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弟を少しずつ手懐けて、部屋から連れ出すことに成功しました
その日の夜、ジュリエッタは帰ってきた父にアーロンのことを報告した。アーロンの話を聞いてから帰したことは賢明だったと述べた上で、ニコラスは眉を寄せて考え込むように呟いた。
「まさか、婚約破棄したはずのアーロン様がミッチェルの元を訪れるとはな……」
ジュリエッタと両親にとっては悩みの種となったわけだが、ミッチェルにとってそれは、希望の種となったようだった。
翌日、ミッチェルは食事を置きにきたメイドに頼み、ジュリエッタに部屋に来るよう言伝をした。
ジュリエッタがミッチェルの部屋を訪れ、コンコンと扉を叩くと、中から声がした。
「今、行きます……」
今、行くって……
ジュリエッタが戸惑っていると、扉の鍵が解錠され、部屋の扉が少しだけ開き、ミッチェルの顔が覗いた。
「ジュリエッタお姉様、早く……」
ミッチェルは素早くジュリエッタを部屋へと招き入れ、再び部屋に鍵を閉めた。
久しぶりに見たミッチェルは女装していないためか、より男性っぽく見えた。背が高くなり、体つきも男性らしく、喉仏がくっきり見えている。声も、以前より低くなっている気がした。
「ミッチェル、あなた……女装するのやめたの?」
ジュリエッタがストレートに疑問をぶつけると、ミッチェルは気まずそうに俯いた。
「女性の格好をしていないと落ち着かないんですけど……アーロン様に嘘をつきたくないという気持ちもあって、迷っているんです。
どう思いますか、ジュリエッタお姉様?」
ジュリエッタは返答に窮した。
うーん、むしろ男性の格好で現れたらアーロン様は驚かれるかも……女性のミッチェルしか知らないわけだし。
「ミッチェルがあなたらしくいられるのが、一番いいんじゃない?」
ジュリエッタがそう答えると、ミッチェルの顔がパッと輝いた。
「そう……ですよね。自分にとって自然だと思えるのが一番いいんですよね!」
ミッチェルは嬉々としてドレスに着替え、再びジュリエッタに顔を見せた。薄いとはいえ、メイクで隠していないため髭あとがあるものの、なんだかこちらの方がしっくりするような気がジュリエッタにもしてきた。
もうこうなったら、お父様とお母様には息子はいなくなったと諦めてもらうしかないわね。
「どう、ですか?」
ミッチェルが不安そうにおずおずとジュリエッタに問いかけた。そんな弟に対して無慈悲な言葉を投げかけられるわけない。
「とても美しいわ」
ジュリエッタがにっこりして答えると、ミッチェルは嬉しそうに微笑んだ。
そんな弟に対し、今がチャンスとばかりにジュリエッタが訴えた。
「ミッチェル。お父様とお母様も心配しているわ。どうか、顔を見せてあげてちょうだい」
ミッチェルが姉の顔を、不安そうに窺う。
「お父様とお母様……怒ってらっしゃらない?」
「まぁ、あれはお父様とお母様の強欲が招いた自業自得でもあるわけだし、あなたばかりを責められないわよ」
「そう、でしょうか……」
「そうよ!
それに、私たちは家族ですもの。何があろうと、あなたの味方よ」
たとえアーロン様がミッチェルを迎えに来なくても……私は、あなたの面倒を一生みてあげるから、心配いらないわ。
口に出しては言えないけれど、ジュリエッタは心の中でミッチェルに語りかけた。
それからジュリエッタは、ミッチェルの部屋を訪れて話をするようになった。
時には一緒にお茶をしたり、苦手なダンスの練習をしたり、刺繍を教えてもらったりもした。正確に言えば、ミッチェルに頼んで刺繍をしてもらい、母に自分がやったかのように提出したのだが。マリエンヌはミッチェルが手伝ったことに気づかず、自分が教えた成果がようやく表れたと感動していた。
そんな日々が1ヶ月続いた後、ミッチェルがジュリエッタの部屋を訪れるようになった。
やがてピアノを練習室で弾いたり、マリエンヌと刺繍をしたりするようにまでなった。そこで、前回ジュリエッタが提出した刺繍はミッチェルが手伝ったことが判明してしまったわけだが。
父とも顔を合わすようになり、そんな積み重ねを経て、家族で一緒に食事をとるまでに回復した。
母は元々ミッチェルが女装することに関しては娘ができたようだ(既にジュリエッタがいるにも関わらず)と喜んでいたし、父はミッチェルに対してパブリックスクールへ戻すとか家督を継がせるということは諦め、部屋から出て家族と時間を過ごしてくれるようになっただけでもよかったと安心し、ミッチェルへの期待度のハードルはかなり下がっていた。
ミッチェルが引きこもりを解消できたのは、いつかアーロンが迎えに来てくれると信じているからこそだった。ミッチェルは彼に会う日のためにと自分磨きを怠らず、結婚式を間近に控えているジュリエッタよりも気合いが入っていた。
だが、アーロンは一向に迎えに来ないどころか、なんの連絡も来ていなかった。
ジュリエッタが掴んだ情報によれば、結婚式の途中で逃げ出された相手方は相当立腹していて、訴訟問題になっているらしい。
元々貧乏子爵で経済援助を求めるための政略結婚だったというのに、それを破談にしてしまい、多額の賠償金を払うことになったら、子爵一家は窮地に立たされることだろう。
大丈夫かしら、アーロン様。
また、別の縁談をご両親に持ちかけられていたりしていないかしら……
