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ワンコは恋愛対象?

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 バレンタイン。

 会社では義理チョコは禁止になっている。と、ゆうわけで渡すのは友チョコ、そして本命チョコ、ってことになるんだけど……

 今朝、出勤すると柚木くんの机の上や引き出しにはチョコの山が出来ていた。

 やっぱ、こうなるよね。

「あっ、原田先輩! おはようございますっ」

 視界に入ってなかったけど、柚木くんは椅子に座った状態で腰を屈めて床に置いた紙袋にチョコを入れていたのだった。

 うわっ、紙袋にもチョコがたくさん入ってるし。

「おはよ~。さっすが、人気ナンバーワン新入社員柚木くんだねっ」

 軽く冗談めかして言うと、柚木くんは少し困ったように眉を寄せた。

「そ、そんなこと……ない、です……」

 あ、れ? この包装紙って最近テレビで見た気がする……

「わっ! これ、『ルル ショコラ』のチョコレートだっ!
 最近、日本に進出して話題になってたんだよねぇ」
「えっ、そうなんですか?
 先輩、一個食べてみますか?」

 わわっ、めっちゃ食べたいっ!! 食べたい、食べたい、食べたーーーいっっ!!
 けど……

 私は本心を必死で押し隠すと、サラリと言った。

「だめよ、女の子の気持ち無駄にしちゃ。
 みんな柚木くんに気持ち込めてあげてるんだから。」

 言いながら、胸がチクッと痛んだ。

 ん? 私、嫉妬してる?

「僕は……」

 柚木くんが私を見上げた。

 その悲しげな表情に、なぜか胸が締め付けられる。

 そんな、悲しそうな顔、しないで……
 私、そんな顔されたら......


 ♪チャーンチャチャチャチャチャーン♪


 ビクーン!!

 ラジオ体操第一の音楽が、スピーカーから流れ始めた。

 ビックリ、したぁ……

「っさぁっ! 今日も張り切ってラジオ体操するぞぉっ!!」

 チョコ渡すタイミング、逃したなぁ……


 そして、今に至る……

 チョコレート、どおしよ……仕事中に渡すわけにいかないし、昼休みってのも、うーん。午後の仕事に差し障りあるとやだから……渡すとしたら帰り、かなぁ。

 一体私は、柚木くんをどうしたいんだろう……
 彼氏にしたいわけじゃないなら、セフレ? 性欲処理?

 でも、それもなんか……違うんだよね……

「ワンコのあまりの可愛さに欲情しちゃってるだけ、かなw」

 だいいち、柚木くんが私のこと好きかどうかも分からないのに、何心配してんのよ、私。

 あの時の胸の痛みが少し気になりつつも、深く考えたくなくて……マグカップを洗って水切りカゴに置くと、給湯室を後にした。
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