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認めさせた結婚
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大和と美姫は同時に顔を見合わせて、息を呑んだ。
もちろん、ふたりにとって一番親しい友人は悠と薫子であり、そのふたりから披露宴でスピーチをしてもらうのは嬉しい。だが、それと同時に不安が芽をのぞかせる。
会場は、噂の渦中にあるふたりがスピーチをすると聞き、騒めいていた。
薫子は悠の車椅子を押しながら、前へと進んだ。自分たちに視線が集中しているのを痛いほど感じる。
美姫たちにスピーチしたいと言ったのは、私なんだ。
ここで、怖気付くわけにはいかない......
悠が薫子を見上げて、口角を上げた。
「大和と美姫を、泣かせてやろう」
薫子が一瞬目をぱちくりさせてから、微笑んだ。
「うん、そうだね」
スタッフからマイクを受け取った薫子が、悠へ手渡す。マイクを受け取り、背筋を伸ばした凛とした姿は、車椅子に座っていても以前と変わらぬ彼の上品でキリッとした空気が漂っていた。
殆どの者は前に立つ悠を視界で確認出来ないため、大型スクリーンを通して彼を見つめていた。
「ただいまご紹介にあずかりました、新婦新婦の友人の風間悠と申します。
大和くん、美姫さん。 本日は誠におめでとうございます。ご両家ならびにご親族の皆様方にも、心からお祝い申し上げます。
本日はご参列の皆様方を差し置いて誠に僭越ではございますが、友人を代表して ご挨拶させていただきます。どうぞ皆様、ご着席ください」
美姫と大和、両家の両親がそれぞれ着席する。
「私が大和くんと美姫さんと出会ったのは、中等部での入学式でした。その時、私は現在妻である薫子に密かに好意を寄せていたのですが、その隣にいたのが美姫さんでした。
美姫さんは初めて会う私にも屈託なく話しかけ、フレンドリーでありながらも押し付けがましいところがなく、人見知りな私が珍しく好感をもった女の子でした。
一方、大和くんは、美姫さんしか見えておらず私にぶつかってきた上、馴れ馴れしく話し掛ける図々しい態度に、絶対に友達にはなれないタイプだと一瞬にして思いました」
会場から笑いが溢れ、大和は「え......俺、そんな第一印象だったのか?」とショックを受けている。美姫は、申し訳ないと思いながらも、隣で小さく笑ってしまった。
「中等部で同じクラスになり、何かと世話を焼く大和くんの存在を最初は鬱陶しく思っていました。ですが、明るく、誰とでもすぐに打ち解けながら、例え仲が良くても間違ったことははっきりと言う彼の性格に次第に惹かれている自分に気がつきました。大和くん、美姫さん、私、薫子と過ごした学生時代は本当にキラキラと輝く、宝物のような時間でした。もしお二人に出逢っていなければ、私の人生はさぞかし物足りないものになっていたことでしょう。
そんな大切な友人が愛を育み、今日の日を迎えられたことを本当に嬉しく思います。お二人の晴れ姿を残念ながら見ることは出来ませんが、お二人の話や笑い声、そして会場を包むお二人をお祝いする雰囲気を感じ、感動しています。
大切な友人であるお二人の末長い幸せを、心よりお祈りしています」
大和は感動して涙を流し、美姫もハンカチで涙を抑えた。
悠は、薫子にマイクを手渡した。
「新郎新婦友人の風間薫子です。大和くん、美姫さんとは幼稚舎の頃からずっと仲良くしてもらっています。
美姫さんは、人見知りで消極的な私をいつも明るく励まし、守ってくれる、同じ年でありながらも私にとっては姉のような存在でした。学生時代、悠への恋心を打ち明けられなかった私の、よき相談相手でもありました。
大和くんは出会った時から優しくて、頼り甲斐があって、面倒見がよくて、友達でありながらも兄のような存在でした。お二人が高等部に入り、おつき合いすることになった時には、まるで自分のことのように嬉しかったのを覚えています。
私が苦しい時に、お二人にはたくさん支えてもらいました。悠と結婚し、子供を産み、そして両家に認めてもらえたことは、お二人の支えなしには成し遂げられませんでした。本当に、ありがとう」
それを聞き、会場全体からわぁっと声が上がった。
もちろん、ふたりにとって一番親しい友人は悠と薫子であり、そのふたりから披露宴でスピーチをしてもらうのは嬉しい。だが、それと同時に不安が芽をのぞかせる。
会場は、噂の渦中にあるふたりがスピーチをすると聞き、騒めいていた。
薫子は悠の車椅子を押しながら、前へと進んだ。自分たちに視線が集中しているのを痛いほど感じる。
美姫たちにスピーチしたいと言ったのは、私なんだ。
ここで、怖気付くわけにはいかない......
