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254.美羽の決断
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「かおりん。本気、なの?」
あれほど、美羽には似合わないだとか散々からかっていたのに、いきなり付き合うよう勧められ、美羽は困惑した表情を浮かべた。
「う、ん……『マジメくん』には申し訳ないけど、この際協力してもらおうよ。『マジメくん』と美羽が本当に付き合ってることが分かれば、美羽のおばさんにも納得してもらえるだろうし、福岡につれてくことも諦めてもらえるじゃない。
おばさんたちが福岡に引っ越しさえすれば、こっちのもんでしょ。向こうだって離れてからは監視することはできないわけだから、『マジメくん』と別れても知られることはないし。まぁ聞かれたら、適当にのらりくらりかわしておけばいいよ」
そんな、こと……
美羽が眉を顰める。
「好きでもないのに付き合うなんて出来ないし、人を騙して利用するようなこと、したくないよ」
それに、付き合ったことで母が安心して放置することもないだろう。結婚させて美羽の逃げ場をなくすまでは、決して手を緩めないはずだ。
美羽の背中を香織が軽く叩いた。
「何言ってんの! 『マジメくん』にとってみたら、これは幸運以外のなにものでもないんだよ! だって、絶対に無理だと思ってた相手に告白をオッケーされるんだから。
たとえ後で失恋することになっても、一生に一度味わえるかどうかのモテ期でしょ!」
「そんな言い方、朝野さんに失礼だよ」
そう香織を嗜めると、ペロッと舌を出して謝った。
「ごめん、ごめーん。
もしかしたら万が一の確率で、美羽も『マジメくん』のことを好きになる可能性だってあるわけだもんね!」
他の人を好きになる可能性……
類以外を恋愛対象に見たことなどない自分に、そんな可能性があるのだろうか。
類ではない、他の男性と見つめ合い、微笑み合い、会話を交わし、指を絡め、唇を重ね、躰をひとつにするなど、想像もつかなかった。
けれど、美羽の気持ちは揺さぶられていた。
口ではうまく説明できないが、美羽と類が生まれてからずっとふたりはたとえ傍にいなくても繋がっているという感覚があった。類が強い感情に駆られる時、それが美羽に流れ込んできたり、怪我した場所に痛みが走ったりした。それは逆も然りで、美羽に何かあった時にはそれが類にも伝わった。
けれど、この数年そういったことがなくなってしまった。まるで、ノイズがかかったり、砂嵐で映像が不鮮明になっているような……
離れていても感じられた類の存在を、感じられなくなっている。
類のことを信じてる。
まだ私のことを愛していると、必ず迎えにきてくれると信じてる……
どんなに年月が経とうと色褪せることのない恋心……それは類も同じはず。だって、ふたりは血という強い絆で結ばれているのだから。
だが、不安にも襲われるのだ。類との繋がりを感じられないのは、美羽を拒絶しているからではないのかと。もう、自分のことなど忘れて、アメリカでの生活を楽しんでいるのではないかと。
信じたい、類を。
だって、約束したんだから。大学を卒業したら一緒になるんだって……
だから、そのためにも……
「私……
朝野さんと、お付き合いしてみる」
もし朝野さんとお付き合いすれば、その間、時間稼ぎが出来る。
大学卒業して類が私を迎えに来てくれれば、その時は……類と、ふたりで逃げればいい。
自分でも身勝手すぎると自覚しているし、呆れる。純粋に告白してきた相手を騙すようなこと、すべきではないと……
けれど、美羽はどうしても類と一緒になりたかった。
今まで黙って話を聞いていた隼斗が、顔を上げた。
「それで、いいのか?」
その真摯な眼差しが、美羽の汚い思惑を見透かしているかのようだ。
美羽はそんな彼の眼差しを見つめ返すことが出来ず、フイと逸らした。
「うん……どんな人かも知らずに断るのも、悪いし」
程のいい言い訳だ。今までどんな男性であろうと頑なに付き合うことを拒んできたのに、そんなことあるはずない。
けれど、隼斗は非難するような言葉も眼差しも投げてくることはなかった。それが逆に、美羽の心に針を刺すような痛みを齎す。
「ま、そんなに重く考えなくたっていいじゃん!
