25 / 1,014
初めてを捧げた人 ー美姫過去編ー
5
しおりを挟む
翌日。
鬱々とした気持ちで、足を引き摺るようにして学校へ向かっていた。
秀一さんの見送りに行くこともできず、かといって、学校を休んで一日中部屋に閉じこもっている気にもなれない。
秀一さん……
私の気持ちを嘲笑うかのように空は澄み切って晴れ晴れとしており、絶好のフライト日和だった。見上げた空には、一筋の飛行機雲が流れている。
もう今頃秀一さんは、雲の上を飛んでいるのかな。
瞳の奥が熱く焼け付いた。
校門の前には、薫子が立っていた。私を見つけた途端、小走りで寄ってきた。
「美姫、おはよう! もう体調大丈夫なの? 昨日LINE送ったんだけど、返信ないから心配しちゃった」
「うん......ご、めんね」
こんな時、既読機能があるLINEは面倒だと思った。普通読んですぐ返信する私が何も返事しなかったので、薫子は不審に思ったのだろう。
いつもと違う雰囲気を感じたのか、薫子が私の顔を覗き込む。
「美姫......何か、あった?」
話し、たい。でも……
「......ううん、何でも、ない。まだ体調が万全じゃないだけ、だから」
「そう?もし、気分が悪くなったら言ってね」
薫子は優しく微笑むと、私の手を握った。
いつもならその微笑みが嬉しくて私の心を温かくさせるのに……今日は、その笑顔が憎らしい。
薫子に......私の気持ちなんて、分かるわけない。
薫子の教室の前で彼女と別れ、少しの安堵と罪悪感を胸に2つ離れた自分の教室に向かう。開け放たれた教室の扉の中からは笑い声が溢れ、足を踏み入れた途端にたくさんの友達に囲まれて笑っている大和の姿が目に飛び込む。
「おは、よう......」
少し照れたように挨拶する大和に、昨日の出来事が脳裏に蘇る。
そうだ、私。昨日、大和に告白されたんだ。
あまりにもいろんなことが起こりすぎて、自分の中で消化出来ずにいた。
「おはよう......」
いつもなら笑って真っ直ぐに大和のところに向かうのに、そのまま窓際の自分の席についた。
そんな私を見て、周りのみんなが怪訝な顔をする。
「なに、お前ら喧嘩でもしたの?」
「なに、なにぃー?」
ざわつく周囲の声に、大和が焦った声を上げる。
「い、いやっ!別に、なんでもねーよ」
けれど、私にはそんな周囲のざわめきなど聞こえず、机に座ったままどこを見るともなく窓の外へと視線を向けた。
秀一さんは今、どうしてるんだろう……
心が止まり、ただ時間だけが過ぎていった。
お昼休みに薫子と悠の仲の良い姿を見たくないし、大和の顔を見るのも気まずい。
「今日、私......一人でお昼ご飯食べるね」
大和に告げると、返事も聞かずに教室を出て行った。
いつもの屋上には行けず、ウロウロと校内を歩き回る。ようやく校舎から離れた場所にあるローズガーデン近くのベンチが空いているのを見つけ、そこに腰を下ろした。
食べる気にもなれず、ただぼぉーっと時間が流れていくのを見つめた。
「美姫」
大和が、私の元へと走り寄ってきた。
「大和......」
「ごめん、一人になりたいのは分かってんだけど。どうしても気になってさ......」
一人、に……
一人になりたくないのに、でも誰かといると辛くて......距離を置きたいって思ってた。
「ううん。大和、座って」
けれどなぜか、こうして隣に座る大和の存在を疎ましく思う気持ちはなく、むしろ有り難かった。
「......あのさ、ごめんな。あんなこと突然言われて、戸惑うの普通だよな。俺達、今までずっといい友達だったのに......
悠と薫子が付き合いだして、俺......焦ったんだ。俺も美姫とあんな風に手を繋いだり、もっと二人の時間を過ごしたいって考えるようになってた」
大和が私の瞳を正面から見つめる。
大和……
「でもさ、美姫がそれを望まないなら......これまで通り、友達でいよう。俺も、今までみたいに美姫に接するから気にしないで欲しい」
どこまでも真っ直ぐで、眩しいほどに純粋な思い。
この人の優しさに......甘えたい。縋りたい。傍に、いて欲しい......
「大和、私……大和のこと、今まで友達としてしか見たことなくて......」
「わ、かってる......」
立ち上がろうとした大和の腕を取る。
大和が驚いたように、視線を向けた。
「ううん、聞いて。大和の気持ち聞いて、嬉しかったの。私、大和のこともっと知りたい。友達として、じゃなくて。
大和のこと、好きに......なりたい」
それは偽りなんかじゃなく、本当に心から思った。
大和のことを、好きになりたい。秀一さんのことが考えられなくなるくらい......
