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112.痣痕

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 サラはハッと目を醒ました。

 ゆ、め。
 夢、でしたのね。

 ベッドから下りるとキッチンへ向かい、戸棚からグラスを取り出す。手が、震えていた。蛇口を捻り、水を注ぐと一気に飲み干した。

「ッハァ、ッハァ……」

 手、だけじゃない。全身も小刻みに震えている。

 ゆ、め。あれは、夢……

 そう思いながらも、サラは無意識にグラスを置いた手をそっと首へと触れた。

 もう、痣は残っていない。それなのに、あの時の感触がまだへばりついて離れない。

 下半身に違和感を覚え、サラはお手洗いへと向かった。パンティーを下ろし、見つめたサラの瞳が絶望に染まる。クラッチ部分が濡れ、濃い染みを滲ませていた。

 トイレットペーパーを秘所にあてがうと、そこにも濃厚な蜜がべったりと張り付いた。

「ック……」

 逃れ、られないのですか。
 私の躰はまだ、ステファンに拘束されたままだというのですか……

 手を洗い、洗面所の鏡を何気なく見上げたサラは、短く息を吸った。

「ヒッ!!」

 顔を蒼白にし、後退りする。

 どうして……痣は、消えたはずなのに。

 うっすらと首に赤く残る、指の跡。
 それは、間違いなくステファンの細く長い指の形だった。

 サラは蹲り、全身を震わせた。

 まるで、それは首枷のように......

『貴女と私は見えない鎖で縛られているのです。
 断ち切ることなど、出来ない』

 夢の中のステファンの言葉が、サラの脳内で響き渡る。

 やめて! 私は鎖を断ち切ったのです。
 もう、縛られてなどいません!

 頭を抱え、何度も呪文のように唱えた後、サラは震える躰を抱き締めながらゆっくりと立ち上がった。

 ……ない。

 鏡に映る首の痣は、消えていた。

 幻、覚。

 サラは肩を撫で下ろすと、洗面所の扉を開けた。まだ、膝が震えている。

 許、して……
 許して、ステファン……

「ウッ、ウッ……ッグ」 
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