好きじゃなかったけど告られたから付き合うなんて、世の中にたくさんあるわけだし。単なるきっかけのひとつにすぎないんだからさ」
サラリとそう言った香織に、美羽は心とは反対に笑みを見せた。
「うん、そうだよね……」
大学を卒業しても類が迎えに来なかったら、どうなるのだろう……
そう考えて、美羽は身を震わせた。
これからもずっと、類のいない人生を過ごさなければならないとしたら、どんなに辛く苦しいことか。
もし、類以外の人……朝野さんを好きになることができたら、私の心は楽になれるのかな。
でも、そんなこと今まで考えたことがなかったから……なんだか、怖い。
あれほど、美羽には似合わないだとか散々からかっていたのに、いきなり付き合うよう勧められ、美羽は困惑した表情を浮かべた。
「う、ん……『マジメくん』には申し訳ないけど、この際協力してもらおうよ。『マジメくん』と美羽が本当に付き合ってることが分かれば、美羽のおばさんにも納得してもらえるだろうし、福岡につれてくことも諦めてもらえるじゃない。
おばさんたちが福岡に引っ越しさえすれば、こっちのもんでしょ。向こうだって離れてからは監視することはできないわけだから、『マジメくん』と別れても知られることはないし。まぁ聞かれたら、適当にのらりくらりかわしておけばいいよ」
そんな、こと……
美羽が眉を顰める。
「好きでもないのに付き合うなんて出来ないし、人を騙して利用するようなこと、したくないよ」
それに、付き合ったことで母が安心して放置することもないだろう。結婚させて美羽の逃げ場をなくすまでは、決して手を緩めないはずだ。
美羽の背中を香織が軽く叩いた。
「何言ってんの! 『マジメくん』にとってみたら、これは幸運以外のなにものでもないんだよ! だって、絶対に無理だと思ってた相手に告白をオッケーされるんだから。
たとえ後で失恋することになっても、一生に一度味わえるかどうかのモテ期でしょ!」
「そんな言い方、朝野さんに失礼だよ」
そう香織を嗜めると、ペロッと舌を出して謝った。
「ごめん、ごめーん。
もしかしたら万が一の確率で、美羽も『マジメくん』のことを好きになる可能性だってあるわけだもんね!」
他の人を好きになる可能性……
類以外を恋愛対象に見たことなどない自分に、そんな可能性があるのだろうか。
類ではない、他の男性と見つめ合い、微笑み合い、会話を交わし、指を絡め、唇を重ね、躰をひとつにするなど、想像もつかなかった。
けれど、美羽の気持ちは揺さぶられていた。
口ではうまく説明できないが、美羽と類が生まれてからずっとふたりはたとえ傍にいなくても繋がっているという感覚があった。類が強い感情に駆られる時、それが美羽に流れ込んできたり、怪我した場所に痛みが走ったりした。それは逆も然りで、美羽に何かあった時にはそれが類にも伝わった。
けれど、この数年そういったことがなくなってしまった。まるで、ノイズがかかったり、砂嵐で映像が不鮮明になっているような……
離れていても感じられた類の存在を、感じられなくなっている。
類のことを信じてる。
まだ私のことを愛していると、必ず迎えにきてくれると信じてる……
どんなに年月が経とうと色褪せることのない恋心……それは類も同じはず。だって、ふたりは血という強い絆で結ばれているのだから。
だが、不安にも襲われるのだ。類との繋がりを感じられないのは、美羽を拒絶しているからではないのかと。もう、自分のことなど忘れて、アメリカでの生活を楽しんでいるのではないかと。
信じたい、類を。
だって、約束したんだから。大学を卒業したら一緒になるんだって……
だから、そのためにも……
「私……
朝野さんと、お付き合いしてみる」
もし朝野さんとお付き合いすれば、その間、時間稼ぎが出来る。
大学卒業して類が私を迎えに来てくれれば、その時は……類と、ふたりで逃げればいい。
自分でも身勝手すぎると自覚しているし、呆れる。純粋に告白してきた相手を騙すようなこと、すべきではないと……
けれど、美羽はどうしても類と一緒になりたかった。
今まで黙って話を聞いていた隼斗が、顔を上げた。
「それで、いいのか?」
その真摯な眼差しが、美羽の汚い思惑を見透かしているかのようだ。
美羽はそんな彼の眼差しを見つめ返すことが出来ず、フイと逸らした。
「うん……どんな人かも知らずに断るのも、悪いし」
程のいい言い訳だ。今までどんな男性であろうと頑なに付き合うことを拒んできたのに、そんなことあるはずない。
けれど、隼斗は非難するような言葉も眼差しも投げてくることはなかった。それが逆に、美羽の心に針を刺すような痛みを齎す。
「ま、そんなに重く考えなくたっていいじゃん!
好きじゃなかったけど告られたから付き合うなんて、世の中にたくさんあるわけだし。単なるきっかけのひとつにすぎないんだからさ」
サラリとそう言った香織に、美羽は心とは反対に笑みを見せた。
「うん、そうだよね……」
大学を卒業しても類が迎えに来なかったら、どうなるのだろう……
そう考えて、美羽は身を震わせた。
これからもずっと、類のいない人生を過ごさなければならないとしたら、どんなに辛く苦しいことか。
もし、類以外の人……朝野さんを好きになることができたら、私の心は楽になれるのかな。
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