私より美しく女装した弟に、婚約者が私だと勘違いして一目惚れしてしまいました

奏音 美都

文字の大きさ
21 / 25

弟を少しずつ手懐けて、部屋から連れ出すことに成功しました

 その日の夜、ジュリエッタは帰ってきた父にアーロンのことを報告した。アーロンの話を聞いてから帰したことは賢明だったと述べた上で、ニコラスは眉を寄せて考え込むように呟いた。

「まさか、婚約破棄したはずのアーロン様がミッチェルの元を訪れるとはな……」

 ジュリエッタと両親にとっては悩みの種となったわけだが、ミッチェルにとってそれは、希望の種となったようだった。

 翌日、ミッチェルは食事を置きにきたメイドに頼み、ジュリエッタに部屋に来るよう言伝をした。

 ジュリエッタがミッチェルの部屋を訪れ、コンコンと扉を叩くと、中から声がした。

「今、行きます……」

 今、行くって……

 ジュリエッタが戸惑っていると、扉の鍵が解錠され、部屋の扉が少しだけ開き、ミッチェルの顔が覗いた。

「ジュリエッタお姉様、早く……」

 ミッチェルは素早くジュリエッタを部屋へと招き入れ、再び部屋に鍵を閉めた。

 久しぶりに見たミッチェルは女装していないためか、より男性っぽく見えた。背が高くなり、体つきも男性らしく、喉仏がくっきり見えている。声も、以前より低くなっている気がした。

「ミッチェル、あなた……女装するのやめたの?」

 ジュリエッタがストレートに疑問をぶつけると、ミッチェルは気まずそうに俯いた。

「女性の格好をしていないと落ち着かないんですけど……アーロン様に嘘をつきたくないという気持ちもあって、迷っているんです。
 どう思いますか、ジュリエッタお姉様?」

 ジュリエッタは返答に窮した。

 うーん、むしろ男性の格好で現れたらアーロン様は驚かれるかも……女性のミッチェルしか知らないわけだし。

「ミッチェルがあなたらしくいられるのが、一番いいんじゃない?」

 ジュリエッタがそう答えると、ミッチェルの顔がパッと輝いた。

「そう……ですよね。自分にとって自然だと思えるのが一番いいんですよね!」

 ミッチェルは嬉々としてドレスに着替え、再びジュリエッタに顔を見せた。薄いとはいえ、メイクで隠していないため髭あとがあるものの、なんだかこちらの方がしっくりするような気がジュリエッタにもしてきた。

 もうこうなったら、お父様とお母様には息子はいなくなったと諦めてもらうしかないわね。

「どう、ですか?」

 ミッチェルが不安そうにおずおずとジュリエッタに問いかけた。そんな弟に対して無慈悲な言葉を投げかけられるわけない。

「とても美しいわ」

 ジュリエッタがにっこりして答えると、ミッチェルは嬉しそうに微笑んだ。

 そんな弟に対し、今がチャンスとばかりにジュリエッタが訴えた。

「ミッチェル。お父様とお母様も心配しているわ。どうか、顔を見せてあげてちょうだい」

 ミッチェルが姉の顔を、不安そうに窺う。

「お父様とお母様……怒ってらっしゃらない?」
「まぁ、あれはお父様とお母様の強欲が招いた自業自得でもあるわけだし、あなたばかりを責められないわよ」
「そう、でしょうか……」
「そうよ! 
 それに、私たちは家族ですもの。何があろうと、あなたの味方よ」

 たとえアーロン様がミッチェルを迎えに来なくても……私は、あなたの面倒を一生みてあげるから、心配いらないわ。

 口に出しては言えないけれど、ジュリエッタは心の中でミッチェルに語りかけた。

 それからジュリエッタは、ミッチェルの部屋を訪れて話をするようになった。

 時には一緒にお茶をしたり、苦手なダンスの練習をしたり、刺繍を教えてもらったりもした。正確に言えば、ミッチェルに頼んで刺繍をしてもらい、母に自分がやったかのように提出したのだが。マリエンヌはミッチェルが手伝ったことに気づかず、自分が教えた成果がようやく表れたと感動していた。

 そんな日々が1ヶ月続いた後、ミッチェルがジュリエッタの部屋を訪れるようになった。

 やがてピアノを練習室で弾いたり、マリエンヌと刺繍をしたりするようにまでなった。そこで、前回ジュリエッタが提出した刺繍はミッチェルが手伝ったことが判明してしまったわけだが。

 父とも顔を合わすようになり、そんな積み重ねを経て、家族で一緒に食事をとるまでに回復した。

 母は元々ミッチェルが女装することに関しては娘ができたようだ(既にジュリエッタがいるにも関わらず)と喜んでいたし、父はミッチェルに対してパブリックスクールへ戻すとか家督を継がせるということは諦め、部屋から出て家族と時間を過ごしてくれるようになっただけでもよかったと安心し、ミッチェルへの期待度のハードルはかなり下がっていた。

 ミッチェルが引きこもりを解消できたのは、いつかアーロンが迎えに来てくれると信じているからこそだった。ミッチェルは彼に会う日のためにと自分磨きを怠らず、結婚式を間近に控えているジュリエッタよりも気合いが入っていた。

 だが、アーロンは一向に迎えに来ないどころか、なんの連絡も来ていなかった。

 ジュリエッタが掴んだ情報によれば、結婚式の途中で逃げ出された相手方は相当立腹していて、訴訟問題になっているらしい。

 元々貧乏子爵で経済援助を求めるための政略結婚だったというのに、それを破談にしてしまい、多額の賠償金を払うことになったら、子爵一家は窮地に立たされることだろう。

 大丈夫かしら、アーロン様。
 また、別の縁談をご両親に持ちかけられていたりしていないかしら……

 ジュリエッタはアーロンのことを気にかけつつも、自ら首を突っ込むわけにもいかず、静かに今後の行末を見守っていた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

婚約者が妹にフラついていたので相談してみた

crown
恋愛
本人に。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。