ジュリエッタはアーロンのことを気にかけつつも、自ら首を突っ込むわけにもいかず、静かに今後の行末を見守っていた。
「まさか、婚約破棄したはずのアーロン様がミッチェルの元を訪れるとはな……」
ジュリエッタと両親にとっては悩みの種となったわけだが、ミッチェルにとってそれは、希望の種となったようだった。
翌日、ミッチェルは食事を置きにきたメイドに頼み、ジュリエッタに部屋に来るよう言伝をした。
ジュリエッタがミッチェルの部屋を訪れ、コンコンと扉を叩くと、中から声がした。
「今、行きます……」
今、行くって……
ジュリエッタが戸惑っていると、扉の鍵が解錠され、部屋の扉が少しだけ開き、ミッチェルの顔が覗いた。
「ジュリエッタお姉様、早く……」
ミッチェルは素早くジュリエッタを部屋へと招き入れ、再び部屋に鍵を閉めた。
久しぶりに見たミッチェルは女装していないためか、より男性っぽく見えた。背が高くなり、体つきも男性らしく、喉仏がくっきり見えている。声も、以前より低くなっている気がした。
「ミッチェル、あなた……女装するのやめたの?」
ジュリエッタがストレートに疑問をぶつけると、ミッチェルは気まずそうに俯いた。
「女性の格好をしていないと落ち着かないんですけど……アーロン様に嘘をつきたくないという気持ちもあって、迷っているんです。
どう思いますか、ジュリエッタお姉様?」
ジュリエッタは返答に窮した。
うーん、むしろ男性の格好で現れたらアーロン様は驚かれるかも……女性のミッチェルしか知らないわけだし。
「ミッチェルがあなたらしくいられるのが、一番いいんじゃない?」
ジュリエッタがそう答えると、ミッチェルの顔がパッと輝いた。
「そう……ですよね。自分にとって自然だと思えるのが一番いいんですよね!」
ミッチェルは嬉々としてドレスに着替え、再びジュリエッタに顔を見せた。薄いとはいえ、メイクで隠していないため髭あとがあるものの、なんだかこちらの方がしっくりするような気がジュリエッタにもしてきた。
もうこうなったら、お父様とお母様には息子はいなくなったと諦めてもらうしかないわね。
「どう、ですか?」
ミッチェルが不安そうにおずおずとジュリエッタに問いかけた。そんな弟に対して無慈悲な言葉を投げかけられるわけない。
「とても美しいわ」
ジュリエッタがにっこりして答えると、ミッチェルは嬉しそうに微笑んだ。
そんな弟に対し、今がチャンスとばかりにジュリエッタが訴えた。
「ミッチェル。お父様とお母様も心配しているわ。どうか、顔を見せてあげてちょうだい」
ミッチェルが姉の顔を、不安そうに窺う。
「お父様とお母様……怒ってらっしゃらない?」
「まぁ、あれはお父様とお母様の強欲が招いた自業自得でもあるわけだし、あなたばかりを責められないわよ」
「そう、でしょうか……」
「そうよ!
それに、私たちは家族ですもの。何があろうと、あなたの味方よ」
たとえアーロン様がミッチェルを迎えに来なくても……私は、あなたの面倒を一生みてあげるから、心配いらないわ。
口に出しては言えないけれど、ジュリエッタは心の中でミッチェルに語りかけた。
それからジュリエッタは、ミッチェルの部屋を訪れて話をするようになった。
時には一緒にお茶をしたり、苦手なダンスの練習をしたり、刺繍を教えてもらったりもした。正確に言えば、ミッチェルに頼んで刺繍をしてもらい、母に自分がやったかのように提出したのだが。マリエンヌはミッチェルが手伝ったことに気づかず、自分が教えた成果がようやく表れたと感動していた。
そんな日々が1ヶ月続いた後、ミッチェルがジュリエッタの部屋を訪れるようになった。
やがてピアノを練習室で弾いたり、マリエンヌと刺繍をしたりするようにまでなった。そこで、前回ジュリエッタが提出した刺繍はミッチェルが手伝ったことが判明してしまったわけだが。
父とも顔を合わすようになり、そんな積み重ねを経て、家族で一緒に食事をとるまでに回復した。
母は元々ミッチェルが女装することに関しては娘ができたようだ(既にジュリエッタがいるにも関わらず)と喜んでいたし、父はミッチェルに対してパブリックスクールへ戻すとか家督を継がせるということは諦め、部屋から出て家族と時間を過ごしてくれるようになっただけでもよかったと安心し、ミッチェルへの期待度のハードルはかなり下がっていた。
ミッチェルが引きこもりを解消できたのは、いつかアーロンが迎えに来てくれると信じているからこそだった。ミッチェルは彼に会う日のためにと自分磨きを怠らず、結婚式を間近に控えているジュリエッタよりも気合いが入っていた。
だが、アーロンは一向に迎えに来ないどころか、なんの連絡も来ていなかった。
ジュリエッタが掴んだ情報によれば、結婚式の途中で逃げ出された相手方は相当立腹していて、訴訟問題になっているらしい。
元々貧乏子爵で経済援助を求めるための政略結婚だったというのに、それを破談にしてしまい、多額の賠償金を払うことになったら、子爵一家は窮地に立たされることだろう。
大丈夫かしら、アーロン様。
また、別の縁談をご両親に持ちかけられていたりしていないかしら……
ジュリエッタはアーロンのことを気にかけつつも、自ら首を突っ込むわけにもいかず、静かに今後の行末を見守っていた。
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