543 / 1,014
晴天の霹靂(へきれき) ー大和回想ー
7
しおりを挟む
高校生の時の苦い思い出が蘇る。来栖秀一を忘れようとして俺と付き合い、結局自分も傷ついてしまった美姫を。
俺はもう、あんな思いをさせたくない。
美姫は苦しそうに眉を寄せ、視線を逸らした。
「大和......ごめんなさい。
私は、今でも秀一さんを愛してる。この想いを消すことは......きっと、一生出来ないと思う」
その言葉に胸を引き裂かれるような痛みを覚えつつも、それが真実だと諦める気持ちもあった。
美姫が俺と結婚したいのは、あくまでも来栖財閥を救うためなのだと。
それでも、いいんだ。どんなことであろうと、美姫の傍にいて、彼女を支えてあげることが出来るなら。
来栖財閥を再建することが、今の美姫にとっての幸せだというのなら、俺はそれを叶えさせてあげたい。
俺が口を開く前に、美姫が顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめた。
「でも......信じてもらえないかもしれないけど、その一方で私は......大和を好きでも、あるの。
それは、友達としての好き、以上の気持ち。ずっと私を優しく見守ってくれた。私が助けが必要な時には、いつだって傍にいてくれた。そんな大和が、いつの間にか私の中でかけがえのない存在。決して失いたくない存在になってた。
秀一さんに感じるような激しく求めあうような激情とは違うけれど......私が大和に対して感じるこの気持ちも、また......愛、なんだと思う。
大和といると、私はいつも太陽に照らされているような気持ちになる。眩しくて、力強くて、温かくて......それは時として、暗闇にいる私には眩しすぎて目を開けられないこともあった。
けれど、結局私はいつも大和の存在に救われていたの。力強く、光の当たる場所へと引っ張りあげてもらっていた。
今更、こんなこと言うなんて卑怯で狡いって思ってる......大和の私への気持ちを知りながら、こんなこと言うなんて。
でも、私の今の気持ちを聞いて欲しいの。
高校生の時......酷く、大和を傷つけてしまった。私はあの時、全てから逃げようとしてた。
今度は、大和の思いと真っ直ぐに向き合いたいの。もう、逃げたりしない。
傍に、いて欲しいの......大和に。ずっと、隣で私を明るく照らしていて欲しい......」
美姫が......俺を、好き?
あまりのことに、思考が停止しそうになる。
俺は、美姫が俺に対して友達以上の気持ち。いや、あんなことがあってからは、友達としての気持ちさえ、もってもらえていると思っていなかった。
来栖秀一に敵うはずないなんて、もうとっくに分かってる。
けど、美姫は俺のこともかけがえのない存在だと、失いたくない存在なのだと言ってくれた。ずっと傍にいて欲しいと、言ってくれた。
---それだけで、俺は十分だ。
「お前が来栖秀一を好きなことなんて、ガキの頃から分かってた。そんなお前を、俺はずっと見ていた。それも含めて、お前のことが好きだったんだ。
だから、全部まるごと受け止めてやる。
あいつを忘れられないお前も。あいつを未だに......愛しているお前も。
すべてひっくるめて、俺がまとめて愛してやるから。俺が、支えてやるから。
俺の、傍にいろ。離れんな......」
来栖秀一とのスキャンダルで騒がれ、美姫があいつと失踪している間、心配で、苦しくて仕方なかった。もし、美姫を失ったらと思うと、恐くてたまらなかった。二度と会えなかったらと思うと、絶望の底に叩き落とされるようだった。
何も出来ない自分が、歯痒かった......
これからは、傍にいてやれる。
美姫を、俺が支えていくんだ。
「ごめ...ごめっね、大和。
いつも、私......大和の優しさに、甘えて......」
美姫は大きく肩を震わせ、俯いた。長く美しい黒髪の影からポタリ、ポタリと彼女のワンピースに雫が落ち、濃い染みを広げていく。
その華奢な躰を抱き締めてやりたい。愛しい瞳から溢れるその涙を、掬ってやりたい......
俺の手が膝から離れ、腰が浮き上がる。そんな衝動を抑え、美姫の肩をポンと軽く叩いた。
「いいんだ。甘えろよ......
