気で……そんなことするつもりなのか!?
それまで、必死に叔父と姪の禁忌の関係を隠そうとしてた美姫だったので、離婚して秀一とウィーンに渡ることになっても、恋人であることは隠し通すつもりなのだろうと考えていた。
大和は瞳孔を大きくし、激しく動揺した。
それから暫くの間考え込み、やがて顔を上げた。
「じゃあ、それまでは離婚も出来ないな」
大和の言葉に、美姫が彼を見上げてから頷いた。
「大和には迷惑かけるけど……お願いします。
私は、それまで実家に滞在するから。もし、お母様が許してくださるなら、だけど……
それが出来ないなら、事務所に泊まるつもり。ホテルには、泊まれないから」
大和と離婚したいと言ったら、お母様は何と仰るだろう。
美姫が憂慮していると、大和が美姫にはっきりと言った。
「離婚が成立するまで、この家にいろ」
「でも……」
反論しかける美姫に、大和が言葉を被せる。
「お前を脅したいわけじゃない。でも、もし美姫が実家に戻ったままずっと帰らなかったり、事務所に泊まっていることをマスコミに知られれば、俺たちの不仲説が浮上し、スキャンダルにまで発展する恐れもある。
その為にも、美姫はここにいた方がいい。これは、お前を守る為でもあるんだ」
大和の言葉に納得するものの、彼自身の気持ちはそれでいいのだろうかという思いから、美姫はすぐに返事をすることが出来なかった。
そんな美姫に、大和は苦しげに眉を寄せた。
「ごめん、それだけじゃねぇ。
今、美姫にここを出て行かれたら……俺はまた、お前の影を追いかけちまう。お前が戻ってきてくれるんじゃないかって、期待しちまう。
俺は、自分の気持ちに整理をつけたいんだ。お前のことを思い出に出来るように。
だから、ツアーが始まるまで、ここにいてくれ。少しずつ、お前と離れる気持ちの準備をさせてくれ。そしたら、お前がいないツアー期間中にちゃんとけじめつけて、最終日には離婚届を書くから。
もう、未練を引き摺ったまま生きていくのは嫌なんだ。新しい一歩を、踏み出したい」
大和の想いに触れ、美姫は胸が苦しくなった。
一緒に暮らし続けることで、大和の自分への想いを断ち切る手助けになるのであれば、そうしたい。
でも、もし……大和が未練から言ってるのだとしたら?
大和の本心を、推し量りかねていた。
自分を見つめる大和の真剣な瞳に、胸を打たれた。彼が美姫からの呪縛を逃れ、新たな一歩を踏み出そうとしているのだという意思を感じた。
美姫は、大和の瞳から視線を逸らすことなく頷いた。
「分かりました。
それが、大和に未来への道を踏み出すことになるのなら……ツアーが始まるまで、ここにいます」
大和はグッと喉を詰まらせた後、「あぁ」と頷いた。
「なぁ、お前は俺が来栖秀一との関係を世間に発表するってことは考えなかったのか?」
美姫は、キュッと心臓が縮むような思いで大和を見つめた。
「大和が、そんなことする筈ないって分かってるから」
「そんな出来た男じゃねーよ、俺は」
大和の言葉に美姫は睫毛を伏せ、瞳を揺らした。
「少なくとも、秀一さんのツアーが終わるまではしないって……信じてるから」
特別協賛企業である社長の大和が、秀一さんのツアーをめちゃくちゃに出来るわけがないって。それは、私や秀一さんの為ではなく、ツアー関係者と財閥に迷惑がかからないようにする為に……」
睫毛を伏せ、俯いた。
それでも、大和がふたりの関係を暴露するというのであれば、それもまた受け止めなければならないと美姫は考えていた。
大和が大きく息を吐き出す。
そこまで、分かってんのか……
美姫の言う通り、来栖財閥主催という看板を背負った秀一のツアーは、財閥の威信にかけて何としてでも成功させなければならない。その前に秀一と美姫のスキャンダルが持ち上がれば、今までの努力が水の泡になってしまう。来栖財閥社長として、そんなことは出来なかった。
「ツアーを終えたら、秀一さんとの関係を公表します。
だから、それまではどうか財閥のためにも、待っていてくれないかな」
本、気で……そんなことするつもりなのか!?
それまで、必死に叔父と姪の禁忌の関係を隠そうとしてた美姫だったので、離婚して秀一とウィーンに渡ることになっても、恋人であることは隠し通すつもりなのだろうと考えていた。
大和は瞳孔を大きくし、激しく動揺した。
それから暫くの間考え込み、やがて顔を上げた。
「じゃあ、それまでは離婚も出来ないな」
大和の言葉に、美姫が彼を見上げてから頷いた。
「大和には迷惑かけるけど……お願いします。
私は、それまで実家に滞在するから。もし、お母様が許してくださるなら、だけど……
それが出来ないなら、事務所に泊まるつもり。ホテルには、泊まれないから」
大和と離婚したいと言ったら、お母様は何と仰るだろう。
美姫が憂慮していると、大和が美姫にはっきりと言った。
「離婚が成立するまで、この家にいろ」
「でも……」
反論しかける美姫に、大和が言葉を被せる。
「お前を脅したいわけじゃない。でも、もし美姫が実家に戻ったままずっと帰らなかったり、事務所に泊まっていることをマスコミに知られれば、俺たちの不仲説が浮上し、スキャンダルにまで発展する恐れもある。
その為にも、美姫はここにいた方がいい。これは、お前を守る為でもあるんだ」
大和の言葉に納得するものの、彼自身の気持ちはそれでいいのだろうかという思いから、美姫はすぐに返事をすることが出来なかった。
そんな美姫に、大和は苦しげに眉を寄せた。
「ごめん、それだけじゃねぇ。
今、美姫にここを出て行かれたら……俺はまた、お前の影を追いかけちまう。お前が戻ってきてくれるんじゃないかって、期待しちまう。
俺は、自分の気持ちに整理をつけたいんだ。お前のことを思い出に出来るように。
だから、ツアーが始まるまで、ここにいてくれ。少しずつ、お前と離れる気持ちの準備をさせてくれ。そしたら、お前がいないツアー期間中にちゃんとけじめつけて、最終日には離婚届を書くから。
もう、未練を引き摺ったまま生きていくのは嫌なんだ。新しい一歩を、踏み出したい」
大和の想いに触れ、美姫は胸が苦しくなった。
一緒に暮らし続けることで、大和の自分への想いを断ち切る手助けになるのであれば、そうしたい。
でも、もし……大和が未練から言ってるのだとしたら?
大和の本心を、推し量りかねていた。
自分を見つめる大和の真剣な瞳に、胸を打たれた。彼が美姫からの呪縛を逃れ、新たな一歩を踏み出そうとしているのだという意思を感じた。
美姫は、大和の瞳から視線を逸らすことなく頷いた。
「分かりました。
それが、大和に未来への道を踏み出すことになるのなら……ツアーが始まるまで、ここにいます」
大和はグッと喉を詰まらせた後、「あぁ」と頷いた。
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