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破門宣告
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ホールを出ると、秀一とモルテッソーニをロビーで見送った。
「すぐに戻りますので......」
「大丈夫ですよ」
美姫は不安を押し隠し、笑顔を見せた。
モルテッソーニはカミルを抱き寄せ、口づけた。美姫はそれを横目で見てしまい、男性同士の口づけという行為を見慣れていないため戸惑いを覚える一方、公衆の面前で恋人として堂々としていられる二人を羨ましく思うのだった。
秀一は一度後ろを振り返り、美姫を見つめて手を挙げ、それからモルテッソーニと共に楽屋へと向かう。
「じゃ、ベンチに座って待ってようか」
カミルが美姫に声を掛け、頷く。
すると、一緒にいたザックが声をあげた。
「え、二人ともここで待ってるの?じゃ、僕も一緒に待ってるよ。大勢の方が楽しいでしょ?」
え......
てっきり、コンサートが終われば皆帰るのだと思っていた美姫は一瞬固まった。
すると、ミシェルもにこりと微笑んだ。
『そうねぇ、あたしもここで待とうかしら。だって、シューイチ、明日には日本に発っちゃうんでしょ。もっと一緒にいたいし』
それを聞いて、帰りかけていたレナードの足が止まる。
『シューイチと話すのは僕だ!シューイチにここに残るように説得しないといけないし!』
え...じゃあ、このメンバーで秀一さんが戻ってくるまで過ごさなくちゃいけないの!?
美姫は泣きたい気分だった。
ベンチに座ったまま俯いていると、上から冷たい視線が突き刺さるのを嫌でも感じる。
......レナードだ。
『ねぇ、あんたさぁ。シューイチに言ってよ、ウィーンに残るように』
もう、誰も彼も、みんなその話ばっかり......
美姫は心の中でうんざりしながら、レナードを見上げた。その先には、美姫が予想していたあの威圧的な視線ではなく、寂しく、縋るような眼差しがあった。
美姫はアクアマリンの奥に潜む孤独を映したその暗い陰りに息を呑んだ。
『僕......シューイチがいなきゃ、ダメなんだ。シューイチがいなきゃ、ここにいる意味なんてない。
シューイチがいたから、ウィーンに来ようと思った。シューイチのお陰で、ピアノが心から楽しいと思えるようになったんだ。
ねぇあんた、シューイチの姪なんでしょ。なんとかしてよ。
シューイチを、シューイチを......ここに、戻してよ......』
レナードは悲痛な程に眉を寄せ、必死に涙を堪えて美姫に訴えた。その瞳の奥に潜む秀一への強い想いに、美姫は激しく動揺しつつも、努めて冷静さを保った。
『そ、んなこと...私に、言われても......。秀一さんは、自分の意思で日本にいると決めたんです』
『嘘だ!!!
ここにいる時のシューイチは、輝いていた。そしてまた、ここに戻ってきて、みんなと演奏ができて、本当に嬉しそうだった。
シューイチはここにいるべき人間なんだ!僕、だけじゃない...みんな、シューイチが必要なんだ!』
美姫は唇をきつく引き結び、すぐにでも反論したい気持ちを抑えた。
そ、んな訳ない......
だって、秀一さんは言ってくれた。私といる時間が何より大切だって。
ピアニストである前に、私の恋人なんだって......
こんな時、ザックならフォローしてくれるはず...そんな願いを託して、美姫は助けを乞うように彼を見つめた。
だが、ザックの口から出たのは美姫の思いとは裏腹の言葉だった。
『まぁ、確かにね。シューイチが帰国してからさぁ、なんか気が抜けちゃった感じはあったよね。またシューイチが戻ってきて、一緒にピアノ弾いてるとワクワクしてさぁ、なんかもっともっとって高みに行きたい気持ちが昂るし。
なんとかこっちに戻ってきてくんないかなぁ』
『そうねぇ。でも、シューイチの気持ちっていうよりは、誰かに翻弄されてる感じがしないではないけどぉ』
ミシェルは意味深に笑みを浮かべた。
美姫の耳元に唇を近づけ、皆に聞こえない程の小声で囁いた。
『ねぇ、知ってる?シューイチがここにいる間に一時帰国した後、普段取り乱すことのない彼が、かなり落ち込んでたの。それって、何が原因だったのかしらねぇ』
美姫は、それは秀一が起こした梨華とのスキャンダルが原因だとすぐに悟った。
モルテッソーニも秀一さんが一時帰国してから一時期様子がおかしかったって言ってたっけ......
そういえば、私......秀一さんのコンサートの後、すごく落ち込んでて......スマホの電源消して、三日間家に閉じこもってたんだ。そして、気づいた時にはもう秀一さんはウィーンに戻ってしまっていたんだよね。
もしかしたら、秀一さんはその間に私に連絡してくれていたのかな。あの時、もし電話ででも話せていたら、私はあのスキャンダルのことをもっと冷静に受け止められていたのかもしれない......
私に連絡が取れないまま帰国し、それから発覚したスキャンダル。私はもちろん傷ついたけれど、その時秀一さんも私のことを思って落ち込み、不安になっていただなんて知らなかった......
それなのに、私は......そんな秀一さんんの気持ちに気付かず、彼を裏切る行為をしてしまったんだ......
それまで黙って皆の話を聞いていたカミルが口を開いた。
『みんな知らないみたいだから、言うかどうか迷ったんだけど......シューイチはまた戻ってくるよ。
ザルツブルグ音楽祭に呼ばれてるってモルテッソーニが話してたから』
え......
