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舞踏会
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「あと30分ほどでカウントダウンが始まりますが、ここで新年を迎えますか。それとも、寒いですが外に出ますか。英雄広場で花火が上がり、そこからシュテファン大聖堂の新年の鐘を聞くことが出来ますよ」
ここで優雅に新年を迎えるのも魅力的だけど……
「秀一さんがよかったら、外に出てみませんか。花火を観たいので……」
美姫の答えに秀一は柔らかく目を細め、彼女の肩に手を添えた。
「では、いったんカクテルラウンジで休憩してから外に出ましょうか。踊り続けて疲れているでしょうから」
秀一の言葉に、美姫は頷いた。
踊っている時は高揚していた為に感じなかったが、確かに彼の言う通り、踊った後の心地よい疲労感が美姫を包んでいた。肩に添えられた秀一の温もりを嬉しく感じながら、美姫はカクテルラウンジへと向かった。
さ、寒いっ……
肌を露出していても平気なほど十分に暖房が効いていた室内から外へと出た途端、その温度差に驚かされる。
コートを羽織り、手袋をはめ、ブーツを履いてはいるものの、それでもまだ十分ではなかったようだ。昼間は4度あった気温が太陽が沈んでからは夜気に冷やされ、現在はマイナスとなっていた。ダンスとお酒で火照っていた躰が急速に冷えていき、冷たく吹き付ける風が顔に当たり、痛いぐらいだった。
「大丈夫ですか?やはり、中に入りますか?」
心配して尋ねる秀一に、美姫はブンブンと首を振った。
「大丈夫です。長い時間いるわけじゃないですし」
王宮から英雄広場に向かって歩いて行くと、周りから段々と人が押し寄せてきているのが見えた。初詣のような賑わいだ。
秀一は美姫を抱き寄せるようにして歩き、周りの人間にぶつからないよう気遣ってくれた。歩いている最中、まだ新年を迎えていないというのに、もう既にあちらこちらから個人で打ち上げた花火の音や爆竹の音が聞こえてきた。
どこにでも、そういう人っているんだな......
英雄広場に着いた時には、既に新年まであと1分というところだった。
「間に合ってよかったです」
特設されたステージからは先程まで聞こえていた音楽が鳴り止み、カウントダウンに備えて司会者がマイクを握り、何か話していた。
「これから、カウントダウンが始まりますよ」
秀一が、美姫の耳元で説明する。
この日の為に、美姫は事前に秀一から0から10までの数字と新年の挨拶をドイツ語で教えてもらっていた。司会者の声に合わせ、美姫も一緒にカウントダウンする。
「Zehn(10),Neun(9), Acht(8)............Drei(3), Zwei(2), Eins(1), NULL(0)!
Frohes Neues Jahr (明けましておめでとう)!!」
花火が上がる中、周囲のカップル達が新年を祝う口づけを交わしている。
そんな光景を目のまえにして動揺する美姫に、秀一が「美姫……」と呼びかけた。
見上げた美姫の頭に軽く腕を置き、皆から隠すようにして口づけする。
「明けまして、おめでとうございます」
耳元で熱い吐息と共に囁かれ、冷え切っていた筈の美姫の躰が急上昇した。
「あ、けまして……おめでとうございます」
あまりの突然の出来事に瞳を大きく見開き、口を僅かに開けて呼吸が止まった。それから、涙腺が緩んでじわじわと目尻を伝って涙が零れ落ちた。
「そんな顔をされたら止められなくなりますから、続きは後にして下さいますか」
秀一に妖艶な笑みを向けられ、美姫は慌てて涙を拭った。
空にはあちこちから花火が上がり、広場からも爆竹の音やガラスの割れる音が聞こえてきた。
「大晦日のウィーンは治安はいいとは言えませんので、舞踏会に戻るか、ホテルへ帰りましょう。舞踏会では、これからダンススクールメンバーと客を巻き込んでのカドリーユが始まりますが、どうされますか?」
オープニングイベントで観たカドリーユに加われるなんてすごく楽しそうで惹かれるけど、やっぱり秀一さんとふたりきりで新年をお祝いしたい……
