上 下
303 / 1,014
足枷

しおりを挟む
『突然の訪問で驚かれたかな?
 先ほどカヨコを通じて伝えてもらったが、今日ここに来たのは他でもない...ミキに話があってな。もちろん、シューイチについてのことだ。単刀直入に言わせてもらうと...ミキ、君からシューイチがウィーンに戻るように説得して欲しいんだ』

 その言葉に、美姫はある程度予想はしていたものの、モルテッソーニから直接聞かされたことでショックを隠せなかった。

「なぜ...秀一さんにウィーンに来て欲しいのですか。秀一さんは日本でも活躍されていますし、ここには貴方の優秀な弟子たちがたくさんいるじゃないですか」

 息急き切って答えた美姫は、まるで喧嘩腰のようになってしまい、慌てて姿勢を正した。

「なぜ...そのようなことを仰るんですか......日本には...秀一さんを必要とし、愛してくれる人がたくさんいます。彼は、日本にいても十分活躍出来ます......」

 お願い、私から秀一さんを奪わないで下さい......
 お願い、お願いですから......

 美姫は必死で訴えた。

『シューイチほどのピアニストが、なぜ世界へと羽ばたくことなく、日本に留まっているのか...
 それは、ミキ。君が原因なんだ。君はもう成人を迎え、シューイチの庇護を必要としない。そろそろ彼を...彼の足枷を外してやってくれないか』

 あし、かせ......

 その言葉は重く美姫の心にのしかかった。

 足枷、だなんて......そんなつもり、ない。
 私はただ...秀一さんの傍にいたいだけ。愛する人の傍にいたいだけ......

 青ざめていく美姫の表情を窺い、モルテッソーニは申し訳なさそうに肩を竦めた。

『いや、すまない...言葉が過ぎたな。
 だが、シューイチにとってミキの存在はそれほど大きいものだということだ。昔から、ね......』

 そう言うと、モルテッソーニは秀一との過去の話を語り出した。

 それは、美姫が生まれる前に遡る......
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

けものとこいにおちまして

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:59

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:887pt お気に入り:307

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

BL / 完結 24h.ポイント:1,533pt お気に入り:2,625

【完結】理想の人に恋をするとは限らない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,182

女髪結い唄の恋物語

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

処理中です...