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初対面
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カミルと呼ばれた男の子は、今までモルテッソーニに向けていた顔をくるりとこちらに向けた。
か、可愛い……
女の子のような、という表現がピッタリくるぐらい、可愛らしい顔つきをしている。レナード程ではないけれど雪のように白い肌、パッチリとした目元、量が多くて長い睫毛はクルンとカールし、パッチリとした印象を与えていた。紅く染まる頬、控えめな鼻、血色の良いツヤツヤな唇……
そして何よりもカミルを包む女らしさのような空気が彼と呼ぶのを躊躇わせ、彼女…と呼びたくなる雰囲気を漂わせていた。薄いピンクの胸元の開いたフリルのたっぷり入ったシャツも、カミルの雰囲気とよく合っていたし、彼の男性体型を上手く隠してくれていた。これでスカートを履いて女の子だと紹介されたら、素直に受け入れたことだろう。
『ミキ、だよね?初めまして……こんな格好でごめんね?お客さんが来るからやめようって言ったんだけど……
えっと、僕はカミルだよ。シューイチがここにいた時は通いで来てたんだけど、去年ウィーン国立音楽大学を卒業してから住み始めたんだ』
男性にしては高めの少し甘ったるい感じの声でカミルが首を傾げて、はにかみながらも笑顔で挨拶した。単語ひとつひとつをはっきりと発音するカミルの英語は、aの発音以外は日本人の美姫にはとても聞き取りやすかった。チェスナッツカラーの瞳がくるくるとよく動き、まるでリスやうさぎを思わせた。
大学を卒業していると聞き、年上と分かっているにも関わらず、可愛い……と同じ女性ながらも美姫は胸がキュンとしてしまった。
カミルの自己紹介が終わるのを待って、モルテッソーニがカミルの頬に軽く口付けした後、カミルをそっと膝から下ろした。
シングルブレストの2つボタンの黒スーツに上から2つボタンを外して少し胸元を見せた白地に青のピンストライプシャツを着た彼は緩慢な動きで立ち上がると、ゆっくりとこちらへと歩いてきた。急に緊張感に包まれる。やはり『ピアノ界の巨匠』と言われるだけあって、モルテッソーニからは重厚なオーラを感じた。
『シューイチ!』
モルテッソーニは秀一の名前を呼ぶと、固い握手を交わした。どうやらオーストリアでは男性同士のハグやキスの習慣はないようで、美姫はホッとした。
正直、一日に何度も見せられたら心臓がもたない……
モルテッソーニは一通りドイツ語で秀一に話しかけた後、美姫の方へと顔を向けた。
握手を求めてきたり、ハグされたらどうしようかと心配していたが、どうやら秀一はモルテッソーニにある程度事情を話していたらしく、彼はそんな素振りすら見せず、美姫は安堵した。
秀一さんの師匠であるモルテッソーニに対して拒否反応を示すなんて、失礼なことにならなくて良かった……
モルテッソーニは秀一にとって尊敬し、敬愛する師匠なのだと思うと、初対面にも関わらず、美姫も彼に対して秀一同様の気持ちを抱いた。
「Guess gott」
美姫はオーストリアで『こんにちは』という、以前秀一に習った挨拶をした。
「……!!!◎▲□×……」
モルテッソーニがそれを聞き、興奮したようにドイツ語で美姫に何か捲し立てる。
え…私のこと、ドイツ語…話せると思ってるみたい……どう、しよう……
すると、秀一がモルテッソーニに、美姫はドイツ語が話せないのだという類のことを話してくれたらしく、モルテッソーニは大きく頷いた。
「モルテッソーニはドイツ語しか話せませんので、私が通訳に入りますね」
モルテッソーニはドイツ語で捲し立てたことを謝り、秀一の姪である美姫に会うことを楽しみにしていたと、伝えてくれた。美姫も、『ピアノ界の巨匠』であり、秀一の師匠であるモルテッソーニに会えたことがとても嬉しいです、と伝えてもらうことは出来たが、直接彼に感謝の気持ちを言えないのが歯痒い。
ほんとは、もっともっと伝えたいことも聞いてみたいこともあるのに……でも通訳をしてくれている秀一さんの負担になるのが申し訳なくて、聞けない。
ドイツ語…勉強しようかな……
美姫が真剣にドイツ語取得について考えていると、階上からドタドタと誰かが下りてくる音がけたたましく響いてきた。
えっ、まだ誰かいるのっ!?
