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大和への想い ー美姫過去編ー
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いつもの学校からの帰り道。
学校の門を出てから駅まで、電車の車内、電車を降りて駅から家までの道程に何度も大和に声を掛けようとして息が詰まり、なかなか言葉に出せずにいた。
そんな私の様子に大和は何も言わず、ただ沈黙だけがふたりを包み込んでいた。
暗い気持ちを象徴するかのように、見上げると暗雲が立ち込め、今にも泣き出しそうな空が迫っていた。
家の門が目の前に迫ってきた。一歩一歩近づくにつれ、胸が苦しくなる。
こうして時間を引き伸ばしたって何も変わらない。ちゃんと、言わなくちゃ……
門の前で立ち止まり、大和に振り向く。夕方とは思えないほど暗い。天気のせいか、周りには誰も歩いている人はいなかった。
「本当に……ごめんなさい。もう、私……大和とは……付き合えない……」
大和への申し訳なさから目を合わすことが出来ず、俯いてしまう。
「……そっか。美姫に俺のこと好きになってもらって、美姫は俺が幸せにしてやりたかったんだけど……
ダメなもんは、仕方ねぇよな……」
我儘で自分勝手な私の言葉に、大和は落ち込みながらもスッキリとした口調で言った。まるで、こうなることを予測していたかのように……
「恋人は解消だけどさ、これからは友達として付き合う前みたいに気軽な関係に戻ろうぜ。な?
だから、もう『ごめん』とか変な罪悪感もたなくていいから」
大和の優しい言葉に目頭が熱くなり、鼻がツンとした。
だ、め……泣いちゃ……私には、そんな資格、ない……
けれど、私の意思に反して涙はポロポロと零れ落ちた。流れ落ちた涙は鼻筋を通ったり、頬を伝ったり、コンクリートに落ちて染み込んでいった。
「み、美姫っ!? な、泣くなっ!!」
大和が慌てたように私の肩に手を置いて抱き寄せようとしかけ、ハッとして手を離した。
「ごめん……ごめんね、大和……」
そんな大和の優しすぎる気遣いに、また涙が溢れ出す。
折しも、ポツン...ポツン...と雨粒が落ちてきた。それは、これから訪れる大雨の予兆だった。
ーー心が悲しみで濡れていく。
好きになれなくて、ごめんね。いつもしてもらうばかりで、何もしてあげられなくて、ごめんね……
たくさんたくさん助けてもらったのに、大和の笑顔に救われたのに、こんな残酷な結果になってしまってごめんなさい……
一粒ずつ聞こえていた雨音はやがて重なり、激しい律動に変わり、二人の髪や制服に急速に染み込んでいく。
「美姫、ほら...風邪ひくから、中入れよ。俺は、大丈夫だから」
大和は雨に濡れて前髪から滴る雫を制服の袖で拭い、安心させるような笑みを見せた。
雨が降っていることも忘れて佇んでいた私は、ハッとした。
「ご、ごめん大和...今、タオルと傘持ってくるから待って...」
「いい。本当に大丈夫だから」
言葉尻を待たず、強い調子で言った大和の言葉にビクッとした。
見上げた大和のダークブラウンの瞳に哀しみの色が見えた。
「っほんとに、だいじょぶ、だから......このまま、帰らせてくれ」
「わ、かった......」
喉から絞り出すような声で言った大和をもう止めることは出来ず、駅へと向かう彼の背中を黙って見送った。
家の中に入り、玄関の扉を閉めると、濡れた髪と躰をそこに押し付けた。通いで来てくれている家政婦の佐和さんはもう帰ってしまったらしく、誰もいなかった。
一人になると、今まで抑えていた嗚咽が込み上げてきた。
「っ...ぐ...うヴっっ......」
躰を支える力をなくし、玄関にへたり込んだ。両手を口で抑え、肩を震わせ、気づけば声を上げて泣いていた。
「うぐっ...うっご、め...ごめ...ッ...っく...なさ......や、ま...ック......」
なんで、大和じゃダメなんだろう……なんで……
秀一さんじゃないと……ダメ、なの……?
大和と別れたからって、何か変わるわけじゃない。
秀一さんと私はずっと叔父と姪として、この気持ちを告げられないままひた隠しにして......いつか秀一さんが結婚して、子供が出来て……それを目の前にしなければならないのに。
分かってる......
