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403.使い込み
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「どうしたんですか!? 何か、あったんですか!?」
美羽はおろおろしながらハンカチを取り出し、圭子に渡した。
圭子はハンカチを受け取ると涙を拭き、鼻水を抑えて肩を震わせた。
「私、晃に殺される……ヒクッ。絶対、許してもらえない」
え、晃さんに!?
もしや、DVを受けているのかと考えたが、晃は性格はお世辞にもよいとは言えないものの、暴力を振るうようなタイプの人間ではない。
だが、夫婦には外側からは分からないことがあるものだ。もしかしたら、晃は外では恐妻家のように見せておきながら、家では暴力をふるっているのかもしれない。
それにしても、圭子は黙って夫からの暴力に堪えるような妻であるとは、到底思えなかった。
それに、琴子だって引越ししたとはいえ、最近まで同居していたのだ。
琴子が義昭ばかりを溺愛しているとはいえ、腹を痛めて産んだ圭子が暴力を受けていると知れば黙ってはいないだろうし、それを直接見なくともなんとなく気付くだろうから、即座に義昭にも報告していることだろう。
じゃ、浮気!?
圭子さんが、晃さん以外の誰かと浮気してるってこと?
色々な想像を働かせていると、圭子がテーブルを力強くバシッと叩いた。
「今月払う家賃……失くしちゃったの。家賃だけじゃない。水道代も、光熱費も、携帯の料金も、保育園のお金も、ほのかのおむつも、食費さえ、も……払うお金、一円もないの……」
「えっ、どこかに落としたってことですか!?」
美羽の問いに、圭子は首を振った。
「貯金から払うことは……」
「貯金なんてあるはずないでしょ!! あったらとっくにそこから下ろしてるし、わざわざ美羽さんに会いに来ないわよ!!」
そう言われて、美羽はハタと思い出した。
「で、でも……圭子さん。義昭さんからマンションの頭金の半額に当たるお金を、借りたんじゃなかったんですか?」
美羽はあの後、どんな風に義昭が圭子にお金を渡したのか詳しく聞いていないが、既に琴子はシニアホームに引越したため、圭子たちもそろそろ引越しするのではと考えていた。
とすると、貯金の全額をマンションの頭金を支払うために使ってしまったので、生活費がないということなのだろうか。
「もうマンション、購入されたんですか?」
「してないわよ。そんなお金、あるはずないでしょ」
「義昭さん、まだお金を貸してないんですか? それとも、何か行き違いが? 私、義昭さんに聞いてみましょうか?」
「ちょっ、やめてよ!! お金は、すぐに払ってくれたから!! ちゃんと、銀行に振り込まれてたから!!」
え。どういうこと……?
「もし、かして……圭子さんが、使ったってことですか?」
圭子は苦虫を噛み潰したような表情を見せてから、コクンと頷いた。
使った、って……
「ぇ。義昭さんが、振り込んだお金……全額、ですか?」
信じられない気持ちで尋ねると、圭子は再び頷いた。
ウェイトレスが来たので、美羽はすぐにでも問い質したい気持ちを抑え、黙り込んだ。圭子の前に苺のショートケーキとコーヒー、向かい側にカモミールティーが置かれる。
奇妙な沈黙の後、美羽はウェイトレスが去ったのを待ってから、声を潜めて聞いた。
「あの……いくら、義昭さんから借りたんですか」
「300、万」
その金額を聞き、気が遠くなった。
あれだけ美羽に徹底的に金銭に細かかった義昭が母親の為にポンと圭子に300万円という大金を、たとえ借金としてであっても渡したこと。そのお金を、圭子がマンション購入の為ではなく、自分の欲望の為に使い込んでしまったことに呆然とした。
「圭子さん……そのお金、何に使ったんですか?」
圭子は言うかどうか迷って黙っていたが、やがて覚悟を決めたように重い口を開いた。
「絶対に、取り戻せるって思ったのよ……勝って倍になれば、大丈夫って」
美羽はおろおろしながらハンカチを取り出し、圭子に渡した。
圭子はハンカチを受け取ると涙を拭き、鼻水を抑えて肩を震わせた。
「私、晃に殺される……ヒクッ。絶対、許してもらえない」
え、晃さんに!?
もしや、DVを受けているのかと考えたが、晃は性格はお世辞にもよいとは言えないものの、暴力を振るうようなタイプの人間ではない。
だが、夫婦には外側からは分からないことがあるものだ。もしかしたら、晃は外では恐妻家のように見せておきながら、家では暴力をふるっているのかもしれない。
それにしても、圭子は黙って夫からの暴力に堪えるような妻であるとは、到底思えなかった。
それに、琴子だって引越ししたとはいえ、最近まで同居していたのだ。
琴子が義昭ばかりを溺愛しているとはいえ、腹を痛めて産んだ圭子が暴力を受けていると知れば黙ってはいないだろうし、それを直接見なくともなんとなく気付くだろうから、即座に義昭にも報告していることだろう。
じゃ、浮気!?
圭子さんが、晃さん以外の誰かと浮気してるってこと?
色々な想像を働かせていると、圭子がテーブルを力強くバシッと叩いた。
「今月払う家賃……失くしちゃったの。家賃だけじゃない。水道代も、光熱費も、携帯の料金も、保育園のお金も、ほのかのおむつも、食費さえ、も……払うお金、一円もないの……」
「えっ、どこかに落としたってことですか!?」
美羽の問いに、圭子は首を振った。
「貯金から払うことは……」
「貯金なんてあるはずないでしょ!! あったらとっくにそこから下ろしてるし、わざわざ美羽さんに会いに来ないわよ!!」
そう言われて、美羽はハタと思い出した。
「で、でも……圭子さん。義昭さんからマンションの頭金の半額に当たるお金を、借りたんじゃなかったんですか?」
美羽はあの後、どんな風に義昭が圭子にお金を渡したのか詳しく聞いていないが、既に琴子はシニアホームに引越したため、圭子たちもそろそろ引越しするのではと考えていた。
とすると、貯金の全額をマンションの頭金を支払うために使ってしまったので、生活費がないということなのだろうか。
「もうマンション、購入されたんですか?」
「してないわよ。そんなお金、あるはずないでしょ」
「義昭さん、まだお金を貸してないんですか? それとも、何か行き違いが? 私、義昭さんに聞いてみましょうか?」
「ちょっ、やめてよ!! お金は、すぐに払ってくれたから!! ちゃんと、銀行に振り込まれてたから!!」
え。どういうこと……?
「もし、かして……圭子さんが、使ったってことですか?」
圭子は苦虫を噛み潰したような表情を見せてから、コクンと頷いた。
使った、って……
「ぇ。義昭さんが、振り込んだお金……全額、ですか?」
信じられない気持ちで尋ねると、圭子は再び頷いた。
ウェイトレスが来たので、美羽はすぐにでも問い質したい気持ちを抑え、黙り込んだ。圭子の前に苺のショートケーキとコーヒー、向かい側にカモミールティーが置かれる。
奇妙な沈黙の後、美羽はウェイトレスが去ったのを待ってから、声を潜めて聞いた。
「あの……いくら、義昭さんから借りたんですか」
「300、万」
その金額を聞き、気が遠くなった。
あれだけ美羽に徹底的に金銭に細かかった義昭が母親の為にポンと圭子に300万円という大金を、たとえ借金としてであっても渡したこと。そのお金を、圭子がマンション購入の為ではなく、自分の欲望の為に使い込んでしまったことに呆然とした。
「圭子さん……そのお金、何に使ったんですか?」
圭子は言うかどうか迷って黙っていたが、やがて覚悟を決めたように重い口を開いた。
「絶対に、取り戻せるって思ったのよ……勝って倍になれば、大丈夫って」
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