340 / 1,014
破門宣告
5
しおりを挟む
いつの間にかコンサートはアンコールへと入っていた。
アンコールの2曲目に「美しく青きドナウ」の冒頭が演奏され、拍手が起こった。美姫もそれに習って拍手をすると、演奏が中断された。
あれ?どうしたの?
すると、秀一が美姫にこっそりと耳打ちした。
「これは毎年の慣例となっていて、指揮者がこの後新年の挨拶をすることになっているのですよ」
すると、秀一の言う通り、指揮者が観客に向かって話し始めた。
ドイツ語で話していたかと思うと、突然『アケマシテオメデトウゴザイマス』と、片言の日本語で話し出したので驚いた。
「彼の奥さんは日本人なんですよ。指揮者はほとんど毎年変わるのですが、毎回どの指揮者も趣向を凝らした挨拶を考えていて、それがこのコンサートのエンターテインの一つともなっているのです」
皆は指揮者が言ったらしい冗談にドッと笑っていた。美姫は、またここでも疎外感を感じずにはいられなかった。
指揮者の挨拶が終わり、改めて「美しく青きドナウ」が演奏される。美姫の脳裏には、舞踏会のデビュタントとして踊った場面が蘇っていた。
二人だけの時間が流れていた、あの時。すごく、幸せだった......
美姫が秀一と二人きりの時間。それは、何にも代えがたい至福の時間だ。
美姫は秀一を心から愛し、秀一の愛情も痛いほど感じる。
肌を重ね合わせている時は、まるで一つになったかのように感じる。とても、近くに感じることができる。
けれど、世の中に身を置いてしまうと、途端に秀一が遠い存在になってしまうのを感じた。
ピアノが、秀一を美姫から奪ってしまうような、そんな気さえしてくる。
ピアノなんて、なければいいのに......そんな不合理な気持ちさえ、湧いてくる。
秀一のピアニストとしての成功を心から喜び、応援したいのに、それが出来ない。美姫はそんな自分に嫌悪感を抱きつつも、薄暗い感情が支配するのを止められずにいた。
コンサートが終わり、モルテッソーニが秀一に話しかけた。それに頷く秀一の後ろ姿に、美姫の不安が広がっていく。
「申し訳ないのですが、これからモルテッソーニと共に、楽屋に挨拶に行くことになりました。どうしますか?タクシーで先にホテルに戻りますか」
美姫は首を振った。凛子が急遽帰国した際、いつ戻るか分からない秀一を待っていた時の不安をまた味わいたくない。
「終わるまで、待っています」
すると、モルテッソーニ越しにカミルが美姫に話しかけてきた。
『僕も終わるまでここにいるから、一緒に待っていようよ』
それを聞き、美姫は安堵して笑顔で頷いた。
カミルに対しては、男性であっても性的なものを一切感じることがなく、美姫は彼の側であれば女性と同じように安心していられた。
アンコールの2曲目に「美しく青きドナウ」の冒頭が演奏され、拍手が起こった。美姫もそれに習って拍手をすると、演奏が中断された。
あれ?どうしたの?
すると、秀一が美姫にこっそりと耳打ちした。
「これは毎年の慣例となっていて、指揮者がこの後新年の挨拶をすることになっているのですよ」
すると、秀一の言う通り、指揮者が観客に向かって話し始めた。
ドイツ語で話していたかと思うと、突然『アケマシテオメデトウゴザイマス』と、片言の日本語で話し出したので驚いた。
「彼の奥さんは日本人なんですよ。指揮者はほとんど毎年変わるのですが、毎回どの指揮者も趣向を凝らした挨拶を考えていて、それがこのコンサートのエンターテインの一つともなっているのです」
皆は指揮者が言ったらしい冗談にドッと笑っていた。美姫は、またここでも疎外感を感じずにはいられなかった。
指揮者の挨拶が終わり、改めて「美しく青きドナウ」が演奏される。美姫の脳裏には、舞踏会のデビュタントとして踊った場面が蘇っていた。
二人だけの時間が流れていた、あの時。すごく、幸せだった......
美姫が秀一と二人きりの時間。それは、何にも代えがたい至福の時間だ。
美姫は秀一を心から愛し、秀一の愛情も痛いほど感じる。
肌を重ね合わせている時は、まるで一つになったかのように感じる。とても、近くに感じることができる。
けれど、世の中に身を置いてしまうと、途端に秀一が遠い存在になってしまうのを感じた。
ピアノが、秀一を美姫から奪ってしまうような、そんな気さえしてくる。
ピアノなんて、なければいいのに......そんな不合理な気持ちさえ、湧いてくる。
秀一のピアニストとしての成功を心から喜び、応援したいのに、それが出来ない。美姫はそんな自分に嫌悪感を抱きつつも、薄暗い感情が支配するのを止められずにいた。
コンサートが終わり、モルテッソーニが秀一に話しかけた。それに頷く秀一の後ろ姿に、美姫の不安が広がっていく。
「申し訳ないのですが、これからモルテッソーニと共に、楽屋に挨拶に行くことになりました。どうしますか?タクシーで先にホテルに戻りますか」
美姫は首を振った。凛子が急遽帰国した際、いつ戻るか分からない秀一を待っていた時の不安をまた味わいたくない。
「終わるまで、待っています」
すると、モルテッソーニ越しにカミルが美姫に話しかけてきた。
『僕も終わるまでここにいるから、一緒に待っていようよ』
それを聞き、美姫は安堵して笑顔で頷いた。
カミルに対しては、男性であっても性的なものを一切感じることがなく、美姫は彼の側であれば女性と同じように安心していられた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる