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252.相談
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「さ、入って、入って!!」
満面の笑みで香織にそう言われ、美羽は遠慮がちに玄関を跨いだ。香織の家に来たのは初めてではないが、今日話す内容を考えると落ち着かない。隼斗が一緒について来たことも、緊張感を高めていた。
「ごめんね、突然……」
隼斗と話をした翌日、大学の講義の合間に相談があると香織に話しかけ、急遽、彼女の家に行くことが決まった。そこで隼斗にも一応連絡をしておこうと思って電話をかけたところ、今日はカフェの定休日ということもあり、一緒に来ると言い出したのだった。
自分のせいで大事になり、香織や隼斗に迷惑をかけてしまっていることを申し訳なく思ったが、寧ろ香織はこの状況を喜んでいるようだった。
「なに言ってんのー。美羽が相談してくれるなんて、凄く嬉しいんだよ! だって、美羽はいっつもひとりで解決してなんにも話してくれないんだもん」
「そんなことないよ? いつもかおりんには色々と助けてもらって、感謝してるよ」
「ところで、なんで隼斗さんまで来てるわけ? 邪魔なんだけど」
邪魔と言われた隼斗は別段気分を悪くした様子もなく、ひとこと「気にするな」と言った。
小さなローテーブルを3人で囲んで座っていると、ままごとをしているようなおかしな気分だった。その気分を盛り上げるべく、白に紺と黄色のラインが入ったティーポットと揃いのティーカップ、真っ白な皿の上には美羽が手土産に持ってきたクッキーと隼斗が作ってきたロールケーキが載っていた。
ロールケーキの外側はシュー皮となっており、綺麗な渦巻きは生クリームとカスタードクリームで構成されており、その中に苺が入っていた。
皿に盛られたロールケーキをフォークで切り分け、口に運ぶと、上に散りばめられた香ばしいアーモンドが鼻腔を擽る。しっとりとしたシュー皮と口に入れた瞬間に蕩ける柔らかなふわふわのスポンジ、牛乳のコクを感じる生クリーム、濃厚な卵の旨味が詰まったカスタードクリーム、そして甘さの中にほどよい酸味のきいた苺がスパイスとなり、口の中で調和されて広がっていく。
わぁ……
すごく、美味しい……
感動で言葉を失くして味わう美羽に対し、香織は歓喜の声を上げた
「うっわー、隼斗さんっっ!! このイチゴのロールケーキ、めちゃめちゃ美味しいんだけど!!
ねぇ、これカフェのデザートメニューに加えるのよね?」
「まだ試作段階だ」
「えーっ、もう完璧じゃん! 全然出せると思うけどなぁ」
香織は美羽よりも隼斗との付き合いが短いにも関わらず、昔からの友達同士のように見える。どんなタイプの人間ともすぐに仲良くなれてしまう香織が羨ましい。
だが、友達は多いものの、大学に入ってから香織に恋人がいるという話を聞いたことはなかった。中学や高校では好きな人はいたものの、付き合ったことはないと言っていたので、恋に関しては意外と奥手なタイプなのかもしれない。
シトラス系の爽やかな香りが鼻を擽る。香織が美羽に躰を寄せ、顔を覗き込んだ。
「それで? なんの相談があってきたの?」
香織にじっと見つめられ、美羽は緊張で頬を引き攣らせた。
「じ、実……は」
それから、カラカラになった喉の渇きを潤すため、紅茶をゆっくりと口に含む。
そんな美羽を見て、香織がプッと吹き出した。
「ちょ、なんなのよ! そんなにシリアスなの!?」
美羽にとっては笑い事ではない。少し困ったように眉を下げ、香織を見上げた。
「う。うん……かおりんは、私のお母さんが厳しいの……なんとなく知ってるよね?」
「もちろん知ってるよ。いちいち電話で報告しろとか、泊まるのとかも写メ送ってこいとか言ってくるもんね。最初はビックリしたけど、もう慣れたわー」
実は今日も美羽は華江に香織の家に行くと報告し、香織の家の写メールを送ったばかりだった。あと少ししたら、電話して香織の声も聞かせなければならないだろう。
「そうなの。それで、ね……両親が、福岡に引っ越すって言ってるんだけど、私も連れてくって話してて……」
香織が大声を上げて身を乗り出した。
「えぇっ、引っ越し!? だって大学は!?」
美羽は香織に責められているように感じ、うな垂れるように答えた。
「大学なんて、別に行かなくてもいいって言われて……」
香織の悲鳴のような絶叫が、部屋中に響き渡る。
「そんなの絶対にダメ!! 美羽は私と一緒に大学卒業するんだから!!」
「かお、りん……」
美羽の胸が一気に熱くなる。
「私、だって……大学やめたくない。かおりんと一緒にいたいよ……
バイトだって、続けたい。みんなと楽しく、過ごしたい……」
「ねぇっ、なんとかならないの!? おばさん説得できないわけ!? だ、だってゼミの旅行は行けなかったから、卒旅は絶対に行こうねって話してたじゃん!!」
香織が必死の形相で美羽に迫った。
「もし私が結婚でもするなら、ついてこなくてもいいって言われたけど」
「なにそれ!? 時代錯誤もいい加減にしてほしいわ!!
