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382.ノック
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萌と電話している間は忘れることができたが、電話を切ってひとりになると、今日あった様々なことが脳裏でフィルムのように回り、それぞれの場面で色々な思いが絡みつく。
何度も、後悔した場面はあった。
朝、類と挨拶を交わした時。
仕事に向かう車中。
類にチョコを渡した時。
車を降りる、直前。
控室で、類に囁かれた時。
休憩中。
帰りの車の中。
言おうと思えば、言えたはずなのに。
『類のために、特別に用意したチョコケーキがある』って。
『類のことを想って、焼いたんだよ』って。
けれど、言えなかったのは……自分に迷いがあったから。まだ、覚悟を決められないから。
だから、義昭がケーキを食べているのを見た時に、僅かに残っていた勇気が打ち砕かれてしまった。
もうダメだと、諦めてしまった。
類……類は今、何を考えてる?
意気地がない私に呆れてる? 怒ってる?
……それとも、悲しんでる? 恨んでる?
眠れないままベッドに横たわっていると、何かを引き摺るような音が扉の向こうから聞こえてきて、美羽は耳を澄ませた。
今の、音……何!?
訝しんでいると、美羽の部屋の扉がノックされた。それと共に、低い唸り声が響く。
「ぅ……うぅ……美、羽ぅぅぅ」
ッ……義昭さん!!
あのチョコケーキのことを誤解して、誘いに来たの!?
ノックする音が次第に大きく、激しくなっていく。
ドン! ドドン! ドンドン!! ドンドンドン!!
「ハァッ、ハァッ……み、美羽ぅっ! あっ……ハァッ……開け、開けて……くれっ……ハァッ、ハァッ」
荒い息遣いで、義昭が美羽の名前を何度も呼んでいる。一気に、悪寒が全身を駆け抜ける。
「い、今すぐ……ハァッ、ハァッ……開け、て……くっ!」
今度は、扉をガリガリと爪で引っ掻いている。鳥肌がたち、心臓がバクバクと破裂しそうに警報のように騒ぎ立てる。
「ウッ……ウゥッ……ハァッ、ハァッ……あ、開けぇぇぇ……ハァッ、ハァッ」
扉の奥から聞こえる唸り声は、常軌を逸していた。
「ぃ、ぃゃ……いや……」
布団を頭までかぶり、耳を塞ぐ。背中から恐怖が覆いかぶさり、震えが止まらない。
怖い……怖い、怖い。
嫌だ!!
抑えていても呻き声が聞こえてくるような気がして、より一層強く耳を塞いだ。
やがて、力尽き果てて眠りに落ちるまで。
何度も、後悔した場面はあった。
朝、類と挨拶を交わした時。
仕事に向かう車中。
類にチョコを渡した時。
車を降りる、直前。
控室で、類に囁かれた時。
休憩中。
帰りの車の中。
言おうと思えば、言えたはずなのに。
『類のために、特別に用意したチョコケーキがある』って。
『類のことを想って、焼いたんだよ』って。
けれど、言えなかったのは……自分に迷いがあったから。まだ、覚悟を決められないから。
だから、義昭がケーキを食べているのを見た時に、僅かに残っていた勇気が打ち砕かれてしまった。
もうダメだと、諦めてしまった。
類……類は今、何を考えてる?
意気地がない私に呆れてる? 怒ってる?
……それとも、悲しんでる? 恨んでる?
眠れないままベッドに横たわっていると、何かを引き摺るような音が扉の向こうから聞こえてきて、美羽は耳を澄ませた。
今の、音……何!?
訝しんでいると、美羽の部屋の扉がノックされた。それと共に、低い唸り声が響く。
「ぅ……うぅ……美、羽ぅぅぅ」
ッ……義昭さん!!
あのチョコケーキのことを誤解して、誘いに来たの!?
ノックする音が次第に大きく、激しくなっていく。
ドン! ドドン! ドンドン!! ドンドンドン!!
「ハァッ、ハァッ……み、美羽ぅっ! あっ……ハァッ……開け、開けて……くれっ……ハァッ、ハァッ」
荒い息遣いで、義昭が美羽の名前を何度も呼んでいる。一気に、悪寒が全身を駆け抜ける。
「い、今すぐ……ハァッ、ハァッ……開け、て……くっ!」
今度は、扉をガリガリと爪で引っ掻いている。鳥肌がたち、心臓がバクバクと破裂しそうに警報のように騒ぎ立てる。
「ウッ……ウゥッ……ハァッ、ハァッ……あ、開けぇぇぇ……ハァッ、ハァッ」
扉の奥から聞こえる唸り声は、常軌を逸していた。
「ぃ、ぃゃ……いや……」
布団を頭までかぶり、耳を塞ぐ。背中から恐怖が覆いかぶさり、震えが止まらない。
怖い……怖い、怖い。
嫌だ!!
抑えていても呻き声が聞こえてくるような気がして、より一層強く耳を塞いだ。
やがて、力尽き果てて眠りに落ちるまで。
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