悠が薫子を見上げて、口角を上げた。
「大和と美姫を、泣かせてやろう」
薫子が一瞬目をぱちくりさせてから、微笑んだ。
「うん、そうだね」
スタッフからマイクを受け取った薫子が、悠へ手渡す。マイクを受け取り、背筋を伸ばした凛とした姿は、車椅子に座っていても以前と変わらぬ彼の上品でキリッとした空気が漂っていた。
殆どの者は前に立つ悠を視界で確認出来ないため、大型スクリーンを通して彼を見つめていた。
「ただいまご紹介にあずかりました、新婦新婦の友人の風間悠と申します。
大和くん、美姫さん。 本日は誠におめでとうございます。ご両家ならびにご親族の皆様方にも、心からお祝い申し上げます。
本日はご参列の皆様方を差し置いて誠に僭越ではございますが、友人を代表して ご挨拶させていただきます。どうぞ皆様、ご着席ください」
美姫と大和、両家の両親がそれぞれ着席する。
「私が大和くんと美姫さんと出会ったのは、中等部での入学式でした。その時、私は現在妻である薫子に密かに好意を寄せていたのですが、その隣にいたのが美姫さんでした。
美姫さんは初めて会う私にも屈託なく話しかけ、フレンドリーでありながらも押し付けがましいところがなく、人見知りな私が珍しく好感をもった女の子でした。
一方、大和くんは、美姫さんしか見えておらず私にぶつかってきた上、馴れ馴れしく話し掛ける図々しい態度に、絶対に友達にはなれないタイプだと一瞬にして思いました」
会場から笑いが溢れ、大和は「え......俺、そんな第一印象だったのか?」とショックを受けている。美姫は、申し訳ないと思いながらも、隣で小さく笑ってしまった。
「中等部で同じクラスになり、何かと世話を焼く大和くんの存在を最初は鬱陶しく思っていました。ですが、明るく、誰とでもすぐに打ち解けながら、例え仲が良くても間違ったことははっきりと言う彼の性格に次第に惹かれている自分に気がつきました。大和くん、美姫さん、私、薫子と過ごした学生時代は本当にキラキラと輝く、宝物のような時間でした。もしお二人に出逢っていなければ、私の人生はさぞかし物足りないものになっていたことでしょう。
そんな大切な友人が愛を育み、今日の日を迎えられたことを本当に嬉しく思います。お二人の晴れ姿を残念ながら見ることは出来ませんが、お二人の話や笑い声、そして会場を包むお二人をお祝いする雰囲気を感じ、感動しています。
大切な友人であるお二人の末長い幸せを、心よりお祈りしています」
大和は感動して涙を流し、美姫もハンカチで涙を抑えた。
悠は、薫子にマイクを手渡した。
「新郎新婦友人の風間薫子です。大和くん、美姫さんとは幼稚舎の頃からずっと仲良くしてもらっています。
美姫さんは、人見知りで消極的な私をいつも明るく励まし、守ってくれる、同じ年でありながらも私にとっては姉のような存在でした。学生時代、悠への恋心を打ち明けられなかった私の、よき相談相手でもありました。
大和くんは出会った時から優しくて、頼り甲斐があって、面倒見がよくて、友達でありながらも兄のような存在でした。お二人が高等部に入り、おつき合いすることになった時には、まるで自分のことのように嬉しかったのを覚えています。
私が苦しい時に、お二人にはたくさん支えてもらいました。悠と結婚し、子供を産み、そして両家に認めてもらえたことは、お二人の支えなしには成し遂げられませんでした。本当に、ありがとう」
それを聞き、会場全体からわぁっと声が上がった。
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