<完結>【R18】バレンタインデーに可愛い後輩ワンコを食べるつもりが、ドS狼に豹変されて美味しく食べられちゃいました♡

奏音 美都

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私の後輩ワンコ

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 ひっきりなしに響くキーボードを叩く音と、繰り返されるコピー機の機械音を忘れさせるほどの爽やかな声が営業部第二課に澄み渡った。

「原田せんぱ~い! 急ぎだって言ってた注文書来てました!」

 その声の主は柚木ゆずき 波留はる。私の5年下の後輩の新人であり、私が教育係をつとめている教え子でもある。

 柚木くんはキラキラとした瞳を輝かせ、右手に注文書をヒラヒラさせながら、一目散に私のもとへ向かって来る。

 お、戻ってきた。可愛いうちのワンコが……

 光に当たると透けてしまう程、透明感のある明るい茶色のサラサラの髪が歩く度に揺れている。そして、生まれながらに身につけているのではと思えるようなアイドルスマイルを周囲に、おそらく無意識にばらまいていた。

 柚木くんは気付いてないかもしれないけど、彼がこの笑顔を見せる度に営業事務の女子達は仕事の手を止め、彼の笑顔に魅入られ、砂漠の中のオアシスのような安らぎと癒しを与えてもらっている(私もその一人なんだけどね)。

 柚木くんは私の傍まで来ると、ピシッという効果音が合いそうな程まっすぐに背筋を正し(こんな仕草も可愛すぎだし)、両手で恭しく注文書を渡した。

「原田先輩、この注文書が今日中に届かないと指定の配送日まで間に合わないって言ってましたよね?」
「そうそう、よく覚えてたね、柚木くん。
 ここさぁ、昔気質っていうか、未だに注文書メールで送らずに郵送してくるから期日まで間に合うかヒヤヒヤしてたんだよね。
 えらい、えらい。よく出来ました♪」

 言いながら手を伸ばし、サラサラ茶髪の柚木くんの頭を撫でる。

 これは教育係の私の特権。パワハラとかじゃ、決してありません、から。たぶん……

「えへへ♪」

 柚木くんは年上の女に頭を撫でられるのが慣れているのか、それとも単なる無邪気なのか……

 嫌な顔ひとつせず。いや、むしろ私に、

 もっと褒めて、褒めて?

 ついでに、

 もっと撫でて、撫でて?

 と言わんばかりの嬉しそうな顔を見せる。私が頭撫でやすいように、自分から頭傾けてるし……

 お尻に尻尾、ついてないよね……尻尾ついてたら、今めちゃめちゃ尻尾振ってるだろうなぁ……ププッ、可愛い。

 確認したくなるほどワンコみたいな柚木くんに萌え萌えな私。

 妄想してる場合じゃないわ。
 さて、仕事スイッチ入れないと!


「さ、じゃあこれから発注手配かけるから。データの確認、お願いね。
 注文個数と金額はダブルチェック忘れずに」
「はい、気をつけます……」

 途端にシュン……と、柚木くんがうなだれた。

 ん? どした?
 あれっ? もしかして……あのこと、気にしてる?

 以前、柚木くんが注文個数10のところを100でデータ入力したことがあった。

 私が発注かける前に確認してたからよかったものの、そのままかけてたら会社の大損失につながるところだった。

 私としては嫌みで言ったつもりではなく、ただの指示だったのだけど、それが柚木くんの過去の失敗を思い起こさせてしまったみたいだ。

 わぁー、犬耳と尻尾も垂れてるわ……

 私の中の妄想柚木ワンコはパタンと犬耳が垂れて、シュンと尻尾が項垂れていた。

 ちょっ、落ち込んでる姿でさえも萠えポイントでしかないんですけどっ!!

「僕、少しでも原田先輩の役に立てるようになりたいのに。
 あんな失敗して……情けないですよね」
 
 ここはいっちょ、凹んでるワンコを励ましてあげますか……

 下から覗き込むようにして柚木くんの頬に手を添えるとこちらへ顔を向かせる。

「失敗は誰にでもあるものだし、新人はそうやって学んでいくんだから。
 これから気をつけていけばいいの、ね?」

 ほんと、真面目だなぁ。でもこの一生懸命さが可愛いんだよね。

「原田先輩……僕、原田先輩が教育係でよかったですっ」

 そう言うと、柚木くんは私の手に自分の手を重ねて、少し頬を染めて甘く微笑んだ。

 なに、それ? わざとなの? わざとやってるの?
 計算だとしたらめちゃめちゃハマってるんですけどっ!!

「……可愛すぎる」
「え?」

 小さく呟いた私の声がうまく聞き取れず、聞き返した柚木くんに、ガバッと椅子から立ち上がるとムギューッと抱き締めた。

 身長175センチプラス5センチヒール履いてる私に抱き締められた165センチの柚木くんは私の胸の中におさまっている。

「せ、せんぱっい……///」

 柚木くんが焦ったような声をあげる。

 今まで何度も抱き締められてるのに、柚木くんは毎回戸惑ったように顔を赤らめてくれる。そんな反応されるから、癖になっちゃうんだよねぇ。

「もぉ、柚木くん可愛すぎるぅぅぅっ!!」

 更にギューッと力を込めて抱き締める。

「ムグッ……く、くるしいっですぅぅぅっっ!!」
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