それでも……姪として、でもいい。ただ...ただ、秀一さんの傍にいたい。
私の泣き声を掻き消す豪雨が、扉の外からくぐもって聞こえた。
学校の門を出てから駅まで、電車の車内、電車を降りて駅から家までの道程に何度も大和に声を掛けようとして息が詰まり、なかなか言葉に出せずにいた。
そんな私の様子に大和は何も言わず、ただ沈黙だけがふたりを包み込んでいた。
暗い気持ちを象徴するかのように、見上げると暗雲が立ち込め、今にも泣き出しそうな空が迫っていた。
家の門が目の前に迫ってきた。一歩一歩近づくにつれ、胸が苦しくなる。
こうして時間を引き伸ばしたって何も変わらない。ちゃんと、言わなくちゃ……
門の前で立ち止まり、大和に振り向く。夕方とは思えないほど暗い。天気のせいか、周りには誰も歩いている人はいなかった。
「本当に……ごめんなさい。もう、私……大和とは……付き合えない……」
大和への申し訳なさから目を合わすことが出来ず、俯いてしまう。
「……そっか。美姫に俺のこと好きになってもらって、美姫は俺が幸せにしてやりたかったんだけど……
ダメなもんは、仕方ねぇよな……」
我儘で自分勝手な私の言葉に、大和は落ち込みながらもスッキリとした口調で言った。まるで、こうなることを予測していたかのように……
「恋人は解消だけどさ、これからは友達として付き合う前みたいに気軽な関係に戻ろうぜ。な?
だから、もう『ごめん』とか変な罪悪感もたなくていいから」
大和の優しい言葉に目頭が熱くなり、鼻がツンとした。
だ、め……泣いちゃ……私には、そんな資格、ない……
けれど、私の意思に反して涙はポロポロと零れ落ちた。流れ落ちた涙は鼻筋を通ったり、頬を伝ったり、コンクリートに落ちて染み込んでいった。
「み、美姫っ!? な、泣くなっ!!」
大和が慌てたように私の肩に手を置いて抱き寄せようとしかけ、ハッとして手を離した。
「ごめん……ごめんね、大和……」
そんな大和の優しすぎる気遣いに、また涙が溢れ出す。
折しも、ポツン...ポツン...と雨粒が落ちてきた。それは、これから訪れる大雨の予兆だった。
ーー心が悲しみで濡れていく。
好きになれなくて、ごめんね。いつもしてもらうばかりで、何もしてあげられなくて、ごめんね……
たくさんたくさん助けてもらったのに、大和の笑顔に救われたのに、こんな残酷な結果になってしまってごめんなさい……
一粒ずつ聞こえていた雨音はやがて重なり、激しい律動に変わり、二人の髪や制服に急速に染み込んでいく。
「美姫、ほら...風邪ひくから、中入れよ。俺は、大丈夫だから」
大和は雨に濡れて前髪から滴る雫を制服の袖で拭い、安心させるような笑みを見せた。
雨が降っていることも忘れて佇んでいた私は、ハッとした。
「ご、ごめん大和...今、タオルと傘持ってくるから待って...」
「いい。本当に大丈夫だから」
言葉尻を待たず、強い調子で言った大和の言葉にビクッとした。
見上げた大和のダークブラウンの瞳に哀しみの色が見えた。
「っほんとに、だいじょぶ、だから......このまま、帰らせてくれ」
「わ、かった......」
喉から絞り出すような声で言った大和をもう止めることは出来ず、駅へと向かう彼の背中を黙って見送った。
家の中に入り、玄関の扉を閉めると、濡れた髪と躰をそこに押し付けた。通いで来てくれている家政婦の佐和さんはもう帰ってしまったらしく、誰もいなかった。
一人になると、今まで抑えていた嗚咽が込み上げてきた。
「っ...ぐ...うヴっっ......」
躰を支える力をなくし、玄関にへたり込んだ。両手を口で抑え、肩を震わせ、気づけば声を上げて泣いていた。
「うぐっ...うっご、め...ごめ...ッ...っく...なさ......や、ま...ック......」
なんで、大和じゃダメなんだろう……なんで……
秀一さんじゃないと……ダメ、なの……?
大和と別れたからって、何か変わるわけじゃない。
秀一さんと私はずっと叔父と姪として、この気持ちを告げられないままひた隠しにして......いつか秀一さんが結婚して、子供が出来て……それを目の前にしなければならないのに。
分かってる......
それでも……姪として、でもいい。ただ...ただ、秀一さんの傍にいたい。
私の泣き声を掻き消す豪雨が、扉の外からくぐもって聞こえた。
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