12 / 91
特別な存在
6
しおりを挟む
「矢野くんって、多恵ちゃんとだけは話すよね」
一度、そんな風に多恵ちゃんに話したことがあった。あくまでさりげなく、自然に、嫉妬が声に出ないように、話のついでを装って。
「あぁ、矢野はうちの近所に住んでて、幼稚園からの『腐れ縁』だからね。母親同士が仲良くなってさ、小さい頃はプレイデートって名目でよく会わされてたんだよね。小学校はうちと向かいの矢野ん家がちょうど学区が分かれる境界線だったから一緒にはなんなかったけど、中学入ったらまた顔合わせる羽目になっちゃった。
まったくタイプじゃないのが残念だけどねー。幼馴染で恋人とかさぁ、よく漫画とかアニメとかであるけど、幼馴染がイケメンなんてシチュ、現実にはなかなかないよねー」
大口を開けて笑った多恵ちゃんに、失礼なのではとヒヤヒヤし、矢野くんに心の中で詫びながらも、多恵ちゃんが矢野くんを好きではないと聞いてホッとしたりもした。
矢野くんへの想いは、誰にも……多恵ちゃんにすら、話したことはなかった。
だって、自分でも説明出来ない思いを、誰かに伝えることなんて出来ない。
恋には憧れるし、いつか私も恋をしてみたいとは思うけど、矢野くんへの思いが恋心なのかと聞かれても、よく分からない。
だいたい、恋がなんなのか……
小説や映画の世界で感動したり、時には涙したり、心が震えたりもするけど、それは私にとって架空の世界でしかなく、現実の自分に置き換えることがいまいち出来なかった。
けれど、矢野くんは間違いなく私が苦手としている男子の中で特別な存在だった。
一度、そんな風に多恵ちゃんに話したことがあった。あくまでさりげなく、自然に、嫉妬が声に出ないように、話のついでを装って。
「あぁ、矢野はうちの近所に住んでて、幼稚園からの『腐れ縁』だからね。母親同士が仲良くなってさ、小さい頃はプレイデートって名目でよく会わされてたんだよね。小学校はうちと向かいの矢野ん家がちょうど学区が分かれる境界線だったから一緒にはなんなかったけど、中学入ったらまた顔合わせる羽目になっちゃった。
まったくタイプじゃないのが残念だけどねー。幼馴染で恋人とかさぁ、よく漫画とかアニメとかであるけど、幼馴染がイケメンなんてシチュ、現実にはなかなかないよねー」
大口を開けて笑った多恵ちゃんに、失礼なのではとヒヤヒヤし、矢野くんに心の中で詫びながらも、多恵ちゃんが矢野くんを好きではないと聞いてホッとしたりもした。
矢野くんへの想いは、誰にも……多恵ちゃんにすら、話したことはなかった。
だって、自分でも説明出来ない思いを、誰かに伝えることなんて出来ない。
恋には憧れるし、いつか私も恋をしてみたいとは思うけど、矢野くんへの思いが恋心なのかと聞かれても、よく分からない。
だいたい、恋がなんなのか……
小説や映画の世界で感動したり、時には涙したり、心が震えたりもするけど、それは私にとって架空の世界でしかなく、現実の自分に置き換えることがいまいち出来なかった。
けれど、矢野くんは間違いなく私が苦手としている男子の中で特別な存在だった。
0
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
君の声を、もう一度
たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。
だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。
五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。
忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。
静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる