教室の戸を開けたら、そこには......中学生の、私がいた。

奏音 美都

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教室の戸を開けたら、そこには......

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 教室の戸を開けたら、そこには私がいた。

 ......いや、正確に言えば、中学生の私がいた。

 現実である24歳の私は教室の隅に立ち、中学生の私が窓際の席に座って落ち着きなく窓の外を見ているのを眺めている。

 これは、夢の中......なのだろう、きっと。だって、中学生の私は現在の私など見えていないようだ。

 夢の中にもかかわらず、壁や床を伝って流れてくる冷んやりとした空気が肺まで凍らせるように冷たく感じ、手足がかじかんで硬くなっていた。

 人気のない教室の、独特な懐かしい匂いが鼻を擽る。

 なぜ今頃、こんな夢を見ているのだろう......もう10年も昔の、遠くなってしまった過去の記憶。
 
ーー忘れたい、苦い思い出......

 中学生の私は肩までの髪を揺らし、長袖のセーラー服を着ている。全身紺で、襟に真っ白な線が一本入ってるだけで、細長い黒いリボンが小さくついている地味なセーラー服だ。

 早朝、なのだろうか......まだ誰も登校していないようだ。

 記憶を辿ってみても、私は早朝から登校するような生徒じゃなかったはずだ。

 彼女がそわそわと見つめる窓は外気との気温差で曇っていて、そこからうっすら雪がチラチラと舞い降りているのを覗くことが出来た。

 ツルツルとした木目に傷や少し汚れがある天板の机の横のフックに掛けられた補助バッグに、彼女の視線が落とされる。そこから見えた真っ赤なリボンを見た途端、私の心臓がトクン...と音をたてた。

 それは、溝端くんに渡すはずだった、バレンタインのチョコレートだった。 
  
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