「………」
大和は暫く何も言わず、ただ私の瞳をじっと見つめるだけだった。
やっぱり......こんなの、自分勝手だよね。真剣に告白してきた相手に、これから好きになりたい、だなんて……
「......嬉しい」
大和が、小さい声で噛みしめるように呟いた。
と、「めっちゃくちゃ嬉しいっっっ!!!!!」大声で叫ぶと、ギューーーッと強い力で抱き締められた。
「や、大和ぉっ!!! く、くるしいっっ!!!」
「わ、わわっ!!! ご、ごめん......嬉しすぎて、つい」
そして、今度は恐る恐る私に触れ、拒絶されないのを確認してから優しく抱き締めた。
「俺、美姫のこと大事にするから......俺のこと、好きになって欲しい」
「うん......」
大和のこと……好きに、なりたい。
鬱々とした気持ちで、足を引き摺るようにして学校へ向かっていた。
秀一さんの見送りに行くこともできず、かといって、学校を休んで一日中部屋に閉じこもっている気にもなれない。
秀一さん……
私の気持ちを嘲笑うかのように空は澄み切って晴れ晴れとしており、絶好のフライト日和だった。見上げた空には、一筋の飛行機雲が流れている。
もう今頃秀一さんは、雲の上を飛んでいるのかな。
瞳の奥が熱く焼け付いた。
校門の前には、薫子が立っていた。私を見つけた途端、小走りで寄ってきた。
「美姫、おはよう! もう体調大丈夫なの? 昨日LINE送ったんだけど、返信ないから心配しちゃった」
「うん......ご、めんね」
こんな時、既読機能があるLINEは面倒だと思った。普通読んですぐ返信する私が何も返事しなかったので、薫子は不審に思ったのだろう。
いつもと違う雰囲気を感じたのか、薫子が私の顔を覗き込む。
「美姫......何か、あった?」
話し、たい。でも……
「......ううん、何でも、ない。まだ体調が万全じゃないだけ、だから」
「そう?もし、気分が悪くなったら言ってね」
薫子は優しく微笑むと、私の手を握った。
いつもならその微笑みが嬉しくて私の心を温かくさせるのに……今日は、その笑顔が憎らしい。
薫子に......私の気持ちなんて、分かるわけない。
薫子の教室の前で彼女と別れ、少しの安堵と罪悪感を胸に2つ離れた自分の教室に向かう。開け放たれた教室の扉の中からは笑い声が溢れ、足を踏み入れた途端にたくさんの友達に囲まれて笑っている大和の姿が目に飛び込む。
「おは、よう......」
少し照れたように挨拶する大和に、昨日の出来事が脳裏に蘇る。
そうだ、私。昨日、大和に告白されたんだ。
あまりにもいろんなことが起こりすぎて、自分の中で消化出来ずにいた。
「おはよう......」
いつもなら笑って真っ直ぐに大和のところに向かうのに、そのまま窓際の自分の席についた。
そんな私を見て、周りのみんなが怪訝な顔をする。
「なに、お前ら喧嘩でもしたの?」
「なに、なにぃー?」
ざわつく周囲の声に、大和が焦った声を上げる。
「い、いやっ!別に、なんでもねーよ」
けれど、私にはそんな周囲のざわめきなど聞こえず、机に座ったままどこを見るともなく窓の外へと視線を向けた。
秀一さんは今、どうしてるんだろう……
心が止まり、ただ時間だけが過ぎていった。
お昼休みに薫子と悠の仲の良い姿を見たくないし、大和の顔を見るのも気まずい。
「今日、私......一人でお昼ご飯食べるね」
大和に告げると、返事も聞かずに教室を出て行った。
いつもの屋上には行けず、ウロウロと校内を歩き回る。ようやく校舎から離れた場所にあるローズガーデン近くのベンチが空いているのを見つけ、そこに腰を下ろした。
食べる気にもなれず、ただぼぉーっと時間が流れていくのを見つめた。
「美姫」
大和が、私の元へと走り寄ってきた。
「大和......」
「ごめん、一人になりたいのは分かってんだけど。どうしても気になってさ......」
一人、に……
一人になりたくないのに、でも誰かといると辛くて......距離を置きたいって思ってた。
「ううん。大和、座って」
けれどなぜか、こうして隣に座る大和の存在を疎ましく思う気持ちはなく、むしろ有り難かった。
「......あのさ、ごめんな。あんなこと突然言われて、戸惑うの普通だよな。俺達、今までずっといい友達だったのに......
悠と薫子が付き合いだして、俺......焦ったんだ。俺も美姫とあんな風に手を繋いだり、もっと二人の時間を過ごしたいって考えるようになってた」
大和が私の瞳を正面から見つめる。
大和……
「でもさ、美姫がそれを望まないなら......これまで通り、友達でいよう。俺も、今までみたいに美姫に接するから気にしないで欲しい」
どこまでも真っ直ぐで、眩しいほどに純粋な思い。
この人の優しさに......甘えたい。縋りたい。傍に、いて欲しい......
「大和、私……大和のこと、今まで友達としてしか見たことなくて......」
「わ、かってる......」
立ち上がろうとした大和の腕を取る。
大和が驚いたように、視線を向けた。
「ううん、聞いて。大和の気持ち聞いて、嬉しかったの。私、大和のこともっと知りたい。友達として、じゃなくて。
大和のこと、好きに......なりたい」
それは偽りなんかじゃなく、本当に心から思った。
大和のことを、好きになりたい。秀一さんのことが考えられなくなるくらい......
「………」
大和は暫く何も言わず、ただ私の瞳をじっと見つめるだけだった。
やっぱり......こんなの、自分勝手だよね。真剣に告白してきた相手に、これから好きになりたい、だなんて……
「......嬉しい」
大和が、小さい声で噛みしめるように呟いた。
と、「めっちゃくちゃ嬉しいっっっ!!!!!」大声で叫ぶと、ギューーーッと強い力で抱き締められた。
「や、大和ぉっ!!! く、くるしいっっ!!!」
「わ、わわっ!!! ご、ごめん......嬉しすぎて、つい」
そして、今度は恐る恐る私に触れ、拒絶されないのを確認してから優しく抱き締めた。
「俺、美姫のこと大事にするから......俺のこと、好きになって欲しい」
「うん......」
大和のこと……好きに、なりたい。
1
あなたにおすすめの小説
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる