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第八章 いさドラゴンカップ

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 いさドラゴンカップ大会当日。会場にはフードブースが並び、テントが張られていた。市外から参加しているチームにはテントが貸してもらえるものの、テントの数が少ないため市内のチームには貸してもらえない。そのため、メンバーの保護者たちが協力して早朝から会場に来てテントを張ったり、昼食やスナック、飲み物の準備をしてくれた。知り合いの親同士が多いこともあり、すぐに打ち解けて盛り上がっていた。

 8時の開会式に合わせ、1時間前にチームで集合することになっていたけれど、それよりもかなり早く着いた私と郁美はレース場所の下見がてら、喋りながらぶらぶらと歩いていた。『チェストー!ズ』のTシャツを着ていると選手と分かるためか、「かっこええが!」とか「きばりんせぉー!」とあちこちから声を掛けてもらえ、嬉しくなる。

「あんたたちぃ、いよいよね。先生、ビデオ撮っとってやるでね!」

 後ろから声を掛けられ、二人して振り返る。

「あっ、松元先生!! ありがとうございます」
「先生ぇ、あたしんこと美人に撮ってね!」

 郁美の言葉に、松元先生が思いっきり顔を顰めた。

「カーッ、レンズは真実しか映さんが」
「それ、どぉいう意味ねー?」
「ハハッ……」

 種目は中学生以上のコミュニティミックスの部、小・中学生のコミュ二ティジュニアの部、市内に拠点を置く事業所やクラブなどの市内職域の部、そして市外から参加する招待チームの部に分かれている。私たちはコミュニティミックスの部だ。

 今年は市制10周年ということで、記念レースが設けられていて、例年よりも気合いが感じられると郁美が語っていた。

 チームのテントに戻ると、その前で由美子と真紀、涼子が手を振っている。

「おはよー!」
「昨日は楽しかったね!」
「ほんとにっっ!!」

 互いに声を掛け合ってたんだけど、由美子と真紀は明るくしながらも、必死に眠気をおさえてる感じだった。よく見ると、目の下には隈ができてる。

「みんなに、見せたいもんがあるがよ」

 由美子が紙袋を置き、中から白い布を取り出し、その一端を真紀に渡す。それから、少しずつ二人が離れていき、布がどんどん大きくなっていく。

 そこには横断幕で、『チェストーズ! 伊佐高龍舟チーム!!』と力強く筆で書かれていて、左端に龍頭、右端には龍尾が描かれていた。私たちだけでなく、周りにいたメンバーたちからも『おぉ!』と歓声が上がった。

「あたしたちはぁ、一緒にボートに乗ることは出来ないから、2人で何ができるか話し合って、これを作ったがよ。意外に時間がかかっちゃって、昨日は徹夜で作業よ」
「あたしたちの分も、きばれよー!」

 由美子と真紀は横断幕を手に、笑顔を見せた。

 由美子、真紀……

 思ってもみなかったサプライズに瞳が潤む。

「あんたたちん思いは、あたしたちが受け取ったがよ! レース、きばるね!」

 郁美の力強い言葉に、涼子も「もっちろん!」と答え、私も大きく頷いた。

「みんな、集まってくれ」

 受付を終えた海くんが帰ってきて、メンバー全員に招集をかけた。

「組み合わせが決定した。『チェストー!ズ』は6レースめ、9時20分に試合開始する。レースは3艇のみで少ない分、有利だ」

 いさドラゴンカップでは、最大5艇でレースを争う。艇が多ければ多いほどぶつかったり、相手チームからのプレッシャーをかけられる可能性が高いので、3艇でレース出来るのはラッキーだと言えるだろう。

 8時になり、開会式が始まった。

 いよいよ、始まるんだ……

 緊張と興奮で胸が高鳴り、後ろに纏めた髪をきつく結び直した。
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