それで美羽はどうするつもりなの?」
美羽は少し躊躇してから、恥を忍んで香織に告白した。
「……結婚を前提に、お付き合いしてる人がいるって言っちゃったの」
満面の笑みで香織にそう言われ、美羽は遠慮がちに玄関を跨いだ。香織の家に来たのは初めてではないが、今日話す内容を考えると落ち着かない。隼斗が一緒について来たことも、緊張感を高めていた。
「ごめんね、突然……」
隼斗と話をした翌日、大学の講義の合間に相談があると香織に話しかけ、急遽、彼女の家に行くことが決まった。そこで隼斗にも一応連絡をしておこうと思って電話をかけたところ、今日はカフェの定休日ということもあり、一緒に来ると言い出したのだった。
自分のせいで大事になり、香織や隼斗に迷惑をかけてしまっていることを申し訳なく思ったが、寧ろ香織はこの状況を喜んでいるようだった。
「なに言ってんのー。美羽が相談してくれるなんて、凄く嬉しいんだよ! だって、美羽はいっつもひとりで解決してなんにも話してくれないんだもん」
「そんなことないよ? いつもかおりんには色々と助けてもらって、感謝してるよ」
「ところで、なんで隼斗さんまで来てるわけ? 邪魔なんだけど」
邪魔と言われた隼斗は別段気分を悪くした様子もなく、ひとこと「気にするな」と言った。
小さなローテーブルを3人で囲んで座っていると、ままごとをしているようなおかしな気分だった。その気分を盛り上げるべく、白に紺と黄色のラインが入ったティーポットと揃いのティーカップ、真っ白な皿の上には美羽が手土産に持ってきたクッキーと隼斗が作ってきたロールケーキが載っていた。
ロールケーキの外側はシュー皮となっており、綺麗な渦巻きは生クリームとカスタードクリームで構成されており、その中に苺が入っていた。
皿に盛られたロールケーキをフォークで切り分け、口に運ぶと、上に散りばめられた香ばしいアーモンドが鼻腔を擽る。しっとりとしたシュー皮と口に入れた瞬間に蕩ける柔らかなふわふわのスポンジ、牛乳のコクを感じる生クリーム、濃厚な卵の旨味が詰まったカスタードクリーム、そして甘さの中にほどよい酸味のきいた苺がスパイスとなり、口の中で調和されて広がっていく。
わぁ……
すごく、美味しい……
感動で言葉を失くして味わう美羽に対し、香織は歓喜の声を上げた
「うっわー、隼斗さんっっ!! このイチゴのロールケーキ、めちゃめちゃ美味しいんだけど!!
ねぇ、これカフェのデザートメニューに加えるのよね?」
「まだ試作段階だ」
「えーっ、もう完璧じゃん! 全然出せると思うけどなぁ」
香織は美羽よりも隼斗との付き合いが短いにも関わらず、昔からの友達同士のように見える。どんなタイプの人間ともすぐに仲良くなれてしまう香織が羨ましい。
だが、友達は多いものの、大学に入ってから香織に恋人がいるという話を聞いたことはなかった。中学や高校では好きな人はいたものの、付き合ったことはないと言っていたので、恋に関しては意外と奥手なタイプなのかもしれない。
シトラス系の爽やかな香りが鼻を擽る。香織が美羽に躰を寄せ、顔を覗き込んだ。
「それで? なんの相談があってきたの?」
香織にじっと見つめられ、美羽は緊張で頬を引き攣らせた。
「じ、実……は」
それから、カラカラになった喉の渇きを潤すため、紅茶をゆっくりと口に含む。
そんな美羽を見て、香織がプッと吹き出した。
「ちょ、なんなのよ! そんなにシリアスなの!?」
美羽にとっては笑い事ではない。少し困ったように眉を下げ、香織を見上げた。
「う。うん……かおりんは、私のお母さんが厳しいの……なんとなく知ってるよね?」
「もちろん知ってるよ。いちいち電話で報告しろとか、泊まるのとかも写メ送ってこいとか言ってくるもんね。最初はビックリしたけど、もう慣れたわー」
実は今日も美羽は華江に香織の家に行くと報告し、香織の家の写メールを送ったばかりだった。あと少ししたら、電話して香織の声も聞かせなければならないだろう。
「そうなの。それで、ね……両親が、福岡に引っ越すって言ってるんだけど、私も連れてくって話してて……」
香織が大声を上げて身を乗り出した。
「えぇっ、引っ越し!? だって大学は!?」
美羽は香織に責められているように感じ、うな垂れるように答えた。
「大学なんて、別に行かなくてもいいって言われて……」
香織の悲鳴のような絶叫が、部屋中に響き渡る。
「そんなの絶対にダメ!! 美羽は私と一緒に大学卒業するんだから!!」
「かお、りん……」
美羽の胸が一気に熱くなる。
「私、だって……大学やめたくない。かおりんと一緒にいたいよ……
バイトだって、続けたい。みんなと楽しく、過ごしたい……」
「ねぇっ、なんとかならないの!? おばさん説得できないわけ!? だ、だってゼミの旅行は行けなかったから、卒旅は絶対に行こうねって話してたじゃん!!」
香織が必死の形相で美羽に迫った。
「もし私が結婚でもするなら、ついてこなくてもいいって言われたけど」
「なにそれ!? 時代錯誤もいい加減にしてほしいわ!!
それで美羽はどうするつもりなの?」
美羽は少し躊躇してから、恥を忍んで香織に告白した。
「……結婚を前提に、お付き合いしてる人がいるって言っちゃったの」
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