「申し訳ないんですけど、もうホテルに帰ってもいいですか?」
「もちろん、いいですよ」
秀一は、口角を上げて微笑んだ。
ここで優雅に新年を迎えるのも魅力的だけど……
「秀一さんがよかったら、外に出てみませんか。花火を観たいので……」
美姫の答えに秀一は柔らかく目を細め、彼女の肩に手を添えた。
「では、いったんカクテルラウンジで休憩してから外に出ましょうか。踊り続けて疲れているでしょうから」
秀一の言葉に、美姫は頷いた。
踊っている時は高揚していた為に感じなかったが、確かに彼の言う通り、踊った後の心地よい疲労感が美姫を包んでいた。肩に添えられた秀一の温もりを嬉しく感じながら、美姫はカクテルラウンジへと向かった。
さ、寒いっ……
肌を露出していても平気なほど十分に暖房が効いていた室内から外へと出た途端、その温度差に驚かされる。
コートを羽織り、手袋をはめ、ブーツを履いてはいるものの、それでもまだ十分ではなかったようだ。昼間は4度あった気温が太陽が沈んでからは夜気に冷やされ、現在はマイナスとなっていた。ダンスとお酒で火照っていた躰が急速に冷えていき、冷たく吹き付ける風が顔に当たり、痛いぐらいだった。
「大丈夫ですか?やはり、中に入りますか?」
心配して尋ねる秀一に、美姫はブンブンと首を振った。
「大丈夫です。長い時間いるわけじゃないですし」
王宮から英雄広場に向かって歩いて行くと、周りから段々と人が押し寄せてきているのが見えた。初詣のような賑わいだ。
秀一は美姫を抱き寄せるようにして歩き、周りの人間にぶつからないよう気遣ってくれた。歩いている最中、まだ新年を迎えていないというのに、もう既にあちらこちらから個人で打ち上げた花火の音や爆竹の音が聞こえてきた。
どこにでも、そういう人っているんだな......
英雄広場に着いた時には、既に新年まであと1分というところだった。
「間に合ってよかったです」
特設されたステージからは先程まで聞こえていた音楽が鳴り止み、カウントダウンに備えて司会者がマイクを握り、何か話していた。
「これから、カウントダウンが始まりますよ」
秀一が、美姫の耳元で説明する。
この日の為に、美姫は事前に秀一から0から10までの数字と新年の挨拶をドイツ語で教えてもらっていた。司会者の声に合わせ、美姫も一緒にカウントダウンする。
「Zehn(10),Neun(9), Acht(8)............Drei(3), Zwei(2), Eins(1), NULL(0)!
Frohes Neues Jahr (明けましておめでとう)!!」
花火が上がる中、周囲のカップル達が新年を祝う口づけを交わしている。
そんな光景を目のまえにして動揺する美姫に、秀一が「美姫……」と呼びかけた。
見上げた美姫の頭に軽く腕を置き、皆から隠すようにして口づけする。
「明けまして、おめでとうございます」
耳元で熱い吐息と共に囁かれ、冷え切っていた筈の美姫の躰が急上昇した。
「あ、けまして……おめでとうございます」
あまりの突然の出来事に瞳を大きく見開き、口を僅かに開けて呼吸が止まった。それから、涙腺が緩んでじわじわと目尻を伝って涙が零れ落ちた。
「そんな顔をされたら止められなくなりますから、続きは後にして下さいますか」
秀一に妖艶な笑みを向けられ、美姫は慌てて涙を拭った。
空にはあちこちから花火が上がり、広場からも爆竹の音やガラスの割れる音が聞こえてきた。
「大晦日のウィーンは治安はいいとは言えませんので、舞踏会に戻るか、ホテルへ帰りましょう。舞踏会では、これからダンススクールメンバーと客を巻き込んでのカドリーユが始まりますが、どうされますか?」
オープニングイベントで観たカドリーユに加われるなんてすごく楽しそうで惹かれるけど、やっぱり秀一さんとふたりきりで新年をお祝いしたい……
「申し訳ないんですけど、もうホテルに帰ってもいいですか?」
「もちろん、いいですよ」
秀一は、口角を上げて微笑んだ。
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