か、可愛い……
女の子のような、という表現がピッタリくるぐらい、可愛らしい顔つきをしている。レナード程ではないけれど雪のように白い肌、パッチリとした目元、量が多くて長い睫毛はクルンとカールし、パッチリとした印象を与えていた。紅く染まる頬、控えめな鼻、血色の良いツヤツヤな唇……
そして何よりもカミルを包む女らしさのような空気が彼と呼ぶのを躊躇わせ、彼女…と呼びたくなる雰囲気を漂わせていた。薄いピンクの胸元の開いたフリルのたっぷり入ったシャツも、カミルの雰囲気とよく合っていたし、彼の男性体型を上手く隠してくれていた。これでスカートを履いて女の子だと紹介されたら、素直に受け入れたことだろう。
『ミキ、だよね?初めまして……こんな格好でごめんね?お客さんが来るからやめようって言ったんだけど……
えっと、僕はカミルだよ。シューイチがここにいた時は通いで来てたんだけど、去年ウィーン国立音楽大学を卒業してから住み始めたんだ』
男性にしては高めの少し甘ったるい感じの声でカミルが首を傾げて、はにかみながらも笑顔で挨拶した。単語ひとつひとつをはっきりと発音するカミルの英語は、aの発音以外は日本人の美姫にはとても聞き取りやすかった。チェスナッツカラーの瞳がくるくるとよく動き、まるでリスやうさぎを思わせた。
大学を卒業していると聞き、年上と分かっているにも関わらず、可愛い……と同じ女性ながらも美姫は胸がキュンとしてしまった。
カミルの自己紹介が終わるのを待って、モルテッソーニがカミルの頬に軽く口付けした後、カミルをそっと膝から下ろした。
シングルブレストの2つボタンの黒スーツに上から2つボタンを外して少し胸元を見せた白地に青のピンストライプシャツを着た彼は緩慢な動きで立ち上がると、ゆっくりとこちらへと歩いてきた。急に緊張感に包まれる。やはり『ピアノ界の巨匠』と言われるだけあって、モルテッソーニからは重厚なオーラを感じた。
『シューイチ!』
モルテッソーニは秀一の名前を呼ぶと、固い握手を交わした。どうやらオーストリアでは男性同士のハグやキスの習慣はないようで、美姫はホッとした。
正直、一日に何度も見せられたら心臓がもたない……
モルテッソーニは一通りドイツ語で秀一に話しかけた後、美姫の方へと顔を向けた。
握手を求めてきたり、ハグされたらどうしようかと心配していたが、どうやら秀一はモルテッソーニにある程度事情を話していたらしく、彼はそんな素振りすら見せず、美姫は安堵した。
秀一さんの師匠であるモルテッソーニに対して拒否反応を示すなんて、失礼なことにならなくて良かった……
モルテッソーニは秀一にとって尊敬し、敬愛する師匠なのだと思うと、初対面にも関わらず、美姫も彼に対して秀一同様の気持ちを抱いた。
「Guess gott」
美姫はオーストリアで『こんにちは』という、以前秀一に習った挨拶をした。
「……!!!◎▲□×……」
モルテッソーニがそれを聞き、興奮したようにドイツ語で美姫に何か捲し立てる。
え…私のこと、ドイツ語…話せると思ってるみたい……どう、しよう……
すると、秀一がモルテッソーニに、美姫はドイツ語が話せないのだという類のことを話してくれたらしく、モルテッソーニは大きく頷いた。
「モルテッソーニはドイツ語しか話せませんので、私が通訳に入りますね」
モルテッソーニはドイツ語で捲し立てたことを謝り、秀一の姪である美姫に会うことを楽しみにしていたと、伝えてくれた。美姫も、『ピアノ界の巨匠』であり、秀一の師匠であるモルテッソーニに会えたことがとても嬉しいです、と伝えてもらうことは出来たが、直接彼に感謝の気持ちを言えないのが歯痒い。
ほんとは、もっともっと伝えたいことも聞いてみたいこともあるのに……でも通訳をしてくれている秀一さんの負担になるのが申し訳なくて、聞けない。
ドイツ語…勉強しようかな……
美姫が真剣にドイツ語取得について考えていると、階上からドタドタと誰かが下りてくる音がけたたましく響いてきた。
えっ、まだ誰かいるのっ!?
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