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253.香織の提案
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目が飛び出んばかりに、香織が美羽を凝視している。
「えっ、それ……」
「もちろん、嘘だよ。そんな人、いないもん。
でも……お母さんに疑われた時に、とっさにあの名刺を見せちゃったの」
「あの、名刺……?
って、まさか……昨日、『マジメくん』からもらった名刺のこと?」
さすがに勘のいい香織は分かったようだ。だが、信じられないといった表情をしている。
「マジ、で?」
「う、うん……」
「なんでそんなことしちゃったのよー!!」
笑われるかと思ったら、香織はどうやら怒っているかのように見える。
「ご、ごめん……なんとか福岡に行かないようにする手段を考えるのに、必死だったの。
だって、もう結婚するしか逃れる手はないって思ったから」
「なんでその相手が『マジメくん』なわけ!! もっといい男は思いつかなかったの!?」
「い、いや……朝野さんも悪い人じゃないと思うよ。真面目で優しそうだし、ちょっと可愛いところもあるし……」
香織が大きく息を吸い込んだ。
「もしかして惚れちゃった!?」
「そんなわけないじゃん! だいたい、どんな人なのかもよく分からないのに!!
彼には……知らないこととはいえ、巻き込んじゃって申し訳なかったなって思ってる」
それまでふたりのやり取りをじっと聞いていた隼斗が、ボソリと告げた。
「もしかしたら、あの人……名刺から連絡先突き止めて、本当に美羽と付き合っているのか調べるかもな」
隼斗が言うあの人とは、華江のことだ。美羽は継父のことを心の中では抵抗しつつも建前として『おとうさん』と呼んでいるが、隼斗は決して華江のことを『おかあさん』と呼ばないし、彼女の話をする際には嫌悪を込めて『あの人』と言っている。
隼斗の言葉に美羽は蒼白になった。
「まさ、か……」
そう言いながらも、母なら本当にそこまでするかもしれないと思った。そこで、恋人だというのが美羽の嘘だと分かれば、有無を言わせず福岡につれていかれるだろう。
「どう、しよう……」
香織がゴクリと生唾を呑み込んだ。
「そん、なに……美羽のお母さんって話も聞かないし、強引に勝手に決めちゃうヤバイ人なの?」
「う、ん……」
香織は美羽の母が門限に厳しかったり、娘の行動を制限しているのは知っているものの、本当の実態までは知らない。
「結婚するしか、道はないわけ?」
「結婚、か……ここから、逃げるしかないと思う」
香織が絶句した。その顔から、色味がなくなっていく。
「逃げるって……何もかも捨ててってこと!?」
美羽は香織から目を逸らし、小さく首を縦に振った。
「うん……」
美羽の脳裏に類の姿が浮かび上がる。
類となら、何もかも捨てて逃げられるのに。
もう大学卒業とか関係ない。類が迎えに来てくれれば、私は躊躇いなくこの生活を失ってもふたりだけの世界に飛び込むのに。
香織が美羽の両腕を強く掴んだ。
「逃げたら大学だって卒業出来ないし、私達も会えなくなっちゃうんだよ? そんなの絶対にダメだよ!!」
「私だって……したくないよ」
美羽は声を震わせた。
類がいないのに、私ひとりで逃げるなんて出来ない。
お母さんから逃れるためだけに痕跡を消せば、それは類が私を追う手がかりも消してしまうことになるから。
私は、ここから動けない……
美羽と離れることを寂しく思い、強く引き止めてくれている香織とは裏腹に類との駆け落ちを望んでいる自分はなんて薄情な人間だと、責めているもうひとりの自分もいる。
けれど、類を諦めることなど、美羽には出来なかった。
香織は肩を小さく震わせてから、美羽の瞳を見据えた。
「美羽……気は進まないかもしれないけど、『マジメくん』と付き合ってみたら?」
「えっ、それ……」
「もちろん、嘘だよ。そんな人、いないもん。
でも……お母さんに疑われた時に、とっさにあの名刺を見せちゃったの」
「あの、名刺……?
って、まさか……昨日、『マジメくん』からもらった名刺のこと?」
さすがに勘のいい香織は分かったようだ。だが、信じられないといった表情をしている。
「マジ、で?」
「う、うん……」
「なんでそんなことしちゃったのよー!!」
笑われるかと思ったら、香織はどうやら怒っているかのように見える。
「ご、ごめん……なんとか福岡に行かないようにする手段を考えるのに、必死だったの。
だって、もう結婚するしか逃れる手はないって思ったから」
「なんでその相手が『マジメくん』なわけ!! もっといい男は思いつかなかったの!?」
「い、いや……朝野さんも悪い人じゃないと思うよ。真面目で優しそうだし、ちょっと可愛いところもあるし……」
香織が大きく息を吸い込んだ。
「もしかして惚れちゃった!?」
「そんなわけないじゃん! だいたい、どんな人なのかもよく分からないのに!!
彼には……知らないこととはいえ、巻き込んじゃって申し訳なかったなって思ってる」
それまでふたりのやり取りをじっと聞いていた隼斗が、ボソリと告げた。
「もしかしたら、あの人……名刺から連絡先突き止めて、本当に美羽と付き合っているのか調べるかもな」
隼斗が言うあの人とは、華江のことだ。美羽は継父のことを心の中では抵抗しつつも建前として『おとうさん』と呼んでいるが、隼斗は決して華江のことを『おかあさん』と呼ばないし、彼女の話をする際には嫌悪を込めて『あの人』と言っている。
隼斗の言葉に美羽は蒼白になった。
「まさ、か……」
そう言いながらも、母なら本当にそこまでするかもしれないと思った。そこで、恋人だというのが美羽の嘘だと分かれば、有無を言わせず福岡につれていかれるだろう。
「どう、しよう……」
香織がゴクリと生唾を呑み込んだ。
「そん、なに……美羽のお母さんって話も聞かないし、強引に勝手に決めちゃうヤバイ人なの?」
「う、ん……」
香織は美羽の母が門限に厳しかったり、娘の行動を制限しているのは知っているものの、本当の実態までは知らない。
「結婚するしか、道はないわけ?」
「結婚、か……ここから、逃げるしかないと思う」
香織が絶句した。その顔から、色味がなくなっていく。
「逃げるって……何もかも捨ててってこと!?」
美羽は香織から目を逸らし、小さく首を縦に振った。
「うん……」
美羽の脳裏に類の姿が浮かび上がる。
類となら、何もかも捨てて逃げられるのに。
もう大学卒業とか関係ない。類が迎えに来てくれれば、私は躊躇いなくこの生活を失ってもふたりだけの世界に飛び込むのに。
香織が美羽の両腕を強く掴んだ。
「逃げたら大学だって卒業出来ないし、私達も会えなくなっちゃうんだよ? そんなの絶対にダメだよ!!」
「私だって……したくないよ」
美羽は声を震わせた。
類がいないのに、私ひとりで逃げるなんて出来ない。
お母さんから逃れるためだけに痕跡を消せば、それは類が私を追う手がかりも消してしまうことになるから。
私は、ここから動けない……
美羽と離れることを寂しく思い、強く引き止めてくれている香織とは裏腹に類との駆け落ちを望んでいる自分はなんて薄情な人間だと、責めているもうひとりの自分もいる。
けれど、類を諦めることなど、美羽には出来なかった。
香織は肩を小さく震わせてから、美羽の瞳を見据えた。
「美羽……気は進まないかもしれないけど、『マジメくん』と付き合ってみたら?」
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