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河清(かせい)となりても

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 橋を渡りきり、森林を目指して直進すると、やがて明治神宮の「一の鳥居」が見えてきた。美姫が鳥居を見上げながら、隣にいる大和に声を掛けた。

「高校生の時、ここに来たことあったよね」
「あん時、いきなり美姫が『おみくじ引きたい』って言い出して、神社行くことになったんだよな」
「え?そうだったっけ?
 あぁ、そうそう!そしたら、明治神宮のおみくじは吉凶がなくて御歌が載ってただけでがっかりしたの、覚えてる」

 その時のことを思い出して残念そうな表情を浮かべる美姫に、大和は楽しそうに笑みを浮かべた。

 二人で鳥居をくぐり、境内へと入る。東京ドーム15個分という大きな社には全国から献木されたおよそ10万本、365種の人工林が植えられ緑に溢れており、とても都心にいるとは思えない。

 今日、スニーカーにして良かった。もしヒール履いてたら、絶対痛くなってたよね。
 
 玉砂利が敷かれた参道をザクザクと踏みならしていると、自然と耳がその音に引き寄せられる。深呼吸すると、神聖な気持ちが満ちてくるのを感じた。

 しばらく歩いていると、二の鳥居が立ちはだかっているのが見えた。明治神宮で一番大きいだけでなく、木製としては日本一大きい鳥居になる。

 そっと鳥居に触れると、滑らかな手触りがした。鼻を近づけると、僅かに檜の匂いがする。

「何してんだ、美姫」

 後ろから覗き込む大和に、美姫は鳥居に近寄るように手招きした。

「檜の香り、するよ」
「あ、ほんとだ......」

 大和も美姫と同じように鼻を寄せ、くんくんと匂いを嗅いだ。

 そんな風に自然体でいられる大和に微笑みつつ、

 きっと秀一さんとなら、こんなデートにはならないんだろうな......
 
 そんな思いが一瞬過った後、「行こっか」と美姫は大和を先へと促した。

 大鳥居から真っ直ぐに延びる大参道から右折する道を経て、本堂に向かう。本殿に入る前に鳥居で一礼し、側に設置された手水舍で立ち止まり、柄杓で水を汲んでお清めをする。

 神前にて、2礼2拍手1礼。

 美姫は、大和と夫婦関係が上手くいくようにということと、来栖財閥がこれから発展していくよう、祈った。最後に本殿を出る前に鳥居で一礼し、参拝が終了した。

「なぁ、おみくじ引いていくか」

 大和の呼び掛けに、美姫は思わず笑みを浮かべた。

『かりそめの ことはおもはで くらすこそ
 世にながらへむ 薬なるらめ』
(小さなことは気にせず、1日1日を精一杯生きることが、健康と長生きの最良の薬である)

「今こうして手に取ってみると、おみくじを御歌にするのって素敵だね」

 引き終えたおみくじを美姫が眺めていると、大和が腕時計に視線を落とした。

「そろそろ時間だな」

 それを合図に、本殿横の神楽殿へと向かう。そこで、スーツを着た女性が大和と美姫を待っていた。

『本日は、よろしくお願いします』

 今日大和と美姫がここへ来たのは、デートでも観光でもなく、結婚式場の下見の為だった。
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