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本心 ー秀一視点ー

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 余裕など、なかった。

 口づけでさえもパニックをおこしそうな程緊張し、震える。こんなことは生きてきた中で初めての経験だった。ファーストキスというものは、こういうものなのかと今更ながら実感した。

 美姫が私の背中に腕を回し、その労りと愛情に励まされるように愛撫を進めていく。

 慎重に、慎重に……美姫の反応を覗いながら、触れていく……

 美姫の熱を、吐息を、打ち返される震動を感じながら、高まっていく欲情に応えていった。

 彼女の高ぶりを感じるうちにだんだんと指先に唇に熱が籠り、自分の欲情も昂ぶっていくのを感じた。

『美姫……私から目を逸らさず、私のことだけを想って、私を…感じて下さい……』

 私が美姫に告げたように私も美姫から目を逸らさず、美姫だけを想い、美姫を感じる……

 そのことに集中し、愛撫を重ねていった。

 だが、打ち消した筈の不安がひたひたと少しずつ近づいてくるのを感じていた。

 このままいけば……美姫は、再び…フラッシュバックを起こしてしまうかもしれない。

 私は、美姫のように覚悟が出来ていなかったということに、その時今更ながらに気付かされた。

 もし私の愛撫によって再び美姫があのような恐怖を見せつけたら……美姫以上に傷付き、怯え、そんな自分を憎しみ、許さないだろう。

 美姫を愛している。何よりも大切で手放したくない、愛しい存在……
 だからこそ、私は……

 絶頂へと駆け上がっていこうとする十分に濡れたひくつく美姫の蜜口に、何の前触れもなく雄杭を突き刺した。

 最低……ですね。こんな……

 そんな思いとは裏腹に、私を包み込む懐かしく愛しい温みと締め付ける内壁の襞の絶望的とも言える程の快感に、無条件に欲情が急激に天まで突き抜ける勢いで上がっていく……

 突然の出来事に目を丸め、驚きを隠せない美姫に自嘲を込めて囁いた。

『ほら……愛し合う方法が見つかったでしょう?』

 分厚い仮面を被り、弱さを隠し、美姫の前で余裕のある大人のフリをする……
 そんな自分に、つくづく嫌気が差した。

 美姫はそんな私の狡さなど微塵も感じていないかのように、無邪鬼に私と繋がれたことに対して喜んでいた。

 きっと美姫は……私の優しい愛撫を彼女への気遣いだけからなのだと思っている。美姫が傷付かないよう、細心の注意を払っているのだと……
 そして、今でさえも…こんな不本意な交接を美姫は喜び、幸せそうに微笑んでいる。

 そんな彼女を見ていたら……良心の呵責が胸に広がっていく。

 もう、これ以上……嘘を重ねることなど出来ない……

 美姫がずっと言えずに心の奥底に抱えていた不安を打ち明けてくれたように私も…
 私の弱さを、狡さを、美姫に曝け出そう。
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