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SS7 「うれしいひな祭り」

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 たくさんのご馳走がテーブルに並べられる中、賑やかな声が響き渡る。

「あかりをつけましょ ぼんぼりにー おはなをあげましょ もものはなー」

 美姫が桃の花を片手で揺らして楽しそうに歌い、薫子は嬉しそうに見つめ、大和と遼は夢中で食べている。そんな光景を凛子が微笑ましく見つめ、誠一郎は可愛い我が子とその友人の写真をずっと撮っている。

「さぁさ、旦那様と奥様、それにお嬢様方も食べられないと、せっかくのご馳走がなくなってしまいますよ」

 佐和の呼びかけに、ドッと笑いが起こる。大和は伸ばしかけた手を止めたが、遼はその隙に大和の更にあった手鞠寿司をパクッと食べた。

「お、おいっ!おま、かってにひとのもんくうなよー」
「おめーがたべてないから、たべてやったんだろー!」

 美姫が持っていた桃の枝を隣り合ったふたりの間に入れる。

「はーい。やまとくんもりょうちゃんもいっしょにうたおー。
 あかりをつけましょ ぼんぼりにー」
「お、おはなをあげましょ もものはなー」

 大和は美姫に続いて歌ったが、遼は「んなおんなのうた、うたえるかよ!」と、顔を真っ赤にしてプイと顔を背けた。

 その途端、薫子と目がバチッと合う。

「な、なんだよ、もんくあんのか!」
「べ、べつに……」
「なんかいいたいことあんならいえよ!」

 薫子のほっぺをムニ、と掴んだ遼に、佐和がもう片方の手に小さな湯飲みを渡す。

「さ、今日だけの特別な飲み物ですよ。どうぞ、飲んでみて下さい」

 言われて遼は薫子のほっぺを掴んでいた手を離し、ゴクリと飲んだ。

「あちーっっ!! あちーよ、さわさん!!」
「あらあら、ごめんなさい。気をつけて下さいね」

 大和はそんな遼を横目に見ながら、ゆっくりと口をつけ、口の中で含んでから少しずつ飲み下した。

「ん。なんだ、これ?」
「甘酒ですよ。米麹で作ってあるから、お酒は入ってないんですよ。甘いでしょう?」
「うん、うまい!」
「旦那様方には、白酒をご用意しておりますので、こちらをどうぞ」

 佐和は、誠一郎と凛子に温めた白酒の入った猪口を渡した。

「おぉ、すまんな」
「ふふっ、これを飲むと雛祭りって気がしますわね」

 美姫がふたりの猪口を見つめながら、

「わたしものんでみたーい」

 と言ったが、さすがに可愛い娘の頼みでも聞いてやることは出来なかった。

「これは酒が入ってるから美姫にはまだ早いなぁ。20歳になったら、一緒に酒を飲もうな。その時が来るのが楽しみだ」
「ふふっ、まだまだ先ですけどね」

 凛子と誠一郎が目を細めた。

 幼く可愛い美姫が20歳になったらどのように成長するのかと思うと、楽しみでもあり、寂しい思いも広がる。さぞや美しく成長しているに違いないだろうと、まだ見ぬ大人になった娘に想いを馳せた。
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