お前は十分に苦しんだ。俺に少しは分けて、楽になれ」
美姫が小さく頷くと、再びワンピースに雫がポタリと落ちた。
そうだ。俺は、今まで美姫がひとりで背負ってきた悲しみを、少しでも軽くしてやりたい。
ふたりで、困難を乗り越えていくんだ。
「ただ......ひとつだけ、条件がある」
俺はもう、あんな思いをさせたくない。
美姫は苦しそうに眉を寄せ、視線を逸らした。
「大和......ごめんなさい。
私は、今でも秀一さんを愛してる。この想いを消すことは......きっと、一生出来ないと思う」
その言葉に胸を引き裂かれるような痛みを覚えつつも、それが真実だと諦める気持ちもあった。
美姫が俺と結婚したいのは、あくまでも来栖財閥を救うためなのだと。
それでも、いいんだ。どんなことであろうと、美姫の傍にいて、彼女を支えてあげることが出来るなら。
来栖財閥を再建することが、今の美姫にとっての幸せだというのなら、俺はそれを叶えさせてあげたい。
俺が口を開く前に、美姫が顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめた。
「でも......信じてもらえないかもしれないけど、その一方で私は......大和を好きでも、あるの。
それは、友達としての好き、以上の気持ち。ずっと私を優しく見守ってくれた。私が助けが必要な時には、いつだって傍にいてくれた。そんな大和が、いつの間にか私の中でかけがえのない存在。決して失いたくない存在になってた。
秀一さんに感じるような激しく求めあうような激情とは違うけれど......私が大和に対して感じるこの気持ちも、また......愛、なんだと思う。
大和といると、私はいつも太陽に照らされているような気持ちになる。眩しくて、力強くて、温かくて......それは時として、暗闇にいる私には眩しすぎて目を開けられないこともあった。
けれど、結局私はいつも大和の存在に救われていたの。力強く、光の当たる場所へと引っ張りあげてもらっていた。
今更、こんなこと言うなんて卑怯で狡いって思ってる......大和の私への気持ちを知りながら、こんなこと言うなんて。
でも、私の今の気持ちを聞いて欲しいの。
高校生の時......酷く、大和を傷つけてしまった。私はあの時、全てから逃げようとしてた。
今度は、大和の思いと真っ直ぐに向き合いたいの。もう、逃げたりしない。
傍に、いて欲しいの......大和に。ずっと、隣で私を明るく照らしていて欲しい......」
美姫が......俺を、好き?
あまりのことに、思考が停止しそうになる。
俺は、美姫が俺に対して友達以上の気持ち。いや、あんなことがあってからは、友達としての気持ちさえ、もってもらえていると思っていなかった。
来栖秀一に敵うはずないなんて、もうとっくに分かってる。
けど、美姫は俺のこともかけがえのない存在だと、失いたくない存在なのだと言ってくれた。ずっと傍にいて欲しいと、言ってくれた。
---それだけで、俺は十分だ。
「お前が来栖秀一を好きなことなんて、ガキの頃から分かってた。そんなお前を、俺はずっと見ていた。それも含めて、お前のことが好きだったんだ。
だから、全部まるごと受け止めてやる。
あいつを忘れられないお前も。あいつを未だに......愛しているお前も。
すべてひっくるめて、俺がまとめて愛してやるから。俺が、支えてやるから。
俺の、傍にいろ。離れんな......」
来栖秀一とのスキャンダルで騒がれ、美姫があいつと失踪している間、心配で、苦しくて仕方なかった。もし、美姫を失ったらと思うと、恐くてたまらなかった。二度と会えなかったらと思うと、絶望の底に叩き落とされるようだった。
何も出来ない自分が、歯痒かった......
これからは、傍にいてやれる。
美姫を、俺が支えていくんだ。
「ごめ...ごめっね、大和。
いつも、私......大和の優しさに、甘えて......」
美姫は大きく肩を震わせ、俯いた。長く美しい黒髪の影からポタリ、ポタリと彼女のワンピースに雫が落ち、濃い染みを広げていく。
その華奢な躰を抱き締めてやりたい。愛しい瞳から溢れるその涙を、掬ってやりたい......
俺の手が膝から離れ、腰が浮き上がる。そんな衝動を抑え、美姫の肩をポンと軽く叩いた。
「いいんだ。甘えろよ......
お前は十分に苦しんだ。俺に少しは分けて、楽になれ」
美姫が小さく頷くと、再びワンピースに雫がポタリと落ちた。
そうだ。俺は、今まで美姫がひとりで背負ってきた悲しみを、少しでも軽くしてやりたい。
ふたりで、困難を乗り越えていくんだ。
「ただ......ひとつだけ、条件がある」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
329
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる