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奪われた幸せ ー久美sideー
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電話を切った後、私はとんでもない相手を敵に回してしまったと恐ろしさで全身の震えが止まらなかった。
もしかしたら、これから来栖秀一が私の居場所を嗅ぎつけ、報復に訪れるかもしれない......そしたら、お姉ちゃんにまで迷惑がかかってしまう。
そう思った私は、着の身着のままで家を飛び出し、電車に飛び乗った。聞いたこともない駅で降り、その町のビジネスホテルに泊まる。
それでも不安は、消えることがなかった。
礼音は大丈夫だろうかと心配になり、ホテルのロビーの公衆電話から電話をかけたものの、礼音が出るはずもない。
ちゃんと、ご飯食べてるかな......また、壁の隅でじっと座り込んでるのかな。
はぁ......と溜息を吐き、受話器を置いた。
これから私は、どうすればいいんだろう。
家に帰ることは、出来ない。だからといって、ここにいても一瞬だって安心出来ない。
ここにずっとはいられない。
今にもあのドアを蹴破って、来栖秀一が入ってくるんじゃないかと怖くて仕方ない。
私は、礼音のように甚振られるのだろうか......
どんな責め苦にあわされるのだろう。
怖い。怖い......
布団を頭から被り、恐怖で震えながら一睡もせずに夜を明かした。
こんな生活が永遠に続いたらどうしよう......
そんな不安を抱えながら、朝食を摂る為にホテルの1階にあるレストランへと向かった。食欲なんてないけど、ここのホテルは朝食がサービスでついているので、お金を節約する為に今食べておかなければいけない。
ロビーの横の壁にはTVが掛けられている。何気なく見上げた私は、TVから流れるニュースに目が釘付けになった。
TVでは、今朝発売された来栖秀一と姪の来栖財閥令嬢が禁断の関係にあることを暴露した週刊誌のことが話題になっていた。これは、予想していたし、当然のことだ。
私が驚いたのは、その後だ。
来栖秀一が全ての仕事をキャンセルし、姪と共に行方不明になったと伝えている。二人は肯定することも、否定することも、弁明することもなく、忽然と世間から身を隠したのだ。その行方をマスコミが必死に追っているものの、依然として分かっていないらしい。
まるで殺人事件の凶悪犯を追うかのように、マスコミは手がかりを細かく追っていた。
助かった......
これで、来栖秀一から追われる心配をすることもない。
そう思った私は、安堵の息を吐いた。
ビジネスホテルをチェックアウトした後、私が向かったのはお姉ちゃんの家ではなく、礼音のアパートだった。
鍵を開け、そっと家の中に入ると、思っていた通り礼音は部屋の隅っこで縮こまって寝ていた。お皿は空になっていたので、それを確認しホッとする。
「礼音、帰ったよ」
起こさないよう小さく声を掛け、隣に座る。
礼音は一瞬ビクッとして顔を上げ、声を掛けた主が私だと分かると安心して再び眠りについた。まるで、猫みたいだ。美しかったプラチナアッシュの名残が僅かに残っている毛先を指に絡ませながら、礼音の寝顔を見つめる。
美姫に暴露写真を送りつける前に大学を退学し、麻子や匠、勝とも連絡を絶ってしまった私に残されているのは、礼音しかいない。
礼音さえ、いればいい。
彼だけが、私の世界。
私の、唯一であり、絶対の存在。
来栖秀一が失踪したとはいえ、油断は出来ない。
私は警戒心を解くことなく、慎重にお姉ちゃんの家と礼音の家を往復する生活を続けた。けれど、以前にみたあの不審な黒い車も全く見ることがなくなったし、私のことをつけ回しているような気配もない。
私が抱いていた危機感は、たんなる思い過ごしだったのかもしれない。
そう安心した矢先、それはとんでもないことだったと思い知らされる事件が起きた。
もしかしたら、これから来栖秀一が私の居場所を嗅ぎつけ、報復に訪れるかもしれない......そしたら、お姉ちゃんにまで迷惑がかかってしまう。
そう思った私は、着の身着のままで家を飛び出し、電車に飛び乗った。聞いたこともない駅で降り、その町のビジネスホテルに泊まる。
それでも不安は、消えることがなかった。
礼音は大丈夫だろうかと心配になり、ホテルのロビーの公衆電話から電話をかけたものの、礼音が出るはずもない。
ちゃんと、ご飯食べてるかな......また、壁の隅でじっと座り込んでるのかな。
はぁ......と溜息を吐き、受話器を置いた。
これから私は、どうすればいいんだろう。
家に帰ることは、出来ない。だからといって、ここにいても一瞬だって安心出来ない。
ここにずっとはいられない。
今にもあのドアを蹴破って、来栖秀一が入ってくるんじゃないかと怖くて仕方ない。
私は、礼音のように甚振られるのだろうか......
どんな責め苦にあわされるのだろう。
怖い。怖い......
布団を頭から被り、恐怖で震えながら一睡もせずに夜を明かした。
こんな生活が永遠に続いたらどうしよう......
そんな不安を抱えながら、朝食を摂る為にホテルの1階にあるレストランへと向かった。食欲なんてないけど、ここのホテルは朝食がサービスでついているので、お金を節約する為に今食べておかなければいけない。
ロビーの横の壁にはTVが掛けられている。何気なく見上げた私は、TVから流れるニュースに目が釘付けになった。
TVでは、今朝発売された来栖秀一と姪の来栖財閥令嬢が禁断の関係にあることを暴露した週刊誌のことが話題になっていた。これは、予想していたし、当然のことだ。
私が驚いたのは、その後だ。
来栖秀一が全ての仕事をキャンセルし、姪と共に行方不明になったと伝えている。二人は肯定することも、否定することも、弁明することもなく、忽然と世間から身を隠したのだ。その行方をマスコミが必死に追っているものの、依然として分かっていないらしい。
まるで殺人事件の凶悪犯を追うかのように、マスコミは手がかりを細かく追っていた。
助かった......
これで、来栖秀一から追われる心配をすることもない。
そう思った私は、安堵の息を吐いた。
ビジネスホテルをチェックアウトした後、私が向かったのはお姉ちゃんの家ではなく、礼音のアパートだった。
鍵を開け、そっと家の中に入ると、思っていた通り礼音は部屋の隅っこで縮こまって寝ていた。お皿は空になっていたので、それを確認しホッとする。
「礼音、帰ったよ」
起こさないよう小さく声を掛け、隣に座る。
礼音は一瞬ビクッとして顔を上げ、声を掛けた主が私だと分かると安心して再び眠りについた。まるで、猫みたいだ。美しかったプラチナアッシュの名残が僅かに残っている毛先を指に絡ませながら、礼音の寝顔を見つめる。
美姫に暴露写真を送りつける前に大学を退学し、麻子や匠、勝とも連絡を絶ってしまった私に残されているのは、礼音しかいない。
礼音さえ、いればいい。
彼だけが、私の世界。
私の、唯一であり、絶対の存在。
来栖秀一が失踪したとはいえ、油断は出来ない。
私は警戒心を解くことなく、慎重にお姉ちゃんの家と礼音の家を往復する生活を続けた。けれど、以前にみたあの不審な黒い車も全く見ることがなくなったし、私のことをつけ回しているような気配もない。
私が抱いていた危機感は、たんなる思い過ごしだったのかもしれない。
そう安心した矢先、それはとんでもないことだったと思い知らされる事件が起きた。
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