美姫の瞳孔が見開いた。
そ、んな...聞いて、ない......
「すぐに戻りますので......」
「大丈夫ですよ」
美姫は不安を押し隠し、笑顔を見せた。
モルテッソーニはカミルを抱き寄せ、口づけた。美姫はそれを横目で見てしまい、男性同士の口づけという行為を見慣れていないため戸惑いを覚える一方、公衆の面前で恋人として堂々としていられる二人を羨ましく思うのだった。
秀一は一度後ろを振り返り、美姫を見つめて手を挙げ、それからモルテッソーニと共に楽屋へと向かう。
「じゃ、ベンチに座って待ってようか」
カミルが美姫に声を掛け、頷く。
すると、一緒にいたザックが声をあげた。
「え、二人ともここで待ってるの?じゃ、僕も一緒に待ってるよ。大勢の方が楽しいでしょ?」
え......
てっきり、コンサートが終われば皆帰るのだと思っていた美姫は一瞬固まった。
すると、ミシェルもにこりと微笑んだ。
『そうねぇ、あたしもここで待とうかしら。だって、シューイチ、明日には日本に発っちゃうんでしょ。もっと一緒にいたいし』
それを聞いて、帰りかけていたレナードの足が止まる。
『シューイチと話すのは僕だ!シューイチにここに残るように説得しないといけないし!』
え...じゃあ、このメンバーで秀一さんが戻ってくるまで過ごさなくちゃいけないの!?
美姫は泣きたい気分だった。
ベンチに座ったまま俯いていると、上から冷たい視線が突き刺さるのを嫌でも感じる。
......レナードだ。
『ねぇ、あんたさぁ。シューイチに言ってよ、ウィーンに残るように』
もう、誰も彼も、みんなその話ばっかり......
美姫は心の中でうんざりしながら、レナードを見上げた。その先には、美姫が予想していたあの威圧的な視線ではなく、寂しく、縋るような眼差しがあった。
美姫はアクアマリンの奥に潜む孤独を映したその暗い陰りに息を呑んだ。
『僕......シューイチがいなきゃ、ダメなんだ。シューイチがいなきゃ、ここにいる意味なんてない。
シューイチがいたから、ウィーンに来ようと思った。シューイチのお陰で、ピアノが心から楽しいと思えるようになったんだ。
ねぇあんた、シューイチの姪なんでしょ。なんとかしてよ。
シューイチを、シューイチを......ここに、戻してよ......』
レナードは悲痛な程に眉を寄せ、必死に涙を堪えて美姫に訴えた。その瞳の奥に潜む秀一への強い想いに、美姫は激しく動揺しつつも、努めて冷静さを保った。
『そ、んなこと...私に、言われても......。秀一さんは、自分の意思で日本にいると決めたんです』
『嘘だ!!!
ここにいる時のシューイチは、輝いていた。そしてまた、ここに戻ってきて、みんなと演奏ができて、本当に嬉しそうだった。
シューイチはここにいるべき人間なんだ!僕、だけじゃない...みんな、シューイチが必要なんだ!』
美姫は唇をきつく引き結び、すぐにでも反論したい気持ちを抑えた。
そ、んな訳ない......
だって、秀一さんは言ってくれた。私といる時間が何より大切だって。
ピアニストである前に、私の恋人なんだって......
こんな時、ザックならフォローしてくれるはず...そんな願いを託して、美姫は助けを乞うように彼を見つめた。
だが、ザックの口から出たのは美姫の思いとは裏腹の言葉だった。
『まぁ、確かにね。シューイチが帰国してからさぁ、なんか気が抜けちゃった感じはあったよね。またシューイチが戻ってきて、一緒にピアノ弾いてるとワクワクしてさぁ、なんかもっともっとって高みに行きたい気持ちが昂るし。
なんとかこっちに戻ってきてくんないかなぁ』
『そうねぇ。でも、シューイチの気持ちっていうよりは、誰かに翻弄されてる感じがしないではないけどぉ』
ミシェルは意味深に笑みを浮かべた。
美姫の耳元に唇を近づけ、皆に聞こえない程の小声で囁いた。
『ねぇ、知ってる?シューイチがここにいる間に一時帰国した後、普段取り乱すことのない彼が、かなり落ち込んでたの。それって、何が原因だったのかしらねぇ』
美姫は、それは秀一が起こした梨華とのスキャンダルが原因だとすぐに悟った。
モルテッソーニも秀一さんが一時帰国してから一時期様子がおかしかったって言ってたっけ......
そういえば、私......秀一さんのコンサートの後、すごく落ち込んでて......スマホの電源消して、三日間家に閉じこもってたんだ。そして、気づいた時にはもう秀一さんはウィーンに戻ってしまっていたんだよね。
もしかしたら、秀一さんはその間に私に連絡してくれていたのかな。あの時、もし電話ででも話せていたら、私はあのスキャンダルのことをもっと冷静に受け止められていたのかもしれない......
私に連絡が取れないまま帰国し、それから発覚したスキャンダル。私はもちろん傷ついたけれど、その時秀一さんも私のことを思って落ち込み、不安になっていただなんて知らなかった......
それなのに、私は......そんな秀一さんんの気持ちに気付かず、彼を裏切る行為をしてしまったんだ......
それまで黙って皆の話を聞いていたカミルが口を開いた。
『みんな知らないみたいだから、言うかどうか迷ったんだけど......シューイチはまた戻ってくるよ。
ザルツブルグ音楽祭に呼ばれてるってモルテッソーニが話してたから』
え......
美姫の瞳孔が見開いた。
そ、んな...聞いて、ない......
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